V 全体としての世界の考察

第30章 ニュートン理論の宇宙論上の困難

1 問題

 宇宙の構造に対して、アインシュタインは、天文学者ゼーリーガーの理論を採用し(大数平均では全体にわたって同一である。言い換えれば、宇宙空間をいかに遠くまで旅しようとも、およそ同じ種類で同じ密度の恒星のまばらな群れが見つかるはずである。)と述べている。そして、(この見解はニュートン理論とは結びつかない。) (ニュートン理論はむしろ、宇宙には一種の中心があって、そこでは星の密度が最大になり、この中心から遠ざかるにつれて星の密度が減少し、遠い外方では無限な空虚にその座を譲ることを要求する。)といっている。

2 考察

ア 一般相対性理論の証明にならないこと

・ 後日、他の科学者が、一般相対性理論でも、やはり、宇宙は収縮するか、発散するかになるという計算がなされています。

 それを持ち出すまでもなく、アインシュタイン自身も、太陽系について低速、低密度だから、ほとんどは、ニュートン理論に近似すると言っています。彼の言うには水星の軌道だけがほんの少し違っているということでした。そして、宇宙は太陽系と同じように、(およそ同じ種類で同じ密度の恒星のまばらな群れが見つかるはずである。)のですから、宇宙は、太陽系と同じような重力と、速度を持っていると考えられるということです。ということは、宇宙はニュートン理論で考えても、一般相対性理論で考えても同じになるということです。
 このことから、ニュートン理論で考えた宇宙像は、相対性理論で考えた宇宙と同じになるということです。違いは明確に現れないはずです。実際、今のところ、観測されている宇宙は、ニュートン力学で考えてぴったりみたいです。ビッグバン宇宙などのように、今の科学では説明できない現象をもとにできている理論もありますが、それはたんに理論にしか過ぎません。現象として確認されたものではありません。

・ 中心を持ち、(そこでは星の密度が最大になり、・・・遠い外方では無限な空虚に・・・星の世界は、空間という無限な大洋に浮かぶ有限の島を形成する)

{ ※ アインシュタインは、この本を出した当時、銀河の存在を知りませんでした。人類はまだ、銀河系のごく一部しか観測できていませんでした。そして、それが全宇宙と思われていました。}
 これは現在観測されている、宇宙の構造にそっくりです。

 今のところは果ては観測されていない広大な宇宙空間に、銀河という島宇宙が無数に浮かんでいる姿は、このニュートン力学に合っているかもしれません。したがって、このことからニュートン力学が事実に合わないということはできません。もちろんニュートン力学に近似である一般相対性理論もこの姿を計算できるでしょうから、このことを持って、相対性理論を云々できません。 

 ただ、宇宙は、星など人間の目に見えるものより、見えない物質のほうが多いことをアインシュタインが問題にしていないのは手落ちになります。現在ダークマターとかいう不思議の物体が取りざたされていますが、(相対性理論から要請されています)それは、地球大気の水素によって見えなくなっている宇宙に充ちている水素原子や水素分子だと思います。あまりにも希薄すぎて人間の観測技術では見えないだけです。それが占める空間は、星の占める空間よりはるかに大きいのですから、いくら希薄だからといっても その量は星よりはるかに膨大になるはずです〈これは私論ですが、星ができる場所の観測などを見ると、空間にある物質の量は相当なものであることがわかります〉。

・ ビッグバン宇宙論

 宇宙は、もとは一点に固まっており、そこから大爆発をしたという理論が現在の宇宙論の主流になっています。その原理は一般相対性理論を基に考えられています。

 アインシュタインの意思に反して、一般相対性理論では、宇宙には中心があり、そこで爆発があったということです。

イ 本当は、ニュートン力学では宇宙は均一になるしかない

 アインシュタインは、ニュートン力学では、宇宙に中心ができ、そこに物質が集まると述べていますが、そんなことは決してありません。

 @ 宇宙空間に二つの物質が離れてある場合。

 互いの万有引力であっさりくっつきそうですが、そうではありません。基本的にはこの物質はくっつきません。

 理由は以下のとおりです。

 引力でふたつの物質は近づいてやがて衝突します。ところが、そのとき引力によって物体に生じた運動エネルギーによって、ふたつの物体は跳ね返り、元の位置まで戻ります。〈エネルギー保存則・位置エネルギー〉

 永久にこの繰り返しです。

A 無数の物質が宇宙空間に離れて存在する場合

 離れて存在する宇宙空間の物質も、二つの場合と同じように必ずもとの位置に戻るのが原則です。だから一点に集まりません。

B 実際の宇宙に照らしてみる

 ビッグバン論と違って、宇宙の物質が最初に離れて生まれた場合は宇宙の物質は永久にばらばらのままです。宇宙にほぼ均一に散らばっている、原子はそのままで、星や銀河に凝縮することはありません。分子にさえなれないかもしれません。したがって、何千億年たっても、星も銀河もない、ただ原子だけが漂っている宇宙になります。現実の宇宙とは見た目がかなり異なります。それを解く鍵は熱エネルギーです。

 自然界の場合、衝突すると、運動エネルギーの一部は必ず熱エネルギーになって放射されます。衝突のエネルギーの一部が、熱エネルギーになって放射されると運動エネルギーの損失が生じ、物体は元の位置にまで戻れなくなります。ボールを落とすと、元の位置より低いところまでしか跳ね返らず、やがて地面に落ちてしまいます。これも同じ原理です。位置エネルギーが熱エネルギーになり、地球と、ボールがくっついたのです。

 実際の宇宙で、銀河が形成されるときや、恒星が形成されるときに、物質の持っていた位置エネルギーにより生まれた運動エネルギーが、ジェットの形で宇宙空間に放出されているのが観測されています。放出されるエネルギーの顕著な例です。

 そのほかにも位置エネルギーは、さまざまな電磁波となって放射されています。

 位置エネルギーが、運動エネルギーに変化し、それが熱エネルギーなどになって宇宙空間に撒き散らされることによって、物質は凝縮し、星や銀河や、銀河団になっています。

 このために、今の宇宙は多くの銀河や星があるのです。

C すべての物質は、一点にくっつくか

 上のようなことから、長い間には、すべての物質が、万有引力にともなって物質の持っている位置エネルギーが運動エネルギーに変化し、それが熱エネルギーなど他のエネルギーに変化することによって一点にくっついてしまいそうです。これでは今の宇宙とまるで違う宇宙になってしまいます。

 本当に、やがて宇宙の物質はみんなくっついてしまうのでしょうか。今の宇宙の姿はその過渡期に過ぎないのでしょうか。それでは、このほとんど均一な宇宙を説明するのに、たまたま、その時期に遭遇したという偶然に頼るしかなくなります。

 そうではないと思います。ちゃんとした理由があるからこそ今この宇宙はほとんど均一な状態になっているのだと思います。

 そこで、発散された熱エネルギーを考えてみます。

 物質はその持っているエネルギーのため、つねに勝手気ままに動いています。いわゆるエントロピーの増大現象です。発散された熱エネルギーは宇宙の物質の温度を上げます。すると物質は、もらったエネルギーのぶんだけ、運動量を増加させます。その結果物質の拡散する力は大きくなります。

 宇宙全体で見れば、万有引力によって凝縮するところもあれば、その結果放出されたエネルギーを受け取って、拡散しているところもあります。宇宙全体の万有引力のエネルギーの出入りの総量は変化しないので、宇宙はいつまでもこの繰り返しで、元の大きさから、ふくらみも縮みもしないのです。ただ混ざるだけです。したがってほぼ均一になることになります。〈これも、エントロピーの増大現象です〉今宇宙がほぼ均一であるという意見に合います。

 これは目に見える星や銀河や銀河団というものだけを宇宙の物質と見ると、かなり不均一に見えますが、目に見えない物質を考えると、かなり均一になります。もちろん濃淡はつねにあります。

 ※ 参考私見

 {ビッグバン宇宙論では膨張しているということですが、この根拠はあまりにもあいまいです。少なくとも、太陽系ができて46億年の間に、この太陽系が膨張したという事実はその痕跡すら観測されていません。銀河系ができてから、100億年の間に、銀河系が膨張したという形跡もありません。宇宙全体が、0から今の大きさに膨張した期間が約140億年だそうです。すると、銀河系は元の大きさの1と、140分の100倍すなわち、約1.7倍に膨張していなければならないはずなのにです。太陽系だって、元の大きさの、1と140分の45倍、約1.3倍の大きさになっているはずです。それだけの膨張があったはずなのに何一つその痕跡を残していないのです。ビッグバン説の人たちは重力のため太陽系も、地球も、銀河系も膨張しなかったと述べています。何千億もの銀河を、巨大な重力を持った銀河団さえも、100億光年、200億光年の先までばらばらに運んだビッグバンのエネルギーが、針で突いた点ほどにもならない地球の近辺だけは、何の影響もしなかったというのです。針1本動かさなかったのです。ものすごい奇跡です。

 そればかりではありません。人間がほぼ正しく観測できるこの周り100万光年ほどの宇宙空間にも、宇宙膨張の直接の現象はただのひとつも発見されていません。また、宇宙はどこも、このあたりと変わらないという理論が正しければ、このあたり100万光年の宇宙が膨張しなかったように、宇宙のどこも膨張しなかったことが類推できます。膨張できたところは、ごくまれに、普通ではなかった場所だけだということが考えられます。

 ビッグバンの根拠は、星の光のドップラー現象だけです。それも、観測誤差のほうが大きいといわれるほど遠い銀河の光だけです。たったそれだけなのです。

 観測誤差が小さくなるところでは現象が現れず、遠くて観測誤差が大きくなると少しだけ現れる現象を根拠にしてビッグバン論は成り立っています。もちろん、この選択的に宇宙を膨張させるエネルギーは謎の力です。先に述べた、宇宙を均一に保つ力が万有引力と位置エネルギーの変遷で成り立っているのとは違います。

 だから、ビッグバン論は矛盾だらけです。矛盾を解消するために作り上げた理屈は更なる矛盾を生んでいます。だから、いつのまにか、宇宙は謎の力や謎の物質に満ち、超超光速で膨張しなければにっちもさっちもいかなくなったのです。

 現在、ビッグバン宇宙論を支持している人がほとんどです。しかし、支持者が多いということはそれが正しいということではありません。支持する人たちが偉い学者たちであるということも、それが正しいということとは完全に無関係です。矛盾が解決され、論理と事実が一致する確たる証拠が積み上げられたときにだけ初めて定説になります。それでさえも覆ることがよくあるものです。

 なぜ、ビッグバン説を取り上げたかというと、ビッグバン説は相対性理論を柱に組み立てられているということからです}

 

D いつからばらばらになったか

 ビッグバン宇宙論仮説では、137億年前に一瞬で全宇宙が始まったといわれています。

 定常宇宙論仮説では、大昔です。いつのころからわからない昔から、真空中にぽつぽつと、物質がばらばらに生まれて、少しずつ増えていき、今の宇宙の構造ができたといいます。この説ではほぼ無限に昔です。そして、少しづつ増えていき、最初からばらばらです。

 このことから考えると、ビッグバン宇宙は、物質はもとの一点に戻りそうです。先ほどの離れた物質が元に戻るのと同じ原理です。爆発のエネルギーが重力なら、自身の重力を超えるエネルギーを出すことは不可能だから必ず元に戻ります。ただ、ビッグバンのエネルギーは、重力ではなく、現代科学では、どんなものかさえ想像すらできないエネルギーだそうですから、(現在までに見つかっている4つの力以外の力のようです)宇宙自身の重力圏を脱して、拡散していく可能性はあります。そのときはすべての物質はばらばらになるだけです。重力以外の全宇宙の持っている万有引力のエネルギーに匹敵する、あるいはそれを超えるエネルギーが最初に加えられたのだから、このエネルギーは、保存されて、いつまでも宇宙の中の物質の運動に影響します。物質の動きを万有引力だけにするなら。必ず元の状態に戻るのが基本だけれど、それ以外のエネルギーが加わったのだから、そのエネルギーの分、元の位置から必ず離れてしまいます。もう、元には戻れないのです。

 定常宇宙論では、いつまでもこのままです。膨張も収縮もしません。混ざるだけです。新しい物質が真空中から生まれ続けていても、同じです。その生まれた質量の分しかエネルギーを持っていないからです。それは拡散と収縮が等しくなるからです。

E (〈宇宙空間をいかに遠くまで旅しようとも、およそ、同じ種類で同じ密度の恒星のまばらな群れが見つかるはずである。)

 この状態が本当とするなら、上に述べたように、ビッグバン説より、定常宇宙論説のほうが、より近いと思われます。

 

 アインシュタインは恒星を問題にしていますが、宇宙は、目に見える恒星や銀河ばかりではなく、目に見えない、原子や、分子や、もっと小さい、ニュートリノや、光子が飛び回っています。

 恒星の占める空間より、恒星のない空間のほうがはるかに大きいことから、宇宙の物質は、目に見える恒星より、目に見えない物質のほうがはるかに多いことが想像できます。宇宙全体の姿は、目に見えない、原子や分子に満たされそのごく一部が、恒星になっているに過ぎないのではないでしょうか。

 星や銀河は、水の中に漂っている、少しのごみくずのようなものと考えてもいいのではないでしょうか。それが重力を中心とし、他の3つの力(強い力、弱い力、電磁気力)も加わってかき回されているのです。

 目に見えることばかりに心を奪われては、物の本質に迫れないでしょう。
 ただ先に書いた余蘊、アインシュタインの時代はまだ銀河は発見されていませんでした。

 

 表紙
第31章 有限だが境界のない宇宙の可能性