水素とヘリウムの比率


著者 高田敞

1 元素比がビッグバンの証拠になるわけ

 ビッグバンのとき、二つの陽子と、二つの中性子が結合して、ヘリウムの原子核ができた。このとき、ヘリウムになれなかった中性子は、10分ほどで崩壊し、みんな陽子になった。この陽子は、後に水素原子の核になった。    

 このときヘリウム原子核1個に対して10個の陽子が取り残された計算になるということが。「宇宙・物質・4つの力」(土井恒成訳・丸善)という本にある。

 この比率が、今の宇宙(星や、銀河や、星間空間)に存在する元素の比率と一致するというのである。すなわち、ヘリウム原子核1個に対して陽子10個の割合である。と書いてあります。しかし、同じ本の他の場所では、「宇宙で、特に年老いた星で観測された比率と非常によく合致する」とあります。「理論と観測のこのような一致は見事なもので、ビッグバン説が正しいことを示すもっとも強力な証拠のひとつとなっている。宇宙の起源に関する他の学説では、水素とヘリウムが、観測されているような比率で存在することを説明できない」そうです。


2 考察

 比較するために観測の対象になったのが、「年老いた星」とあることです。年老いた星ということは、ビッグバン直後にできた、いわゆる第1世代の星のことです。すると、この星は、少なくとも100億年は燃えていたはずです。星が燃えるということは、水素が、ヘリウムに変わることです。100億年も燃えていたら、かなりの水素がヘリウムに変わっているはずです。太陽などは100億年燃えたら、水素が少なくなって、ヘリウムが増え、赤色巨星になるという説が有力です。すると、この年老いた星は、最初は、ビッグバンのときの水素とヘリウムの比率で星ができたかもしれませんが、100億年たったら、もうすっかり、元の比率からずれているはずです。その星の比率と一致するというのは、現在の宇宙の観測結果と、ビッグバンの時の比率が一致していないということの表れです。

 このことからいえるのは、宇宙は、ビッグバンのときできた水素、ヘリウム比より、星の中で生成された水素ヘリウム比の方が合っているということです。星の観測では必ずそうなります。ビッグバンがあったとしても、それから137億年たっているのですから、星の中では水素とヘリウムの比が変わっているのは当たり前です。。

 銀河間物質の観測からなら、原初の物質の比率に行き着く可能性はあります。それでも、星の爆発によって飛び散った物質に汚染されていないという保障はありません。ビッグバンのときの比率をそのまま残しているところは宇宙の中でもそんなに多くはないのではないでしょうか。その中でも人間の技術で観測できるところは、もっと狭まるのではないでしょうか。

 科学的に信頼できる観測はまだ出ていないのでしょう。だから、これは議論になりません。憶測だから、まだ哲学の領域です。  

 

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