次の日、朝から四人は忙しく働いた。機体と、ミサイルの総点検を行った。 それから、攻撃のシュミレーションを二度繰り返した。
昼前にはだいたいの準備は完了した。あとは運び出して、出かけるだけだ。
四人は早目に昼食をたべた。航海用気象通報が、低気圧の接近を告げてい た。
「どうする。明日は嵐だぞ。」
「どうってことないよ。」
「そのころにはけりがついてるさ。」
「シャボン玉は、きれいに光った、ってわけさ。」
「風が変われば、俺たちも一気にハーグまで行けるかもしれんな。」
だれもそんなことは信じていない。シフスは思う。俺たちがハーグにしろ、 そのほかの、どこかにしろ、もう一度陸地にもどれるなんてだれも思っていないこ とを改めて感じる。そう、この計画のすべてがシャボン玉なんだと、いよいよ最後の時になった今、はっきりと実感する。三時になった。低気圧の影響はまだなく、波は穏やかだった。空の高見に、 絹雲が吹き千切られた羽毛のようにへばりついている。
「さて、やっつけてくるか。」
ハンが言う。
マストを利用して、ホーバークラフト吊り上げる。ミサイルを同じように吊り上げ、装着する頃には太陽は水平線の上で、ぼんやり光っていた。風が冷 たく吹き抜けていった。
「さて行くか。」
クトウが言う。
「まだいいわよ。」
リサが言う。
「そうさ、せいてはことを仕損じるとは昔のことわざよ。」
ハンもにやりと応じる。
風が氷のようなしぶきを投げつけ、安定の悪くなった船をよろめかす。
「少しうねってきたか。」
「まだ大丈夫だろう。」
「まあ、飯でも食おう。」
「そうだな、うまい飯が食えるのもこれが最後かもしれんからな。」
だれもそれには答えない。髪を濡らした波しぶきが痛いほど冷たい。
船室に降りると、暖かくやっと人間らしい気分になる。それでも息は白い。
「さてと、お別れだ。」
ワインのグラスを差し出してハンが言う。他の三人もそれに合わせる。
「いや、成功するさ。」
「とにかく、ハーグ島で待ってろ。シャボン玉が飛べば軽くなるから、乗り切れるから、4,5日あれば迎えにいけるはずだ。」
「行き着ければな。待ってる。ほかに方法がないものな。攻撃成功の連絡が ない場合は予定通りそのまま逃げ出せ。変に情にほだされるな。防御機能が 生てる証拠だからな。反撃されるぞ。」
「どっちにしろ同じよ。そのときは、そっちもこっちも同時にボカン。」
「ま、おそらくな。」
夜八時。日はまだ水平線に乗っかっている。風がまた強まった。
ハンが、コクピットの中から合図を送ってきた。シフスは、軽く手を上げ た。白夜のほのかな光の中で、二人の姿は、やけに頼りなく見えた。
小さな、噴射音に続いて折り畳んであった翼が開いた。エンジン音が高まると、ホーバークラフトは一気に海上に躍り出た。水煙が高く上がった。反動でヨットが跳ね上がり、二人は、危うく海に投げ出される所だった。やっ と姿勢を立て直したときには、ホーバークラフトは、もうずっと先をスピー ドを上げながらぐんぐん遠ざかっていた。ほの白い闇の中で、その水煙もす ぐに消えた。「さ、行くよ。」
リサが明るく言った。
「滅入ることないわ。また会うのよ。」
セールがマストに上がっていく。いつの間にかリサが操作している。
帆がビシッと風をはらんだ。船が、一気に前へ躍り出た。
(11章の2おわり、11章の3に続く)