「宇宙,無からの創生」(Newton別冊)への疑問と反論 39

著者 高田敞

 

 

     

(以下{ }内は上記本よりの引用)

 

{宇宙誕生直後,一つの力が四つに分かれた}(P112

 

問題1

{宇宙誕生直後に起きた真空の相転移では,温度の低下にともなって,この急激な性質の変化が空間そのもので起きたようです。}

考察

(1){温度の低下}

 現在の宇宙の温度は物質の原子などの振動である。真空はどのようにして温度を保っているのだろう。真空には何もない。温度を保つものもないはずだ。そもそも、真空は温度を持てないのではないだろうか。真空の温度は、真空の何がどのようにして保っているのか、真空の何がどのようになると温度が上がり、また下がるのかの説明がいる。現在までの物理学とはまるで違う温度の概念であるようだから、必ず説明する必要がある。おそらく説明できないだろう。

(2){宇宙誕生直後に起きた真空の相転移}

真空の相転移は、水、氷、水蒸気の間の変化と同じということが書いてある。また、相転移は4回あったと書いてある。

このことから、真空は4つの状態に変化したということだ。

しかし、氷の状態の真空とはどのような状態なのか、水の状態の真空とはどのような状態なのか、水蒸気の状態の真空とはどのような状態なのか、もう一つの相転移はどのような状態なのかが書かれていない。水は物質である。真空は何もない。物質は温度で性質が変化するのは、さまざまな物質で検証済みだ。しかし、真空は何もない。なにもないものが温度で変化するということは物質の温度変化とはまるで違う変化であるはずだ。したがって水の相転移とは科学的に違う相転移のはずだから、水の相転移の比喩で説明することはできないことになる。科学なら、比喩ではなく、真空の状態の変化を具体的に示し、その性質を明示しなければならないはずだ。

真空は常識的意味では何もない空間ということだ。なにもないものが何かに変化するということは、どのようなことなのか。具体的な状態を明示しそのときのエネルギーの変化を説明しなければならない。もちろん、科学的な説明である。正しい理論と、実証ということだ。単なる思いつきと、推論からなる根拠のない数字ではだめだ。

インフレーション論者は真空の相転移について何一つ具体的にはわかっていないのだと思う。真空がどのように変化するとか、温度はどれだけ変化するとかは何一つ分かっていないのだ。だから水の相転移といってごまかしているのだろうと思う。

また、温度は物質の状態だから、真空は温度を持てないのだから温度変化というより温度そのものがないのだから。

また、インフラトンとの関係もはっきりさせなければならない。意見はインフラトンの方に傾いているようなことが書いてあった。どちらとも決めかねているということだ。どちらかが間違っているということだ。あるいはどちらも間違っていることもある(私は二つとも間違っていると思う)。この力の分岐も断定して書いてあるが、単なる意見の一つであるということから1歩も出ていないということだ。

 

問題2

{宇宙の誕生から10−44秒後、1回目の相転移がおきます。このとき、一つの力から重力が分かれます。}

考察

(1){1回目の相転移がおきます。}

このとき、どの状態の真空がどの状態の真空に変化したのかを示さなければならない。

性質が変化したのだから、真空に性質があるという新提案であるということなのだから、しっかりそこを説明しなければならないはずだ。真空に性質があるというのは、現在の物理学では証明されていないことなのだから、真空の構造の変化を示す必要があるはずだ。そのときのエネルギーの出入りについても、何から何へ1mに何カロリー移動するとか、示さなければならない。

 まだ仮説だから、詳しくは書けないのだろうか。それとも、まるっきりわかっていないから書けないのだろうか。たぶん後者だろう。私は相転移はなかったから、わからないのだろうと思っている。

(2){宇宙の誕生から10−44秒後}

宇宙誕生は{0〜10−43}とある。1回目の相転移は宇宙誕生の途中に起こっている。この期間のことは不明であると述べてあった。1回目の相転移だけはわかったのだ。不思議なことに。

(3){一つの力から重力が分かれます。}

@ 生まれた時間

インフレーションが起こったのは10−36〜10−34の間、素粒子はその後10−27の時にできたと書いてある。

 すると、重力は、インフレーションの前の、原子より小さな宇宙で、まだ宇宙の中身が何もない時に分離したということだ。

A 重力はどのような形に生まれたか

重力だから「重力子」ということなのだろうか。これはまだ発見されていない素粒子だ。ところが、素粒子ができたのはこの後、インフレーションが終わり、ビッグバンが始まった10−27秒のときと書いてある。この段階ではまだ素粒子できていないから、重力子もできていないのじゃないだろうか。もし重力子なら、このときはまだ、質量は持っていなかったといえる。なぜなら、ヒッグス場が、素粒子に質量を与えるのは10−11秒のときだから。

宇宙のでき方と、力のでき方が整合しないのは、インフラトン宇宙と、相転移宇宙の立場の違いからなのだろうか。もう少し練りあわせる必要があるのではないだろうか。

B 生まれた重力はどこに存在したか

 現在、重力は物質が持っている力だ。物質以外では、ダークマターにもあると言ってはいるが、ダークマターは特定されていないから問題外としても、それでさえ何かの物質だ。

現在の真空は重力を持っていない。では、真空しかないミクロな宇宙で、出来たばかりの重力はどこにどのような形であったのだろうか。明確に示さなくてはならないはずだ。

 示せないと思う。今わかっている物理学では真空は万有引力を持てないことになっている。また、真空が万有引力を持っているという観測もない。

C インフレーションとの関係

 一歩譲ろう。仮に、その当時の真空は重力を持つことができたとしよう。

 インフレーションは{10−36〜10−34秒}間に起こったと書いてある。これは2回目の相転移の後だ。そこで重力との関係を見てみる。

ア インフレーションは全重力を吹き飛ばせるか

 インフレーションは、この時できた、やがて全宇宙の重力となる巨大な力を、一瞬より短い時間で、1兆×1兆×100万倍に膨張させたことになる。このとき生まれた位置エネルギーは膨大なものだ。地球ができるとき、小天体同士の衝突で地球はどろどろに溶けていたという。小天体の位置エネルギーだけで地球を溶かすことができる。その位置エネルギーを作ったことになる。それから考えると、宇宙全体の位置エネルギーは膨大なものだ。そのエネルギーをインフレーションは重力を吹きとばすことで生んだのだ。インフレーションのそのエネルギーはどこから湧いてきたのだろうか。

イ モノポールとの関係

 インフレーションは、宇宙を急速に膨張させたことで、それまでにできていたモノポールを吹きとばし、観測できないくらいに薄めたということだ。すると、重力も、インフレーションで吹き飛ばされて観測できないくらい薄められた可能性がある。しかし、モノポールが、一つも観測されていないのと反対に、重力は地球上のどこでも観測されている。重力のないところはないほどだ。まるで正反対だ。インフレーションが、モノポールを観測できないくらい薄めたのに反して、重力がまるで薄まらなかったのは、どのような違いからか、説明する必要がある。インフレーション論の都合というわけにはいかないはずだ。おそらく説明できないでしょう。

モノポールは質量がなかったが重力は重かったというのはだめです。このときまだ素粒子もなく、質量も生まれていなかったのだから。とにかく地球のすべての原子が万有引力を持っているのだから、薄まってはならないということなのだから、説明は難しいのじゃないだろうか。インフレーション前に、重力が分離したというのが、間違いだ。そもそも、力の分岐が間違いなのではないだろうか。

D 重力と素粒子の関係

 素粒子は10−27秒のときできたと書いてある。すると、出来た素粒子はどこかの段階で先に生まれていた重力を取りこむことになる。素粒子と重力はどのような方法で合体したのだろうか。宇宙全体の膨大な素粒子が、すべて重力と合体できたのだろうか。あまった素粒子はなかったのだろうか。あまった重力はなかったのだろうか。という疑問が出てくる。

今現在、重力のない物質は観測されていない。物質以外のところで重力は観測されていない。謎のダークマターは重力しかないというから、これが余った重力なのかもしれないが、ダークマターは謎以外の何物でもなく、まだ空想の産物だから、これに余った重力を当てると、謎に謎を足すということになる。ますます科学ではなくなる。

どちらにしろ、物理反応か、化学反応かわからないが、素粒子が重力を取り入れた仕組みを解き明かす必要がある。

これは素粒子が生まれたとき、一緒に重力を持って生まれたとすると矛盾はなくなる。

結論

原子より小さな真空から無限に近いエネルギーが出たり、インフラトンか真空の相転移かどちらも正しいみたいに書いてあるし、物質もないのに、重力が分離したりしている。質量はヒッグス場がつくったということとも矛盾している。もう少し細部を丁寧に説明する必要がある。それぞれの専門分野でうまい説明をするのだろうけど、部分部分でしかないから全体の統一がとれていない。まあ、どのように説明しても、机上の空論は机上の空論にしかすぎないということだ。何でも言うのはたやすいことだが、それは事実とは関係ないということだ。

他にも意見が変わる例もある。モノポール問題の解決にインフレーションが考えだされたということだった。ところが、他の場所ではインフレーションが終わったとき宇宙は100mの大きさだったといっている。たったの100mではモノポールはまだぎっしり詰まっているはずだ。インフレーションで観測できないくらい薄まったといっているのと大きな違いがある。人により、場所により、考え方がまるで違う。インフレーション理論がいかに適当な理論であるかということだ。

 

問題3

{2回目の相転移で強い力が分岐}{10−36

強い力は{原子核をつくる陽子や中性子を結びつけたり、陽子や中性子の中のクォーク同士を結びつけたりする力}

考察

(1) 強い力の存在場所

 やはりこのときはまだ原子核も、クオークも生まれていない。それを結びつける力という強い力はどこに生まれたのだろう。示さなければならない。

(2) 素粒子や原子核が強い力を取り入れた仕組み

 後から生まれたクオークや原子核が、先に生まれていた強い力をどのように取り取り込んだのかその仕組みを示さなければならない。また、クオークや原子核の量と、強い力の量は一致していたのだろうか。過不足がなかったのだろうか。

 このことは、クオークが生まれたとき強い力も持って生まれたとすると、疑問がなくなる。バラバラに生まれたということが間違いではないのだろうか。

(3)インフレーションとの関係

インフレーションは{10−36〜10−34}秒の間ということだ。するとインフレーションの始まりと同時に2回目の相転移が起こったということになる。できた強い力は、インフレーションとともに、{1兆×1兆×100万倍}に膨張してしまったはずだ。すると、やはり、モノポールと同じように、宇宙のかなたに広がって、観測に引っかかからないほど薄まったはずだ。ところが、この強い力も、すべての、原子の中にある。矛盾である。(インフレーションは100mまでということなら、大丈夫だが、すると、100mのなかにこの後、すべての原子核や、陽子や、中性子の中に強い力が存在することになる。入りきるのだろうか。無数に重なり合って、すべてをきつく結びつけて宇宙は膨張できなくなるのではないだろうか。

結論

インフレーションで宇宙は直径100mにまで膨らんだということだ(他にもこの宇宙よりはるかに大きくなった等、いろいろな意見があるようだが)。100mくらいでは、モノポールも、重力も、強い力も、ぎっしり詰まっているはずだ。現在、観測できる宇宙のはるか先まで宇宙は広がっており、その宇宙に銀河は無数にあるようだ。その銀河を作る物質のすべてに、おそらく、重力や、強い力があるのだから、その総量は天文学的数字になるだろう。それが直径100mに詰まっているのだから、隙間どころか、重なっていたことだろう。重力と強い力が、何百万何百億と同じ所に重なっていたら、どうなるのだろう。結合したり化合したりしなかったのだろうか。

インフレーションで、宇宙のかなたまで膨張したとするとうまくいくかというとそうはいかない。百三十七億年前にさかのぼっても、1点ではなくこの宇宙よりはるかに大きい宇宙の卵に行き着いてしまう。ハッブルの法則は適用できなくなる。

 まあ、矛盾以外の何物も存在しないといえる。