Y 第5章 相対性原理(狭義の)


 この章は、狭義の相対性原理に対する疑問と、正当性が述べられています。その疑問から、特殊相対性原理に結びつく疑問も少しでてきます。

 特にこの章は、第7章に結びついて狭義の相対性原理から、特殊相対性理論への橋渡しとなる章です。


1 問題1

 舞台上には、列車と軌道堤とカラスが出ています。

 一様に走っている列車の運動を、(一様な並進運動と呼ん)でいます。(〈一様〉とは、等速度で同一方向を保っているからであり、並進運動とは、列車が軌道堤に対して位置の変化をするが、回転をともなわないからである)

 カラスも同じように一様な直線運動をしているとしています。

@ このとき、質量mがKに対して等速直線運動をしていれば、第2の座標系K´に対しても同じく直線的である。

A このことから、Kがガリレイ座標系ならば、Kに対して一様な並進運動の状態にある他のすべての座標系K´にもあてはまる。ガリレイ-ニュートン力学の諸法則は、Kに対してと同じようにk´に関してもあてはまる。

B K´がKに対する自然現象はKに対するのとまったく同じ一般法則にもとづいて経過していく。

 

2 考察

 この理論は、電磁気については不十分であるということが述べられています。たしかに、ニュートン力学は、物質を対象とした理論であるから、光に対しては不十分である可能性はあります。特に、引力や慣性の法則は質量のあるものに対する論理ですから、質量のない光(電磁波)には関係ありません(相対性理論は関係していますが)。このことは7章で考えてみます。

大きい疑問が2つあります。 

⑴ 一様な並進運動

 3章で述べたように、軌道堤も、列車も、カラスも地球とともに複雑な回転運動をしています。少なくとも、同一方向とはいえないはずです。また、地球は太陽の周りを楕円軌道を描いて回っているので、速度は変化しています。太陽に近いところでは速く、遠いところでは遅くなっています。これは観測されています。また、列車が南北に走る場合、地表の自転速度が変わるので、列車の宇宙空間に対する速度は変わります。また、高低による差もあります。したがって、(一様)な運動ということもいえそうにありません。

 このように、現実の列車も軌道堤も、一様な並進運動とは程遠い動きをしているのが事実です。それを並進運動といっているのですから、相対性理論というのはそれぐらいの精度のものなのだということがわかります。

⑵ 直進運動

 また、軌道堤は、地球に沿っているので、直線ではなく曲線です。なぜなら地球は球だからです。水平線が曲がっているのが見えることがその実例です、などといまさら言わなくてもいいでしょうね。だから、これに沿って動く列車も曲がって動きます。カラスはちょっと複雑です。曲線の軌道堤に対して直線ということはどのように考えればいいのでしょうか。

 

 このことから、軌道堤を基準体にすると、3章で述べたように、どうしても宇宙が回転を始めることになります。だから地球上の現実の軌道堤は基準体にはなれません。

 ではなぜガリレイの相対性原理は存在するのでしょう。それは、ガリレイの相対性原理は、宇宙や大きな現象は、考えなかったからです。軌道堤は、短い距離なら、おおむね直線とみなせるし、そのそばに立っている観測者は、軌道堤といっしょに同じ速度で動いているので、軌道堤が静止しているとみなせるからです。これは3章で述べたように、同じ慣性運動をしているものの間の相対的な静止です。長いあいだ天動説を人々に信じ込ませた見掛けの静止現象です。しかし、上に書いたように、地球の運動は直線ではないので、ガリレイ座標と現実の現象との間に微小な違いをもたらしてはいます。その違いは微小なので、小さな現象では顕著な違いとして現れません。風の影響のほうが大きかったりするのです。だから、小さな現象は、確かに静止しているときと同じ動き方をしているように思えました。

 しかし本当にそうでしょうか。アインシュタインはこのことを。次のように言っています。


3 問題2

(地球の瞬間的な運動方向が自然法則に入り込み、したがって物理系の挙動は地球に対する空間的方位によって決まるということになると、これは相対性原理が適用できないばあいとなろう。・・・しかし、・・・地球上の物理空間のこのような異方性、すなわちそれぞれの方向が物理的に等価でないとすることは、どうしても観測からはでてこなかったのである。)そして、パイプオルガンをその例に挙げています。(パイプオルガンの軸をその走行方向に平行に置いたときと垂直に置いたときとではその音色が異なると考えられよう。)


4 考察2の1

 たとえば、ピサの斜塔から鉄の玉を落としたら、まっすぐ下に落ちる、といわれている現象を考えてみます。本当にそうでしょうか。私は、厳密には、この鉄の玉は、地球の中心に向かって東側に少しずれると思います。まっすぐ落ちないということです。ピサの斜塔の天辺は、地面より少し速い速度で地球の周りを回転しています(一周で高さ×2π分)。天辺と、地上のこの速度の差が、鉄球を少し東側にずらせます。これと同じ原理で、気象現象が起こっているのが観測されています。偏西風とか、貿易風です。これは緯度によって、地表の回転速度が違うので、風が南北方向に吹くと風と地上の速さが違ってきて、方向が変わってしまうのです。これは地球の自転の影響です。

 また低気圧や高気圧の風が回転するのもこれが原因です。

 また、北半球の同じ場所から、ボールを真北と真南に投げてみます。人間の力では差は出ませんが、機械で発射して、何百キロも飛ばすと、北に飛んだボールは地表に対し東にずれていきます。南に飛ばしたボールは、地表に対し西にずれていきます。南半球で同じことをやると、ずれる向きは反対になります。大きな距離だと、違いが出てきます。これも地球の自転の影響です。もちろん風の影響のほうが大きいでしょうが。

 同じように、ボールを真上に打ち上げます。すると、ボールは元のところには落ちてきません。理由は、発射台と、ボールの横方向への速度は同じですが、移動する場所の距離が違っているからです。地表は、地球の円周です。しかし、上空は地球を一周するためには長い距離になります。ボールが横方向に発射台と同じだけ動いても地表に遅れをとってしまうのです。トラックで走っている人が、同じ速度なら、コーナーの内側の人が外側の人より前に出るのと同じ原理です。どんどん打ち上げ速度を上げていくと、やがて落ちてこなくなります。人工衛星になってしまいます。

 人工衛星を打ち上げるときは、できるだけ、赤道に近いところから、東向きに打ち上げると、エネルギーの節約になるということも、軌道堤が、方向によって違う運動エネルギーを持つということの例です。東向きのほうが、地球の自転の速度をもらうのでロケットの速度が速くなるのです。西向きだと、ロケットは自転の速度を引かれるので、エネルギーの小さいロケットでは、うまく軌道に乗れず、落下してしまいます。他の惑星にいく場合は、地球の公転の向きを考慮しなくてはなりません。公転速度は、30km/sですから。向きによっては、大きな違いが出てきます。〈注:これは物体の運動は相対的ではなく、絶対的であることを示唆しています〉これらは、地球の場所や、方向によって運動に違いが見られる例です。

 このことから、アインシュタインの言う(地球の瞬間的な運動方向が自然法則に入り込み、したがって物理系の挙動は地球に対する空間的方位によって決まるということになると、これは相対性原理が適用できないばあいと)なってしまうのです。

 このことから、(地球上の物理空間のこのような異方性、すなわちそれぞれの方向が物理的に等価でないとすることは、どうしても観測からはでてこなかったのである。)という結論は、明らかに観測不足からだということがいえます。

 地表は等速直線運動をしていないのですから、慣性の法則が厳密に当てはまらなくて当然なのです。慣性運動と、万有引力の二つが結びついた運動をしているのですから、単純に、慣性系だけで考えることはできないのです。すなわち、観測不足だけでなく、思慮不足ということも言えるのです。まあ、アインシュタインの相対性理論というのはその程度の精度のものみたいです。

 しかし、これをもってガリレイの相対性原理が破綻したということではありません。これはたんに地球が等速直線運動をしていないから現れる現象です。軌道堤が慣性系を厳密に満たしてしていないだけです。要するに理論に合った実験装置ではないということだけです。

 

5 考察2の2

 (パイプオルガンの音色)はどうでしょう。

 音は空気を振動させて耳に伝わります。空気が媒体です。空気は基本的に地球とともに回転しています。軌道堤が地球とともに回転しているのと同じです。したがって、列車がどの方向に進むのもたいした違いがないのと同じように、音もどの方角に進んでも違いは現れません。これは音速で飛ぶジェット機の中でも普通に話せるのと同じ原理です。それは、話す二人のあいだの空気は二人にとって静止しているから、その空気を震わせると、二人の間の空気に対して秒速340メートルで伝わっていくからです。ジェット機の速度はこの伝播に影響を与えません。だから、後ろの席の人が、前の人に話しても声は普通に届きます。外の人を基準にすると、飛行機の前方へは、〈前方への声の速度〉=〈飛行機の中の空気の速度〉+〈340m〉、飛行機の後方へは、〈後方への声の速度〉=〈飛行機の中の空気の速度〉−〈340m〉となります。声は飛行機とともに飛んで行っているのです。

 実際、赤道は、音速で自転していますが、西から東に話しても普通に話は届きます。これも同じ原理です。この章で、アインシュタインが言うように、秒速30kmで地球が公転していても、話が、普通にできるのも、同じ原理です。秒速340mの音が、秒速30kmの地球に後れを取って、宇宙空間に置いてけぼりを食らうということはないのです。空気が地球と同じ速度で動いているのだから音源と、耳とのあいだにある、空気は静止していると考えられます。だから、公転は音の伝わり方には影響しません。

 したがって、パイプオルガンの(音色が異なると考えられよう。)という考え方は間違っています。音色は異ならないのです。だから、このことから、地球上で相対性原理は適用できるとすることはできません。地球の動きと音色は関係がない事柄なのですから。

 アインシュタインはなぜこのようなことを考えたのでしょう。もし音が地球の速度に影響されるなら、たかだか、秒速340mくらいの音が、秒速30kmの地球に追いつくとでも考えたのでしょうか。音色の問題どころではないでしょう。

 これは、音を絶対速度として考えている節があります。光だけ絶対速度であるという、特殊相対性原理からすると変な話です。音も、光と同じように波であるということから考えたのでしょうか。

 アインシュタインはこのことを知っていたはずです。その一点は、天動説を主張していた人たちが、もし、地球が動いていたなら、自転のために、大風が吹いているはずだ、とか、物が真下に落ちるわけはないと言っていたのを、ニュートンが、慣性の法則で解決したはずです。また、音が空気を媒体にして伝わることも知っていたはずです。 なぜなら、光がエーテルというものを媒体にして伝わるという説がそれまで信じられていた理由を知っていたはずだからです。波は媒体がなければ伝わらないという考え方です。そして、そのエーテル〈媒体〉の速度を調べるのに、光の速度の変化を調べることで間接的に見つけようとして実験したのも知っていたはずです。だから、パイプオルガンの音が空気の動き〈風〉に影響されても、地球の自転には影響されないということを彼は知っていたはずです。素人の私でさえわかるのですから。

 彼はなぜこのようなことをいっているのでしょうか。もともと異方性は出るわけはないと分かっている音の現象を言うことで、同じ波である光にも異方性はない、だから光は何物に光速度である、ということを言いくるめるためなのでしょうか。

 

6 問題3

 第2の議論として、(相対性原理(狭義の)があてはまらないとしたら、・・・・自然現象の記述に、同等の価値を持つわけにはいかない)とあり。その結果、(特定の運動状態にある)物を選び取り、(これを、〈絶対静止〉座標と記し、他のガリレイ座標系を〈運動している〉とするのが正当であろう。)

〈考察〉

 (相対性原理(狭義の)があてはまらないとしたら)というのは特殊な仮説です。この仮説が正しいとする論拠は示されていません。したがってこのことを前提とした、ある運動状態を、(〈絶対静止〉座標と記)す事も特殊な仮説にしかすぎません。

 運動しているものを絶対静止とすることはできません。運動しているものは運動しているのです。それはどんな場合でも、相対静止にしかすぎません。

 これは、まるで根拠のない仮説を立てることによってのみ、正当化される仮説です。疑似科学の典型です。


7 問題1,2の結論

 以上のことから、(地球上の物理空間のこのような異方性、すなわちそれぞれの方向が物理的に等価でないとすることは、どうしても観測からは出てこなかったのである)ということが間違いであることが分かります。これは、彼の言うように、(相対性原理にとって有利な重大な論拠である)ではなく、相対性原理を証明するには、あてはまらない実験であるから、これをもって相対性原理を云々することはできない、ということになります。

 地球を〈絶対静止〉座標として便宜上考えても不都合が生じないのは、小さな実験室の中の小さな実験だけに限られます。それでさえ、厳密には近似値に過ぎないということです。

 重大なことは、根拠のない仮定を持ち出して、動いているのに、絶対静止であると言い出したことです。他は、そのための目くらましです。

 

8 問題3

 相対性原理について、もう少し考察します。


9 考察3

 Kは、(ガリレイ座標系のうち基準体として特定の運動状態にある)というので、一様直線の慣性運動をするものなら何でも基準体になりえるということです。すると、Kが秒速50kmなら、宇宙全体が、秒速50kmでKと反対方向にうごくことになり、Kが秒速1,000kmなら、宇宙全体が秒速1,000kmで反対方向にうごくことになります。Kの方向と速度によって宇宙全体の動きが左右されます。天動説と同じ原理です。なぜ、宇宙全体から考えると、ほとんど無に等しいほど小さい基準体の速度と方向で、宇宙全体の方向や速度が変化するのでしょう。そのエネルギーはどこから生じているのでしょう。

 

 (古典力学は、・・・非常に意味のある真の内容を持っているとしなければならない。というのは、天体の実際の運動を驚くほどの明快さを持って与えているからである)とこの章で述べています。宇宙空間にも相対性原理が通用するかのようです。しかし、古典力学は、絶対座標です。天体の動きは、絶対的動きとして考えています。地球に対する相対的動きとして考えているように見えますが、地球も動いているとして考えています。まして、地球上の軌道堤を絶対静止としては考えてはいません。

 たとえば、星と星の回転運動も、相対的な動きとして考えています。互いの重心を中心にして、互いに引力によって楕円運動をしているのです。アインシュタインのように、どちらかの星の上にくっついている軌道堤を絶対静止とは考えないのです。絶対静止空間の中を互いに関係しながら動いているとして考えています。

 したがって、Kから考えられることは、Kに対する相対的な動きだけであって、ものの絶対的な運動ではないのです。

    表紙

Z 第6章 古典力学にもとづく速度の加法定理