エイサはそのままシモーンの所に住み着いた。
帰るエイサを、シモーンが引き留めたわけでもない。エイサが残 りたいと言ったわけでもない。前から話し合っていたように、ごく 自然にそうなった。エイサは、一日中立体テレビを見てごろごろしていた。そのくせ、 もっとおもしろいはずのサイコビジョンには手を触れなかった。そ れだけではなく、彼が宇宙へ出かけた後にできたものには一切手を 触れなかった。
夜になると、エイサはシモーンと一緒に眠った。一緒に眠っても、 エイサは自分からはシモーンを求めることはなかった。
シモーンはエイサを裸にして、愛撫する。しかし、日毎にエイサ はそれにも答えなくなっていった。エイサは、病気になりかかっている。シモーンが週に二回、定め られた仕事に出かける病院にもそういう人々がいた。生きていこう とする力がまるっきり身体から抜けてしまっているような人たちだ。
以前から、そういう人たちが増えていることはニュースでも報道 されていた。生きがいの喪失、そう解説されていた。だから、人々にもっと働く機会を与えて、その喜びを味わわせなければならない ということだそうだ。
(2章の2おわり、2章の3に続く)
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