霧氷の5

きつねは、もんどりうって倒れた。すばやく跳ね起きたとき、左の前足に激痛が走った。その一瞬のすきに敵が飛び掛ってきた。逃げる間はなかった。のしかかってくる敵ののどをめがけて牙を立てた。しかしその牙は空を切った。すれ違いざまに自分の耳が切り裂かれたのを感じた。それでも向き直ると敵に向かって跳んだ。真っ直ぐ首筋を狙って。相手も跳んだ、空中で身体がぶつかり、また跳ね飛ばされた。今度は左の横腹に痛みが走った。きつねはもんどりうって地面にたたきつけられた。しかし、今度は、相手の毛をかじり取っていた。どこの毛かわからなかったが、それは血の匂いがした。だがそれを感じている暇はなかった。相手はもう跳びこんでできていた。ほとんど立ち上がる暇さえなかった。その攻撃を牙で受けた。夢中で身体をひねると、のしかかってくる相手から、飛びのいた。しかし、その横腹に、敵が体当たりしていた、相手のほうがはるかにすばやかった。振り向きざま、噛み付こうとしたが、牙は空を切り、押し倒されていた。
 きつねは、のしかかっている相手に下から牙をむいて威嚇した。だが、相手は軽くそれに答えただけだ。悠然と見下ろしている。きつねは、身体をひねると、すばやく身を翻した。そのとき、地面についた、左足が、力なく崩れるのがわかった。彼は前につんのめった。それでも、すばやく向き直ると、敵の攻撃に身構えた。だが、今度は、攻撃してこなかった。身構えもせず、こちらを向いてただ立っているだけだ。荒い息を吐きながら、きつねは黒い影を見つめた。

霧氷の6

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