三日後、約束通りエイサは宇宙局へ申込書を送った。その日のうちの返事は、二人は登録されたこと、イーシャはだめだったことを告げていた。
「やはり機械じゃだめだ。」
「もう一度条件をはっきり入れるのよ。」
「よし。」
二人は、端末機の前に半日座って、宇宙局のコンピューターとやりあった。
だが、答えは変わらなかった。
「機械はだめだ。」
そして、エイサは何カ所かに電話をかけた。しかし答えは皆、似たり寄ったりだった。その子は、宇宙飛行は無理だから、諦めろということだった。中には、病院に任せて、自分たちだけで乗るのが一番だよ。自分たちで世話するより、病院に任せる方が行き届いているよと、忠告まがいの事を言う人もいた。 その話の中に、彼の知っている人のだれそれが、やはり同じ病気だという話があった。それも一人二人ではなかった。そのたびにエイサは、ことばをうしなった。
「かなりひどい。」
「自分に降りかかってこないように、ただじっと待ってるんだ。避けられない死を待ってるように。あきらめと恐怖。怖いだろうな」
それでも、次の日、エイサは宇宙局に出かけて行った。
シモーンは家で待った。自分も行きたかったのだが、前日ほとんどほったらかしにしていたイーシャが、朝から機嫌が悪く、いらだっていたので行くのを見合わせた。
エイサが出かけた後も、シモーンはしばらくぐずぐずしていた。イーシャの部屋に行くのがおっくうだった。イーシャがいらだっていることもひとつだが、エイサに知られているということが心に引っかかっていた。それでも行かなければならない。行けば、必ずイーシャは求めてくるだろう。それを自分も求めていることが、今日はひどく辛い。シモーンはシャワーを浴びると、ガウンを羽織る。ソファーに座ると、ワインを出す。半分ほど一気に飲むと、イーシャの部屋のロボットにイーシャにシャワーをさせるように言う。
シモーンはゆっくりとワインを飲みながら、イーシャがシャワーを終わるのを待つ。身体が少しずつ興奮していくのを感じる。そのことが自分を苦しめているのを知っている。どうして良くないの。居直ってみても、罪悪感は拭えない。
二杯目のワインを飲みながら、イーシャの部屋の映っている液晶板を見る。イーシャが満足そうにシャワー室から出てくるところが映っている。裸のままだ。その後どうなるかをイーシャはなぜか覚えている。その喜びが身体を生き生きとさせているのがわかる。
グラスに残ったワインを一気に飲み干すと、シモーンは立ち上がる。映像のスイッチを切りながら、「あっ。」と小さく声を出す。エイサは、これで見たのだと思う。スイッチを入れさえすればだれでも二人の様子を見られるのだから。恥ずかしさに顔が火照る。今まで一度もそのことを考えなかった。シモーンは、もう一度スイッチを入れる。何もかもすべてが見える。シモーンは、映像を無意識にアップにしていく。裸ではしゃぎ回るイーシャが画面いっぱいに広がり、もっと広がり、顔だけが大写しになる。
シモーンは、両手で口を押さえてその画面に見入る。こんなふうに見ていたとしたら。そんなの卑怯よ。シモーンの身体が震える。身体中が上気している。カメラは、興奮気味のイーシャの顔を追い続けている。
黙って見ていたなんて。怒りがこみ上げてくる。見たければいくらでも見るがいいんだわ。シモーンは、わざわざスイッチを消さずに部屋を出た。その小さな液晶板は、シモーンが、イーシャに話しかけるのを映し出す。ガウンが滑り落ち、イーシャが飛びつくように抱きついていく。そして、部屋のひとすみで抱き合っている二人を、いつまでも映し続けて光った。
(12章の3おわり、12章の4に続く)
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