3・学校 教室
人もまばらの教室。
もう放課後だし、当然よね。
空はまだ夕闇には早い。
日はまだ、高い。
そんな中
私達は残ってる。
残ってもらって私の話を聞いてもらってる。
「だから。本当に真っ暗の中で急に光と音がして。
光に吸い込まれる時に鍵だか羽だか、ああ、もう。
何だか分からないけど、そんな物見たの」
何で私の夢の事でこんなに力説しなくちゃなんないのよ。
けど
五月はそんな私の事を一笑に付す。
「ハッ。鍵?羽?何それ?」
五月はけらけらと笑う。
そんなに笑わなくてもいいじゃない。
ちょっとムッとする。
「本当なんだってば、ハッキリとは覚えてないけどさ。
よくは分からないけど、見たの!」
ハアアア〜
あーあ。
人選間違ったかな。
「分かったって。そうムキになんない」
五月は軽く言ってくれる。
私も少し落ち着こう。
大きく深呼吸。
「寝る前にそんな物見たんじゃないの」
「ううん。全然」
首を横に振る。
はああ〜
そんな大きく付かなくたって。
五月は後ろの男二人を向き、肩をすくめた。
「それじゃ私らは分かんないよ。
で?あんたは私らに何を求めんの?」
「何を・・・・って。
何か、アドバイス位、さ。ねえ」
と。男二人にいきなり話を振る。
男二人は
互いに顔を見合わせる。
そして苦笑いし、ホホを掻く。
「薫。しくよろで」
「俺かい?!」
薫。何でそんなに驚くの。
京も当然の様に頷くな。
「お願い、助けてよ、薫〜」
「止めい。気色の悪い」
「何よ、その言い草。うら若き乙女の願いよ。それが受けられないっての」
「冗談。どこが乙女じゃ。ったく」
薫が一人ごちる。
私もいい感じにストレス溜まってるぞ。
「でも。本当にお願い」
パン。
と両手を合わせ、薫を拝み倒す。
え〜と
ここで人物紹介を、ば。
まず。
さっき五月と呼んだ娘。
本名「水無月五月」十七歳。
私の幼馴染。
で、よく言われる「コギャル」を地で行く様な奴。
でも
いい子だよ。芯はしっかりしてるし、援交なんてしてない。
多少楽観的過ぎるのがナンだけど。
で
次。「睦月京」同じく十七歳。
一応私の彼氏、らしい。
自分でそう思ってるらしく
そう振舞ってるが私はそう思ってないし。
私達の中で一番の体力自慢。
でもまあ、一緒にいて楽しい奴。
トリは
「葉月薫」十八歳。
歴とした男だ。
京の親友。
私達の中で一番の博学。
でもって名前の事をからかうとトンでもなく怒る。
実は気に入ってるらしい。
はい。
終わり。
「で?話をまとめると、だ。
夢の中で、お前は鍵や羽を見た気がすんだろ?」
「そ。ハッキリと見た訳じゃないけど」
ふむ、と少し考えて。
「ま、簡単に言や、「自己からの脱出」か?」
「自己からの脱出?」
「そ、「鍵」はそのまま扉を開ける物の暗示。
「羽」は今の自分からの飛び出したいと言う願望。か」
全員、一言も話さない。
皆、薫の話を聞き入ってる。
「じゃ、じゃあ今の私から変えたい、脱出したいって言う心が
そんな夢を見せたと」
「じゃないか」
「何だ。大した事ないじゃない」
突然。
五月が大声を上げる。
余りの大声に驚く。
「そんな事の為に私達を呼んだの?」
ハッとして五月が慌てて口をつぐむ。
何もそんな風に言わなくてもいいじゃない。
何か視界が滲んでる。
「こんな事で悪かったわねえ!どうせ五月には何でも無い事なんだろうけ・ど・さ!」
「ゴ・御免!悪かったわ!!」
けど私はそのまま何も言わずに椅子から立ち上がる。
「どうせ私はまだお子様ですよーだ!!」
そんな捨て台詞を残して足早に教室を出て行く。
ムカッ腹が立ったので荒々しくドアを開ける。
で、力一杯叩き付ける様に閉める。
ピシャリと大きな音がした。
京と薫は五月の方を見る。
五月はバツの悪そうにして、下を向いていた。
「ありゃあ、言いすぎだろ」
「ああ。あそこまで言う事も無かろうに」
冷ややかに二人が五月を攻める。
「だってさ、余りにもお粗末なんだもん。二人もそう思わない?」
「お前も同じ様な夢見りゃ、弥生の気持ちも分からあ」
五月がジト目で京を見る。
「何よ。やたらと弥生の肩持つじゃない」
「馬ー鹿。俺もちょくちょく見んだよ、訳分からん夢」
驚きの余り、大きく目を見張る。
「え?あんたも鍵や羽見るの」
「いんや。俺の場合は「逃げる」夢」
「どゆ事?」
薫に聞く。
「弥生と同じさ。こいつも自己からの脱出」
だが
薫はそう言った後に、少しの間を置く。
不審に思い京が問い質す。
「?どうした。何かあったのか」
「・・・・いや、ただ、な」
歯切れの悪い言葉が返ってくる。
「ただ、何だよ」
「お前の場合は、単純にそのままの意味で良いんだが」
「・・・・何が言いたい」
そこで、又沈黙。
「オイ!薫」
「俺の杞憂だ・・・・」
そう呟いて薫は窓の外を見る。
二人もつられて外を見る。
外はもう夕暮れ。
この世の全てが朱に染まっている。
何か、物悲しい。
「・・・・・探す、か」
薫の言葉が胸に引っかかり、呟く。
「ああ・・・」
「そう、ね・・・」
3人
互いの顔を見合わせ、力強く頷く。
そして
先に出て行った弥生の後を追う様にして
教室を飛び出して行った。
4・商店街
私は一人トボトボと人込みの中を歩く。
別にこれと言って目的も無いんだけど。
「・・・五月の馬鹿。あんな風に言う事無いじゃない」
誰に言う訳じゃないけど、ポツリと呟く。
「そりゃ、さ。五月は良いよ。私より綺麗だし、スタイルいいし。
皆に好かれるし、非の打ち所なんて無いじゃない」
不意に
商店街のウィンドウに一瞬
沈みかけの太陽が当たり、目を射る。
刹那に顔を背ける。
暫く立ち止まって、目をこする。
チラとそのウィンドウを見る。
そして、ウィンドウに映った顔を見て、体が硬直する。
頭が真っ白になって、何も考えられない。
なに、これ、は
「・・・・・あなたは、誰?」
もう一度ハッキリ見ようとして、ウィンドウを凝視する。
「違う。・・・・さっきの絵じゃない。戻ってる」
何でそんな物見えたんだろう。
「私、だよね。・・・・おかしいな」
ウィンドウに写っているのは紛れも無く、自分の顔。
不思議に思い、首を傾げるが
当然、答えなんか出る筈も無いし。
ま
いいか
私はそれ以上深く考えもしないで
その場を立ち去った。
「あ、そう言えば」
フと思い出す。
「鏡、新しいの欲しかったんだっけ」
さっきの事を忘れる為、衝動買いに走ろっと。
5・夜 ファンシーショップ
ソロソロ店仕舞いをしようか、と言う店に慌てて入って行く。
店内の品々を一周して見て回り
気に入った鏡の一つ、手に取りそれを購入する。
満足気に
今買った鏡を袋からゴソゴソと取り出し閉じたり開いたりする。
うん
時間が無くてゆっくり見て買えなかったけど
コレは中々
直感に賭けてみたが
私の勘も捨てたモンじゃないわ。
自慢げに戦利品を見る。
パカと開く。
不意に
本当に不意に鏡に一筋の光が差し込む。
又、光が目を射る。
「キャッ」
慌てて鏡から目をそらす。
すぐに周りを見る。
どこにも光が差し込む場所なんて無い。
一体どこから
そんでもって
こんなにしょっちゅう光が飛び込んで来るのさ。
しかし
この光を浴びてから
意識が、クラリと揺れる。
何で?
意識を戻そうと、必死に頭を左右に振るが
全然、効果ない。
徐々に意識が消えて行く。
そして
意識が完全に途絶えるその時。
又
「鍵」と「羽」の様なものが見えた。
見えた、気がした。
「何で、又。私、そんなもの、知らない」
けど、結局
意識の方は戻ってくれなかった。
幕間
ようやく、体が自分の意思で動ける。
下界は何でこんなに素晴らしいんだろう。
欺瞞に満ちていて。
絶望と嫉妬の炎が体に心地いい。
ああ
何て素晴らしい。
この世界のどこが皆気に入らないのだろう。
こんなに居心地がいいのに
まったく、他人の考えは理解できない。
さあ
久し振りの下界。
ゆっくり冒険をしよう。