空いっぱいに蝉時雨第10章の2
   二人はそういうカップルがするように、ホテルに入る。
「それで、ほかの仲間には会えたのかい。」
「二人。ハンとクトウ。」
「それだけ。後は。」
「それだけ。もう、諦めてたのよ。」
「あなたは。」
「君が初めてだよ。着いたの三日前だから。」
「そうよね。三日間ずっと見てたから。」
「そうか。ほかは日和ったか。」
「たぶん。あれくらいでだらしないんだから。」
「ああ、しかし、気持ちはわかるな。俺も、ここに来るの手間取ったからな。」
「あなたは来ると思ってたわ。」
「そうか。光栄だね、信頼されてたなんて。」
「皮肉。」
「まあな。ところで、シャボン玉は。」
「出来上がってるわ。あとは飛ばすだけ。」
「手伝えなくて悪い。」
「いいのよ。そんなこと。ただくっつけただけなんだから。ひとつしかないのよ。残念だけど。」
「まあ、一つもあれば充分だろ。」
「そう願いたいわね。」
 二人とも、そんなことを信じてはいなかった。メインコンピューターテイオウの最初の目的を考えると、一つや二つの核ミサイルで破壊できるとはとうてい思えなかった。おそ らく何千というミサイルが飛んでも平気なはずだった。はずだったというの は、どこを調べても防御システムのことはわからなかった。防御システムが あるということさえメーンコンピューターの発している情報にはなかった。完全にデータ ーが保護されているのか、それとも、元々、防御システムそのものが存在し ないのかさえわからなかった。
「それしかないからね。」
「大国の総力を決した攻撃だって破壊できないようになってただろうからね。」
「やってみてそれからよ。考えたってはじまらないわ。」
「そうだな。それでしゃぼんだまはいつ見にいけるんだい。」
「明日。」
「今からじゃだめかい。」
「だめ。以外と厳しいのよ。」
「そんなに見えないけどな。警察だってもう動いてないだろ。」
「そんなことないわよ。やるなら、ここからだって思ってるふしがあるわよ。 それもあるし、普通の人も怖いのよ。思いこまれたら、リンチよ。皆、恐怖 で狂ってるわ。自分の蒔いた種じゃない。それを私たちのせいにして。メー ンコンピューターの陰謀だっていうのに。魔女狩りよ。」
「それは俺も感じた。ノンティーチングへの嫉妬だな。ノンティチングがばれないように必死だったよ。」
 普通の恋人が過ごすように、二人は、そこで三時間ほど話した。わざわざベットを乱し、シャワー室や洗面所を濡らしてから外に出た。そして何食わぬ顔をして別れた。
       

(10章の2おわり、10章の3に続く


semi10-1 10章の1へ


go to home
蝉時雨目次へ




(C) 1996-1997
written by
『妹空並刻』