空いっぱいに蝉時雨第12章の4
 エイサは夕方になって帰ってきた。疲れ切った様子だった。その様子を見て、 朝からの怒りをぶつけようと思っていたシモーンは口をつぐんだ。エイサは、 自分とイーシャのために走り回ってきたのだ。 「だめだ。偏屈で、話のわからん奴らばかりだ。」
「何人も、同等の権利を有するってのを忘れちまってやがる。人を能力で分け れば強いものしか笑えなくなるってのを忘れてやがる。今まで、そのために弱 いものがどれだけ泣かされてきたか、少しは歴史を勉強すればいいんだ。いく ら話してもわからないんだから、あいつらは。人類の未来がかかってるんだと か、乗れる人間は限られているし、一人一人が着実に任務を果たせなければならないとか、まして足手まといになっては他の隊員にも負担がかかるとか。ま あ言うことはいうよ。」
「シフス、いいわ。私行かない。あなた行ってらっしゃい。」
「いや、そうはいかない。このことが無いときならそれでもいい。だけどこうなったらだめっだ。行ったら俺まで差別を認めることになる。国の政策 でティーチングしといて、病気になったからだめだなんて、そいつは少しふざ けすぎてるだろ。間違ったのは、こっちではなくて向こうなんだぜ。」
「仕方ないのよ。」
「いや、人が社会にどれだけ貢献できるかで、人を判断するなんて古典主義は 許しちゃだめだ。個人的に価値基準を持つことは仕方ないが、公の機関が、あ っちよりっこっちの方が人の価値が高いなんて決めるのは許しちゃだめだ。」
「それはそうだけど、こういう場合は仕方ないんじゃない。」
 シモーンは、エイサのけんまくに押されて少しおろおろ言う。
「いや、すべての場合に例外を認めちゃだめなんだ。その例外は、必ず弱い者 が抹殺されるときなんだから。権利を奪い、尊厳を踏みにじるために、例外を つくるのだから。」
「今度のことも、ノンティーチングに限定すること自体おかしいんだ。こうい うことは、特に人類から選抜された者がやるべきではないんだ。人類が寄り集 まった集団でこそやるべきなんだ。あらゆるものが含まれていることが生き残 るためには最高の条件なんだしな。それはおいても、希望者全員でやるか、乗 れないなら抽選すればいいんだ。それが妥当ってものだろ。特に今は乗員が足 りないんだぜ、希望者全員を乗せない理由はどこにもないぜ。」
 エイサは相当に頭にきていたのだろう。次から次へとしゃべり続ける。

   


(12章の4おわり、12章の5に続く



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『妹空並刻』