今私は、いや、私達は走っています。

向かう場所は只一つ。

このおかしなお話の元凶。

そいつの名は、名は。




けど。皆早いよ。
私もそれなりに早い方だけど。

それが、女性になったと言っても変わりはしないんだけど。

胸が、痛い。
比喩でなく、本当に痛い。

全速力で走ると胸が痛いのだよ、男性諸君。

大きな胸は走ると揺れて痛い、それは痛い、かなり痛い。

まさか自分がそれを実感するとは思わなかったけど。


秋葉が運動神経が良いのって。
やっぱこれの所為かな。

「姉さん。今とても失礼なことを考えませんでしたか?」
鋭過ぎだよ、我が妹。

何で分かるかな。

「なら、あの二人はどうなんですか」
と、先行する二人を見やる。

走ると言うより、飛ぶと言った方がしっくりくる。

白いのと青いの。


「あの二人は地球外生物じゃないの。秋葉はあの二人と一緒になりたいの。
それとも、比較されたいの」

まあ、白い悪魔と、青い巨星と、赤い彗星。
左程性能には差は無いんだろうなあ。

性能は ね。

「姉さん。やはり今失礼な事を考えませんでしたか」

「ふむ。そうですね。とても、走りにくそうですが。何でしたら、
私が「略奪」して差し上げましょうか」

遠野の血全開にして、妹君が仰る。

「あはは〜。秋葉様そんな事しても無駄ですよ」
いつもと変わらずにっこり笑顔の琥珀さん。

「な。どう言う意味よ、琥珀」
「いくら「略奪」しても、秋葉様の方が「無理」なんです」

その一言で、秋葉は「理解」したらしい。

紅い髪が更に紅く発光する。

それでも、それ以上言ったら、
負けを認めると分かったらしく、プイと横を向いてしまった。


憐れなるかな。


そんなこんなで、ようやく、目的地に着く。


そこは、普通の家。
普通の一軒家。

どこにでもある、家。

表札には漢字一文字。

その漢字は「乾」

そう、有彦の家だ。

あの時に浮かんだ、犯人。
こいつしかない。

他に考えられないし。


ピンポーン。
在り来たりのチャイムが鳴る。

中には人の気配。
まず間違いなく、有彦はいる。

この時間、有彦は学校に行く筈も無く、家で寝ているだろう。


うーい。なんて言いながら当の本人が出てくる。

ガチャ、と出て来た。

「単刀直入に聞きます」
先輩が真剣な顔で問う。

なのに。
「お、先輩に秋葉ちゃんでないの。それにお歴々の皆様まで」
なんて お気楽な感じで。

「ん?その後ろの黒服の女性は誰よ?いいカンジじゃない」

ニヤニヤと笑う

うーん。こいつ分かってないんだ。

「はっきり言います。貴方は遠野君をどう見ていましたか」
「は?」

先輩、こいつにそんなまわりくどい言い方したって無理。

「シエル。そんなの良いじゃん。あのさ、志貴が女なら良いって思った?」

アルク。又ストレートな。

「はい?」
「だから、志貴が女になったのよ」
で、と私を指差す。

指されて、ヤ、と手を上げる。

そこには黒服の女性。

「はあ?何こいつが遠野なん?又先輩。冗談きついぜ」
ハッハッハッハ。
豪快に笑う。

こっちも笑いたいわ。

「そう。この女性が遠野志貴。で、そうなんでしょ」
「んな訳ないでしょうが。俺はそんな趣味はないス」

とか言ってる。
まじ?

じゃ、誰が?
なんて事思っていると。

「しかし、遠野。よく化けたな。コレ何入れてん?」
ぷに。
私の胸をつつく。

途端。

ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ
体中に悪寒が走る。
背骨に氷が入れられたかの様な感じ。

突付いた当人も本物とは思わなかったらしく。
そのままの形で凍ってる。

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああっ」
又も絹を引き裂く様な乙女の悲鳴。

「え?ちょ、ちょっと待ってよ。なに?ホンモノなん?な、遠野」
あからさまに狼狽する、友人。

一方私は。
目に涙を浮かべている。
そんな様子を見ていた、ギャラリーの方が黙ってなかった。

ブワッ
見る見るうちに空気が変わる。

「「「こおおおおおのおおおお!!!!!」」」
人外の三人が一瞬で覚醒し。

後に残るは・・・・何だろう。

只、断末魔の悲鳴のみ、かな。

まあ、あの3人に掛かったら普通の人間なんて
物の何秒もかからないだろうし。

うう。ごめん。有彦。
男の時はギャグキャラだし。
女の時は只のヤラレ役。

しかも、嫌悪以外の感情がなかったし。触られて。

もし、元に戻ったらもう少し扱いよくするね。

さよなら。

そう言って、空を見上げる。
今はもういない友人を思って。


「って、待て。遠野まだ俺は死んじゃいないっっぞぉ!!」

聞こえません♪
だって遅いか早いかの違いだもん♪

「お前、性格変わってるぞ。何だその音符は」

あでう。我が好敵手と書いて「らいばる」。

未だに涙を浮かべた私を翡翠がいい子いい子してる。

えぐえぐ。


「遠野。恨んでやる呪ってやる。未来永劫お前を祟ってやるぅ〜」

「良いから早く死になさい。志貴に触って尚且つ泣かしたんだから」
金色の瞳の真祖の吸血姫が全力でボコッてる。

「遠野君を泣かせましたね。それだけで万死に値します。死んで下さい」
埋葬機関の第七位。第七聖典まで持って来てるし。
それじゃあ死ぬ云々じゃないよ先輩。

「よくも、よくも姉さんを。殺して上げます。全て「奪って」あげます」
紅の鬼。その能力を全開にして殺している。

しかし、こんな攻撃受けてて。よく死なないね。


「あはは〜志貴さんもやりますね。涙一つで男を殺すなんて」
「別に、殺したくて殺す訳じゃないもの」

だからまだ死んじゃいないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・・

そんな声が空に消える。













「さて」
今までの事が嘘の様な気軽さで、先輩が言う。

シ「違いましたね。では誰でしょうか」
ア「誰、ねえ。なんか、どうでもいいなあ。別に不自由してないし」
それは貴方だけです。私は早く戻りたい。

琥「そうですね。後は。シキ、ロア、ネロ。それにさっちん」
翡「それと秋葉様のご学友と志貴様の掛かり付けの時南先生達。」



秋「それよ!!それだわ!!!」
なになに?

ア「なに。何か分かったの妹」
秋「今はそれについては不問にします。ええ、分かりました。
  姉さんのご学友でないとすれば、
  私の学校にこの様な考えを持っているのがいます」

ああ。分かった。

あの娘ね。





秋「はい。おそらく姉さんの思った人物と同一人物です。
   瀬尾晶。おそらくは」


あの、未来視の女の子なら確かにこんな事を思ってもおかしくないし。
晶ちゃんはちょっとおかしな趣味を持っていた。
有明が何とか、同人が何とか。

シ「それで、今その娘はどこに?」

秋「今は・・・・無断外泊して。この町のどこかに」

広過ぎる。
それに相手は未来視。
こっちの事もお見通しだろうし。

さて。どう探すか。

琥「はい。こう言う時こそ翡翠ちゃんの出番です。さあ、頑張ってください」
翡「ええ、姉さん。行きます」
何するの、翡翠。

そして

翡翠は指をぐるぐる回し始める。

ぐーるぐーるぐーるぐーる ぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーる
ぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーる ぐーるぐーる
ぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーる ぐーるぐーるぐーるぐーるぐーる
ぐーるぐーるぐーる ぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーる
ぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーる ぐーるぐーるぐーる
ぐーるぐーるぐーるぐーるぐーる ぐーるぐーるぐーるぐーるぐーるぐーる


・・・・・・・・・・・・目が回る。

で?それが何か?


「あはは〜それはですね。翡翠ちゃんは洗脳探偵なんですよ」
又いきなり。

「私が割烹着の悪魔とか、まじかるあんばーとか言われてるのと同じです」

何の事だか


「分かりました。目的の人物は今アーネンエルベにいます」

何で分かる?
それに・・・・・いいや、突っ込むだけでなんか疲れる。



「では。アーネンエルベをお連れします」
?え?私達をお連れしますなら分かるけど。


そう思った瞬間。

目の前がぐらりと歪む。

なに?


景色がぐにゃぐにゃする。

進んでいるのか、戻っているのか。

いや、その前に時間がどうなっているのかすら分からない。





気が付くと私達はそのアーネンエルベの前にいた。




もういいや。
なにが起こってももう驚かない。

からん。
ドアに取り付けられた鈴が綺麗に鳴る。

中はシックな感じ。

洒落た感じの喫茶店。

女の子に人気があるのが何か分かる。

とか言って、実は私もここには何度か来たことがあるし。

その今会う娘に会う為に。

そんな事秋葉に知られたら、又血の雨が降る。

「姉さん」

秋葉が呼んでる。
もう見付かったんだ。

流石というか、何と言うか。

見ればその娘はガタガタと震えていた。

秋葉が居ればねえ。

「瀬尾。何をそんなに震えているのかしら。
何もしないわよ」

だけどその秋葉の態度が晶ちゃんには怖いんだって。

「あ、ああああ、あああ、あの遠野先輩。何の、用でしょうか」

「安心なさいな。何もしなくてよ。只、二三お話があるだけです」
何か普段の秋葉の学園生活がほんの少し見えた気がした。

「は、は、は、はい。何でしょうか」

秋葉が進行役だと先に進まなそう。

「瀬尾様にお伺いします。瀬尾様は志貴様についてこの様にお考えでした?」
翡翠が秋葉から引き継ぐ。

「えっと、どう言う事でしょうか」
開いたのが秋葉から変わったので落ち着きを取り戻した晶ちゃんが答える。

「はい。この黒服の女性は信じられないかも知れませんが志貴様なのです」

あ。やっぱり。
晶ちゃんの頭に?マークが浮かんでる。

「ええと。その女性が志貴さんなんです・・・・・うわわっ!!」
言い掛けた晶ちゃんに鬼の様な秋葉が睨み付けた。

「何を怯えているのかしら、瀬尾。どうかしました?」
言葉だけ聴くといいトコのお嬢様なんだが。

晶ちゃんが獣に睨まれた小動物にしか見えない。

「うーん。確かに私もそうなればいいかな、とも思いましたが」
ぴくり。

じゃあ。晶ちゃんが、犯人。

「でも、私じゃないです。私。未来視で見えました。あのですね」
そこまで言ってチラとこちらを見る。

「?なに?晶ちゃん」
慌てて顔をそらす。

「な、何でもないです」
?へんなの

「あはは〜今度の夏コミで使おう何て思っていますねぇ」
琥珀さんが突っ込む。

だから、夏コミって何?
晶ちゃんもガガ〜ン何て顔して。

「コホン。兎に角。では瀬尾様でもないんですね」
「はい。私、視えたんです。紅い、紅い。兎に角紅い人が」

全員の目が一点に向く。
「わ、私ではないです。違います」
ギロ。

「は、はい。遠野先輩ではありませんっ」
即座に晶ちゃんも答える。

「では、一体誰ですか?」
「済みません。そこまでは、分からないんです」
シュン、と落ち込む。

うう。女になってもこの仕草、かわいいな。

「紅、い。か誰ですかね。一体」

チラ。
先輩。お願いですから。
もうこれ以上のゴタゴタやめてえ。

「有難う、瀬尾。とても、有意義でしたわ」
皆が立ち去った後。

秋葉が晶ちゃんに礼を言う。

「いいえ。とんでもないです」

ああ、それと。
なんて言って、止る。

「又、今度ゆっくりとお話しましょう」
蛇の様なまとわり付くような言い方で。

その後、晶ちゃんがどうなったかは、又別のお話。









うーん。
又、違った。
手詰まりだな。

困った、ナ。

誰だろう本当に。

「紅いですか。何者でしょうか」
「何でしょう、先輩。私をまだ疑っているのですか」
ああ、二人が喧嘩始めようとしてるし。

「いいぞー、二人とも、妹やっちゃえ〜」
煽るな、アルク。

「あはは〜頑張って下さい。秋葉様」
「ふれーふれー秋葉様」
ああああ。二人とも。


もう二人の間にバチバチと火花が散ってるし。

いっそ、このまま旅に出ようかしら。

誰も居ない海。
二人の愛を確かめたくって


って、コレは歌の歌詞。

今の人に分かるのかしらこの歌。

でも。
本当、旅に出ようかしら。



あ。
案外いいかも。
全部うっちゃって、一人気ままな一人旅。


何か、心がうきうきしてきた。
いいかも。(はあと)




さー、じゃあどこ行こうかな。

久し振りに里帰りしようかな。

正確には墓参りかな。

父さん達こんな私を見たら、どう思うか、ナ。











また。
どこぞの爪噛みしてたニュータイプみたいにピキーンと来た。

・・・・・・いた。
もう一人。
紅い人物。

思い出したくなかったし。
けど、もうそうとしか考えられない。

あ、い、つ、か

その、犯人は。

はんにんは・・・・・












謎が謎を呼び次回へ続く。



















・・・・・・又かい。

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