霧氷の4

 長い時間が過ぎた。首筋にかすかに悪寒が走った。きつねはすばやく斜め前に身体ひとつ分小さく跳んだ。そして、すばやく真上に飛び上がった。
 おそらく敵は斜め後ろから飛び込んで来ているだろう。最初の攻撃に失敗した敵は、二撃目を打とうと追いかけるように突っ込んでくるだろう。そこを上から落下しながら噛み付こうというのだ。それは大きな賭けだ。宙返りして相手を見るまで、敵が見えない。ただ、勘だけで動かなければならない。自分が跳ぶのがほんの少し狂っても、相手が飛び込んでくるのがほんの少し早くても遅くても、やられるのは自分だ。だが、今まではその賭けに勝ってきた。
 そして、今度も間違わなかった。空中で、くるっと回ったとき、彼の真下に敵が跳びこんで来るところだった。その、1秒の何分の一かの間に彼は敵を始めてしっかりと見た。闇の中に、黒い稲妻のように、身体がしなやかに飛び込んできていた。
 きつねは、相手に余裕があるのを感じた。全力で跳びこんで来てはいない。不安がよぎった。だが、躊躇は許されない。彼は、敵の耳めがけて、どっと襲い掛かった。耳はすぐそこだ。きつねは、やったと思った。だが、次の瞬間牙は空をきっていた。敵は、もう前に跳んでいた。
 目標を失ったきつねは、地面に落ちてバランスを崩した。敵は、振り向きざま、飛び掛ってきた。きつねは、横っ跳びに飛ぶと、相手の足を狙って跳びこんだ。きつねは跳ね飛ばされていた。牙はとどかなかった。左肩に激痛が走った。だが考えている余裕はない。地面に落ちると、すばやく斜め前に跳んだ。そして、そのまま空中へ跳ね上がった。そしてくるっと宙返りをした。
 身体が、考えとは別に反射的に動いていた。その技を、同じ敵に二度使ったのは初めてだった。敵はそれでも真下にいた。きつねは初めて首筋を狙った。後頭部に続くあたりをめがけて力いっぱい襲った。しかし牙がふさふさした毛に触れるか触れないかの瞬間に彼の身体は、また空中に飛ばされていた。

     

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