「100歳になった相対性理論」(福江純著、講談社サイエンティフィク)への反論25

著者 高田敞


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(以下{ }内は上記本よりの引用)

 

潜熱の放出

問題

{水蒸気が水に相転移するときに潜熱を外部に放出するように、高温真空が(現在の)低温真空に相転移するときにも潜熱が放出され、宇宙の温度が上昇し、熱い火の玉となった。それがビッグバンなのである。}

考察

1 潜熱の元

{水蒸気が水に相転移するときに潜熱を外部に放出する}のは、水蒸気が、熱エネルギーを持っていたからである。そのエネルギーは、太陽や、ガスの火や、地熱などの外部から水蒸気に与えられたものである。水蒸気が自分で作り出したものではない。もちろん、ガスは酸化作用によるエネルギーであり、太陽の熱は核融合によってつくられている。エネルギー不変則は完璧に守られている。

 では高温真空の潜熱は、どこから真空に付与されたのだろうか。インフレーション論者はそれについて、真空から量子論で粒子対ができ、消滅したときにわずかに残るエネルギーを足し合わせたものというが、それの矛盾は反論24で書いた。

繰り返すと、全宇宙を作り、それを10の40乗倍の速度で膨張させる天文学的な大きさのエネルギーは、量子対が消滅するときにかすかに残るエネルギーから生まれるわけはない。あまりにもエネルギーの大きさが違いすぎる。蟻と象の違いどころではない。蟻と地球の違いどころではない。蟻と銀河系の違いどころではない。蟻と全宇宙の違いどころではない。量子と、全宇宙の違いどころではない。量子の残りかすと全宇宙の違いなのだ。量子論はミクロの世界の理論だ。全宇宙はマクロもマクロ、超超マクロの世界なのだ。始まりはミクロの大きさであったから、ミクロの理論の量子論が適用できるというのは科学ではない。大きさは小さくても、エネルギーは宇宙を作り出す巨大な大きさなのだから、ミクロといえるわけはない。形さえ合わせておけば中身はどうでもいいというのでは話にならない。

インフレーション理論家は宇宙を生みだすエネルギーを、高温真空はいつどのようにして手に入れたのか、その出所を示さなければならない。「ハイゼンベルグの不確定性原理」など持ち出しているが、それで宇宙を生みだすエネルギーが生まれるわけはない。宇宙を生みだす巨大なエネルギーの出所を特定する必要がある。できないだろう。そんなものがあるわけがないのだから。

2 真空の相転移の仕組み

高温真空が(現在の)低温真空に相転移するときに対応するのが、水蒸気から水に相転移する現象ということだ。すると、高温の真空は水蒸気(気体)ということだ。低温の真空は水(液体)ということだ。気体の真空や、液体の真空とはどのようなものなのだろうか。真空はなにもない。なにもないのに気体の状態と、液体の状態があるということになる。

温度変化は相転移ではない。状態の変化が相転移をもたらすのだから、真空も構造の変化があるということだ。インフレーション理論家はそれを示す必要がある。示せないでしょう。そんなものはないからだ。

3 宇宙の温度と真空の温度

{相転移するときにも潜熱が放出され、宇宙の温度が上昇し、熱い火の玉となった。}

高温真空が潜熱を出し、宇宙の温度を上昇させたという。その時の宇宙はどのようなものだったのだろうか。このときの宇宙はインフレーションが終わりビッグバンになる直前であったと考えられる。すると、このときの宇宙は、インフレーションで大きくなった宇宙であったはずだ。それは、10の40乗倍に膨張した真空でできていたはずだ。他には、インフレーションを起こしたエネルギーだけのはずだ。

すると高温真空の潜熱で温度が上昇し火の玉になったのは、それまで10の40乗倍で指数関数的に膨張してきた宇宙であるはずだ。このときにも宇宙は高温真空で満たされていたようだから、温度が上昇したのは、全宇宙を占めている高温真空のはずだ。ところが、{高温真空が(現在の)低温真空に相転移するときにも潜熱が放出され}と言っている。高温真空が潜熱を出して温度を上げたのは、宇宙である。仮のこのとき、高温真空(気体)が潜熱を放出して低温真空(液体)になったとしても、その潜熱を受け取るのは、なったばかりの低温真空のはずである。宇宙はそれしかないのだから。すると、その熱を受け取った、低温真空はまた、温度が上がり、気体の真空、高温真空になるのではないだろうか。エネルギー不変速なら、そうなるはずである。ところがそうはならないみたいだ。その熱は真空の温度を上げ宇宙を火の玉にする。高温真空に戻るのではなく、低温真空が火の玉になるというのだ。もちろん高温真空になるのではなく、真空の火の玉になるということの原理や、根拠はなにもない。指数関数的膨張で10の40乗倍も大きくなった宇宙全体が火の玉になるのだからまあたいしたものだとしか言いようがない。

水蒸気が水になるとき潜熱を出す。この熱は、空気中に逃げだし、空気の温度を暖める。水自体のエネルギーは減る。だから水蒸気は水になれる。ところが、宇宙には、高温真空が出した潜熱の行き場はない。宇宙は宇宙しかないのだから、宇宙のすべては高温真空だけで占められているはずだ。他の物はないはずだ。もちろん宇宙は宇宙以外になにもない。全宇宙が高温真空でできておりその高温真空が潜熱を出したのだから、その潜熱の行き場はどこにもない。高温真空が潜熱を出して低温真空になっても、その潜熱が今度は低温真空を暖めて高温真空になるはずだ。エネルギー不変則である。水蒸気が潜熱を出して、水になるときとは異なるのである。水蒸気の潜熱はほかに逃げていくが、宇宙の潜熱は宇宙で引き受けるしかないから、宇宙の熱は低くならない。常に一定であるはずだ。

問題はなぜ、高温真空に戻らずに、火の玉になるかということだ。新負レーション論者は答えを出す必要がある。答えなどないと思うけれど。

4 インフレーションと、宇宙の温度

宇宙はインフレーションで急膨張している。始まりの小さな宇宙のときの総エネルギーと、インフレーション後の総エネルギーとはエネルギー保存則では同じになるはずだ。だから、膨張したときの宇宙は温度が下がる。この本でも断熱膨張により温度が下がるといっている。ところがインフレーション後の宇宙は温度は下がっているはずなのにインフレーション後でも、高温真空であるといっている。そして、インフレーション後、大きくなった宇宙の高温真空はまた潜熱を放出して宇宙の温度を高めている。高温真空でできていた宇宙の温度がさらに上昇したことになる。それも巨大に膨張した宇宙の温度が上がっている。エネルギーが増えている。

 量子論を持ち出して、ほんの少しだから、エネルギー不変則に目をつぶってくれるといっていたけど、ほんの少しではない。巨大な宇宙を火の玉にするエネルギーだ。量子論を持ち出して、目をつぶらせて、いつの間にかなんの根拠もないのに巨大なエネルギーに目をつぶらせている。うまいやり方だ。

4 熱い火の玉の正体

{熱い火の玉になった}ということだ。これ以前は、インフレーションである。インフレーションが終わったときに、熱い火の玉ができるということだ。このとき宇宙にはなにがあったのか、このとき物質はすでにできていたのだろうか、不明である。ただ、ビッグバンで物質ができたとすると、火の玉になったときはまだ物質はできておらず、真空が火の玉になったと考えられる。その火の玉ができた中で物質ができたと思われる。最初は真空が直接火の玉になったということだ。なにもない真空が火の玉になるという。この日はどんな火なのだろうか。今の物理学では何一つ分かっていない現象である。

このときの真空の大きさはどれくらいなのだろうか。10の40乗倍になったということだが、実際の大きさは科学者によって大きく違う。10cmという人もいればこの宇宙より大きく広がったという人もいる(余りにも違いすぎる見解だ)。

10cmの宇宙なら火の玉は考えられる。布を丸めて石油をかけて、火をつければできる。しかし、この宇宙より大きく広がった宇宙が火の玉になるためには巨大なエネルギーがいる。布を丸めて石油をかけたくらいではとても間に合わない。

(1)真空のとき

 インフレーションからビッグバンに移行する瞬間は、物質ができていないとすると、宇宙は真空のままだ。すると、火の玉になるには真空が火の玉にならなければならない。高温真空の潜熱のエネルギーは、真空を火の玉にするエネルギーということになる。

 すると、宇宙は真空ではなく火で埋め尽くされたということになる。この日はどんな火なのだろうか。この本では言及はない。

今まで分かっている物理法則では真空を火の玉にするエネルギーは見つかっていない。また火の玉は物質があるから起る現象である。真空が火になるという現象も今の科学では見つかっていない。科学的には存在しない現象である。要するに非科学である。

(2)物質ができていたとする

 ビッグバンの始まりに既に物質ができていたとする。するとそれがインフレーションを起こしていた真空のエネルギーの潜熱をもらい火の玉になったということは可能である。

 ではいつ物質はできたのか。これが不明である。インフレーションのときは、空間の膨張はいているが、物質の生成は述べられていないから、物質はその後できたということなのだろう。

 インフレーションが終わりビッグバンに移行したときに瞬時に物質ができそれが火の玉になったと考えると、少しは可能性がある。しかし、真空から、この宇宙の全物質が、瞬時に湧いてくる仕組みはやはり不明である。「ハイゼンベルグの不確定性原理」で粒子対ができるということだが、それはインフレーションの前に、起こって、その消滅のときに残ったエネルギーを足し合わせてインフレーションが起こったということだった。だから、出てきた粒子対はすべて消えて、エネルギーになり、それがインフレーションを起こしたのだから、物質はないはずだ。

 ではビッグバンの物質はどこから湧いてきたのか。もう一度、真空から生まれたのだろうか。それとも潜熱のエネルギーが物質に変わったのだろうか。このあたりは書いていないのでわからない。

 何にしろ、インフレーション前に一度「ハイゼンベルグの不確定性原理」で粒子対が生まれている。ビッグバンのときにもう一度今度は消えない粒子が生まれたことになるから、その粒子の生成の仕組みについて、説明する必要がある。もちろん、今まで分かっている物理学では説明できないことではあろうが。

(3)火の玉の大きさ

 インフレーションが終わった後に火の玉になったという。ではその時の宇宙の大きさはどれくらいであったのだろうか。

 この宇宙より大きかったという意見。

これではこの宇宙より大きい範囲の火の玉ができる。その巨大なエネルギーはどこから湧いたのか不明である。すると、宇宙はこの宇宙全体より大きい中に、物質ができる。137億年前に、さかのぼっても1点に収縮できない。137億年前にすでに、この宇宙より大きいのだから。

 宇宙が10cmの意見。

 このときは火の玉になる可能性がある。しかし、このとき、全宇宙の物質がこの中に詰め込まれていたら、宇宙はブラックホールになる。空間は膨張できるかもしれないが、物質はその重力で潰れてしまうはずだ。太陽1個だって10cmの球に詰め込んだらブラックホールになるのだから。

 宇宙の全物質を詰め込んでブラックホールになっても爆発する仕組みの理論を構築しなければならない。それも、想像や思い付きではなく真実の理論を、である。まあ、不可能でしょう。

5 エネルギー源

高温真空の潜熱でインフレーションを起こしたのだから、もう潜熱はないはずだ。それなのに、インフレーション後、また潜熱を放出して宇宙を火の玉にしている。

インフレーション理論家が必要な時に宇宙は必要なエネルギーをちゃんと生み出している。よく言うことを聞く宇宙だこと。潜熱だの、対消滅だの、足し合わせると0にはならないだの、言葉はいくらでもできる。しかし、無い袖は振れぬという。いったい、どこからどのようにして、ない袖を振っているのだろうか。それも全宇宙を指数関数的に揺り動かす袖だ。

問題

{仮想粒子対の生成・消滅の量は空間の体積に直接比例するので、真空エネルギーの大きさも空間の体積に比例する。}

考察

インフレーション前、宇宙ができ、真空のエネルギーを宇宙が得たときは、宇宙はまだ非常に小さかったはずだ。そのエネルギーで宇宙はインフレーションを起こす。{真空エネルギーの大きさも空間の体積に比例する。}のだから、インフレーション前のミクロな宇宙にはミクロなエネルギーしかないはずだ。そのミクロなエネルギーでインフレーションが起こったという。10の40乗倍という途方もない膨張をよく起こせたものだ。

 もうひとつの問題がある。今の宇宙はインフレーション前の宇宙の10の40乗倍以上の大きさがあるということだ。{真空エネルギーの大きさも空間の体積に比例する}ということだから、今の宇宙は、インフレーション前の宇宙の10の40乗倍以上のエネルギーがあるということだ。インフレーションを10の40乗倍個起こすエネルギーということだ。

 地球だって、インフレーション前の宇宙の10の何乗倍の大きさがあるかわからない。コップの中だって、インフレーション前の宇宙よりはるかに大きい、おそらく数億倍いや数兆倍はあるだろう。すると、コップの中の空間は数兆個のインフレーションを起こすエネルギーに満ちているということになる。

 どうせ、今の宇宙は低温真空だからそのエネルギーはないというのだろうけど。

 

 

あとがき

インフレーション論にしろビッグバン説にしろ、矛盾以外に何もない理論だ。思いつきがそのままでは通用しなくなると、次の思いつきを作る。そして、どんどん出来事が大きくなっていく。インフレーション論も、矛盾を抱えていて、それにさらなる、修正をしているという。どんどん思いつきを加えていっているようだ。

今の物理学では説明も理論もない現象だけでインフレーションビッグバン説はできている。科学的根拠は何一つない。ないないづくしだ。まあ、SFと何一つ変わらないといえる。

 これで終わりです。お読みいただいて幸いです。

2014年11月21日

記 高田敞