シフスとリサは、レーダーを操作していた。画面には、いくつかの斑点が浮かんでいた。その中で、かすかに動いているらしい点を指で触れる。飛行機が浮かんで、ふっと消える。
「違うな。向きが違う。」
二人は、先ほどから、画面の動くものをそうやってよびだしている。それは、たいがい、波であったり、雲であったりした。時たま、氷山が映った。
「大丈夫みたい。」
「まず第一関門は突破だな。」
絶対にレーダーに映らない機体を造ったのだが、その資料が、最後の冷戦 のものだったので、今もまだ通用するか非常に疑問だった。最新のものを探 したのだが、そんなものはなかった。そもそも、それ以降、武器という武器 は開発されていないのだから。
「まだわからないわ。あいつは、あれくらいで騙されるほど馬鹿じゃないで しょ。」
「そうだよな。」
「ばれたら、即こっちも攻撃されるかね。」
「そりゃそうよ。」
船が、大きく波の谷間に滑り込んで船首が高くしぶきを上げた。空には薄 明かりがいつまでも残っていた。
「あいつは何で来るかね。レーザーかね、それとも電子とか。」
「さあ。わからない。ま、わかったところで防ぎようはないわね。」
二人は、レーダーの中に、こちらに接近してくるものがないか無意識に探 している。 「これに映るような、へたっぴーなことだけはしないでしょ。」
「そりゃそうだな。おそらく、人工衛星か何かから、ビシッと来るだろな。」
「ま、運を天よ。どっちにしろ、一瞬で蒸発してしまうでしょうから、痛くもかゆく もないわよ。」
シフスは、背中を汗が流れるのを感じる。ひどく寒い。
「んだな。考えても始まらん。コーヒーでも飲むか。」
立ち上がろうとしてシフスは壁に倒れ込む。船はまた大きな波にぶち当た った。
「くそ。痛てえ。」
手すりに捕まってもがいているシフスを見て、リサは笑う。
「やばいな、低気圧か。」
「かも、だいぶ雲が出てきたから。それくらい気をつけて見とくものよ」
「船は大丈夫か。」
「さあ。どっちでやられるか競争ね。」
船はときおり大きく波に乗り上げ、それから落ち込む。メーンセールを下 ろしていたが、それでも船は疾走していた。
「出てからどれくらいだ。」
沈黙に耐えられずにシフスが聞く。
「1時間27分。」
「まだそんなか。」
「あと八時間よ。」
「何事もなければな。」
何事もない。そんなことがあるわけがない。シフスは思う。八時間以内に強烈な攻撃を受けるということ。こんな船などひとたまりもないはずだ。
「だめよ、もう逃げられないわよ。ここから攻撃機が出たのはお見通しよ。 あと八時間でこの世とお別れよ。」
リサはこともなげに言う。シフスが怖がるのを楽しんでいるように。
いや、あと1時間かもしれない。10秒後もあり得る。メーンコンピュー ターが、攻撃されたと見なしたときにすべてが終わる。シフスは身震いする。
「こんな時はどうしたら一番か知ってる。」
「いや。」
「寝るのよ。」
「眠れるわけないだろ。」
「ばっかね、そんなの当たり前でしょ。」
「なんだ、そういうことか。悪いが、俺はそういう趣味はないね。」
「あるかないか試してみなけりゃわからないじゃない。大丈夫よ。完全に女 なんだから。」
リサがふっと笑う。
船は、もう立って移動できないほど波に翻弄されている。
(11章の3おわり、11章の4に続く)