「宇宙,無からの創生」(Newton別冊)への疑問と反論 27

著者 高田敞

 

 

     

(以下{ }内は上記本よりの引用)

 

{宇宙の“卵”は谷を通って急膨張する宇宙に転じた}(P80)

 

問題1

{虚数時間の世界では,力を受けた物体の運動する向きが実数時間とは逆になります。}

考察

{運動する向きが実数時間とは逆になります。}の例に、実数時間では坂を下る運動が、虚数時間では坂を上る運動になる、と述べている。すると、実数時間に従って進む変化は、虚数時間では反対に進むということにもなるはずだ。

 このことから、宇宙誕生のとき、{宇宙の“卵”}はどのような変化をするのか考えてみる。

 {宇宙の“卵”}は実数時間とは反対に、エネルギーの谷を下るということだ。そうすると、進む方向も反対になるはずだ。谷へ向かわずに、谷から離れるように動くはずだ。

 ところが、この項の説明では、反対になるのは、エネルギーの山が谷になることだけで、他は、実数時間のときと同じ進み方をしている。

 例えば、{宇宙の“卵”}はトンネル効果で実数のときの進む方向と、虚時間で進む方向が同じである。違いは上下だけである。何故トンネル効果の方向が逆にならないのかは説明がない。{運動する向きが実数時間とは逆になります。}という虚時間の効果に反しているのだから説明がいるはずだ。

 {運動する向きが実数時間とは逆になります。}が本当なら、この図にある{宇宙の“卵”}は反対に進み、“卵”ができる前に戻ってしまう。せっかくできていた“卵”がまた無になってしまうことになる。

 おそらくそれでは宇宙ができないから困るので無視しているのだろう。憶測だけど。

 もうひとつの問題は、この図では、虚時間が始まるときすでに{宇宙の“卵”}ができていることだ。この卵は実時間でできたのか、虚時間でできたのか不明である。これまで書いてあることは、{宇宙の“卵”}は{無}の揺らぎから生まれたということになっている。どうも実時間で考えているように受け取れる。すると、{無}から{宇宙の“卵”}が生まれるときは実時間が流れ、その後、虚時間が流れて、また実時間に戻るということになる。その転換はいつどのようにして行われたのだろう。せめて理論くらいは提示するべきである。そうなんだからそうなんだということなのだろうけど。

結論

 これも、インフレーションビッグバン説特有の、都合のいいことだけ現れ、都合の悪いことは一切現れないという原則に一致した考え方だ。

 都合の悪いことは無視する例;

空間膨張は光を引き延ばす。これによって、光は赤方偏移した。という意見がある。このとき引き延ばされるのは、インフレーション論によると光の進行方向だけだ。空間は3次元方向に膨張しているはずだから、光は、縦方向、横方向、斜め方向、すべての方向に引き延ばされるはずだ。ところが、インフレーション理論に都合のいい進行方向にしか光は引き延ばされていない。他の方向が伸びない理由は述べられていない。触れもしていない。

問題2

{虚数時間の世界では,“山”が“谷“になる}

考察

山や谷は地球の事象である。坂は万有引力があるから坂になる。宇宙ステーションの中では、上下はない。坂もない。

 したがって山は越えられないが、谷は越えられるというのは、単なる比喩以外の何物でもない。宇宙の卵が障壁を越えられる科学的根拠にはならない。

 “山(エネルギーの障壁)”が反対になると、マイナスのエネルギーの障壁になるのかもしれない。そんなものがあればだが。ではマイナスのエネルギーの障壁は、どのようにして越えるのか。説明していない。谷だというだけだ。これは説明ではないのはさきに述べたとおりである

結論

SFであるから、科学的な説明ではなく、比喩による説明をするしかないということなのだろう。おとぎ話をこえるものではない。この本を書いた人も、本当とは思っていないだろう。せいぜい、そういうこともあるかもしれないけど、ぐらいでしょう。

問題3

{卵が、急膨張する宇宙に転じるためにこえるべき高い“山(エネルギーの障壁)”は実質的に“谷”になります。}

考察

この{こえるべき高い“山(エネルギーの障壁)”}はいつどのようにして宇宙にできたのか。不明である。

またこの山はどこにあるのかも不明である。宇宙の“卵”より大きそうだし。なにもない「無」から、卵を急膨張させるほどの巨大なエネルギーを持った山ができるというのだから、そのできる仕組みの方が、卵のできる仕組みよりはるかに複雑怪奇のような気がする。

まあ、卵を成長させるために必要だからということで、考えついたことなのだろうから、今から、必要ならその生まれる仕組みなんかをこじつけていくのかもしれないが。どちらかというと、ほったらかしにするでしょうね。卵がインフレーションを起こせばそれに目が奪われて、“山”のことなどだれも見ないことになるでしょうから。アシストが素晴らしいといったって、やっぱりゴールですから。でも、そんなすごいエネルギーを持った山なら、山がインフレーションを起こしても不思議はない気がするのだが。山が急膨張して宇宙になったとか。なにも初めは球や点でなくてはならないという決まりはないのだから。無から“卵”が生まれたり、“山”が生まれたりするのだから。

結論

机上の空論なんだから、何でも必要なものは書けばいいということなのだろう。宇宙を点より小さなものから、この宇宙より大きなものに、0.001秒の早業で膨張させる山なのだから、おそらくエベレストよりは高い山なのでしょう。エベレストといえば、これはプレートとプレートが衝突して海底が盛り上がってできたということだ。すると、そのうち、この“山”も、“無”と“無”が衝突して盛り上がったということになるのかもしれない。さすがにないだろうけど。