霧氷の3


 敵は1回目の攻撃に失敗して、どこかに身を潜めていた。
 きつねもじっと林の奥に身を潜めた。だが、自分の居場所が敵に知られているのを彼は知っていた。自分は、逃げるのが精一杯で、相手の居場所を見届ける余裕はなかったが彼はそうではなかったはずだ。きつねが、そのまま逃げ出すか、それとも踏みとどまるかを見届けていたはずだ。自分が非常に不利な状況に追い込まれているのをあらためて感じた。しかし立ち止まってしまった以上闘うしかなかった。
 彼は先ほどのように、じっと待った。ただほんのちょっとの物音でよかった。敵の居場所さえわかれば。彼は思った。幸い、風はかすかに流れていくだけで、木々を揺らして音を立てるほどではなかった。あたりは静まり返っていた。
 それくらい時間が過ぎたろう、身動きしない狐の耳に、カサッと、かすかな音が聞こえた。狐は、その音のほうにすばやく耳だけをを向けた。しかし、音はそれっきりだった。それは、霜に凍ったぶなの枯葉がちょっとした風になる音に似ていた。きつねはは身構えた。あいつなのだ。あいつは踏み間違った。あいつは斜め左後ろにいる。長い時間をかけて、そこまで迫ってきている。後二三歩近づけば飛び込んでくるだろう。
 彼は、気づいていない振りをしてその瞬間を待った。
 きつねは、昔、猟犬を追い返したことさえある技をもう一度試してみようとしていた。それは、野良犬に追いかけられたとき、無我夢中で覚えた技だ。そのとき、彼は、犬の耳を食いちぎっていた。
 きつねは待った。だが敵はなかなか飛び込んでは来なかった。おそらく、音を立てたことで、じっと様子を見ているのだろう。用心深いやつだ。だが必ず来る。ここに住み着くためには彼にとっても避けられない戦いなのだから。その上、実力はほぼ見破られているのだから。最後のひとつを除いて。
 つづく

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