シュレディンガーの猫について 7

(「シュレディンガーの猫(下)」ジョン・グリビン,坂本憲一・山崎和夫 訳,地人選書)

(以下{ }内は上記本よりの引用)

著者 高田敞

     



問題1

干渉と回折(二つの穴の実験)は、神秘で奇怪か

{粒子力学の基本要素をなすのは二つの穴の実験である。なぜか?これが「いかなる古典的な方法でも説明が不可能、絶対に不可能な現象であり、この現象の中に量子力学の確信がある。実際、それは唯一の神秘、量子力学の基本的な奇怪さを含んでいる」からである。}

考察

 {二つの孔の実験}は{「いかなる古典的な方法でも説明が不可能、絶対に不可能な現象であり、」{唯一の神秘、量子力学の基本的な奇怪さを含んでいる}か。

@ 1個の穴をあけた壁を通過する電子ビーム

 スクリーン上に、波状の分布を表す。

 これは、1個の孔を通過する水の波と同じ現象である。

 1個の穴を通過した波が、回折したことで起こる。

結論1

 {それは唯一の神秘、量子力学の基本的な奇怪さ}はない。古典的な方法で説明できる普通の現象である。

A 2個の穴をあけた壁を通過する電子ビーム

まず1方の穴を閉じて電子を通す。次に反対側を閉じて又電子を通す。

すると、それぞれの穴を通った電子は、それぞれ@と同じパターンの像を結ぶ。

これは、孔を通った電子が、回折を起こし、スクリーンに波状のパターンをつくったからと解釈できる。

 これは、水の波と同じ現象である。

結論2

{それは唯一の神秘、量子力学の基本的な奇怪さ}はない。古典物理で説明できる現象である。

B 2個の穴を同時に開いたとき

二つの穴を通った電子が回折する。すると、その波がぶつかりあい、干渉する。

スクリーン上に干渉に特有のパターンを描く。

これは、水の波の干渉パターンと同じ現象である。

結論3

{それは唯一の神秘、量子力学の基本的な奇怪さ}はない。古典的な方法で説明できる現象である。

C {通常世界の大きな粒子を使って同様の実験をしても「干渉項」は見られないだろう}

例 {ファインマンは、マシンガンから壁の穴を通して弾丸を発射し、}と弾丸を、例にしている。

{干渉による山と谷のパターンは起こらない}

これは、弾丸が、波ではなく、放物線を描いて飛ぶからである。

 放物線は干渉しない。したがって、「干渉項」は起こらない。

結論4

{それは唯一の神秘、量子力学の基本的な奇怪さ}はない。古典的な方法で説明できる現象である。なんの不思議もない。

D 光による二つ穴の実験

{光による二つ孔の実験は実際に右のやり方通りに数限りなく行われ、波動の場合と同じく回折パターンを描いた}

これは水の波と少し違う。水の波は、孔を通ると回折し、その後二つの孔を出てきた波どおしがぶつかりあって干渉し、「干渉項」を作った。しかし、この本によると、光は、回折だけだということだ。光は干渉しないということのようだ。

結論5

 これは、マクロな世界の波と、ミクロな世界の波の違いがみられる。この実験が正しいなら、ひょっとして、神秘かもしれない。ただ、これくらいのことは神秘とはいえない気がする。遠からず古典的な方法で説明できる日が来るだろう。

E 電子による二つ孔の実験

問題2

 {私は想像上の二つ孔の実験で通すつもりだ。}

ア この想像上の二つ孔の実験では{光と同じく電子も回折パターンを描く}と述べている。

やはり、電子もマクロな世界の波と違って、干渉しないということのようだ。ただ、これは想像上の実験だから、実際の実験でこの通りになるとは限らないことは留意しなければならない。思考実験は実験者の主観や考えに則った結果が出る。実際の実験の結果とは何ら関係ないものだ。

イ ところが、次のページでは違うことが述べてある。

{孔を交互に一つ閉じるのと同じ意味のことを、実際の実験で試みるのも可能だ。そうすると、1つ孔の実験の場合にスクリーンに描かれる普通のパターンを得る。ところが、二つの孔が開いた場合には、・・・・われわれが得るのは、波動による干渉のパターンである。}

 とある。これは、一つの孔を交互に閉じるときは、回折のパターンで、二つの孔を同時にひらくときは干渉のパターンになるということだ。

アの場合は、回折だけだが、イの場合は干渉している。

このことから、電子が複数飛ぶと、二つ孔では、干渉し、一つ孔では、解析するということのようだ。

 結論

 これも、普通の波と同じ現象であるから、古典的な方法で説明できる

{1度にたった1個の電子しか装置を通らないようにしても、なお同じ結果になる。電子銃の速度を落として、1個の電子が1つの孔だけを通り、探知機に到達すると想定しよう。それから次の電子をもう1個通そう、という風に。十分な数の電子が通過するのを辛抱強く待っても、探知スクリーンに描かれるのは波動の場合と同じ回折パターンである。}

 1個づつ通すと、回折するが干渉はしないということである。1個づつだから、回折しても、ぶつかる相手がいないから、干渉できない。したがって回折だけになる。これも波の現象である。

結論

 {それは唯一の神秘、量子力学の基本的な奇怪さ}はない。古典的な方法で説明できるマクロな世界と同じ現象である。なんの不思議もない。

 

{電子か光子の同じ実験(1個づつ飛ばす)千回、そのたびごとに違う実験室で行い、各回に1個の粒子を通過させて千回の粒子を通過させて千回の実験結果を合計できるとして、それでも包括的な結果は回折と同様の分布パターンである。}

 これも同じである。電子が波のように振動しながら飛ぶなら孔を通り抜けると、回折する。不思議なことではない。光が回折するのも同じである。したがって、1個1個であっても、スクリーンに当たる場所は、回折した幅に広がる。合わせると、回折した模様になる。

結論

 {それは唯一の神秘、量子力学の基本的な奇怪さ}はない。古典物理で説明できるマクロな世界と同じ現象である。なんの不思議もない。

 

結論

 筆者が言う{それは唯一の神秘、量子力学の基本的な奇怪さ}はどこにも存在しない。

不思議がっている筆者の思考に問題があるといえそうだ。

 

 そして、この中には重要な問題が二つある。

一つは、この実験のどれが実際の実験で、どれが思考実験かということが明確でないことだ。思考実験なら、実際には解析のパターンも、干渉のパターンも描いてはいないということである。頭の中のスクリーンに描かれただけの妄想であるということになる。

二つ目は、これが思考実験なら、実際に見ていないということになる。すると、量子論の理屈では、見ていないものは知りようがない、ということだから、ここに述べられていることは、知りようがない幻想になる。探知スクリーン上の回折パターンも、干渉パターンもである。量子論ではそれは知りようがないのだから、知ったということは間違いであるということだ。{唯一の神秘、量子力学の基本的な奇怪さ}はこのことにこそあるといえそうだ。

 

 つづく 2014,2,11