1・夢の中


まったく何もない。

真っ暗の空間。

無。

音も何も聞こえず、光もない場所。

その中に一人の女性の姿だけが浮かび上がる。

「ここ。どこ」

女性の台詞のみ、空しく響く。
木霊だけが何時までも響く。

「真っ暗。何も見えない。何も聞こえない」

糸の絡まった操り人形の様にぎこちない体を動かす。

しかし、その場で足踏みする様に動くだけで、まったく動かない。

「何。ここ」

一人。

呟く。

「誰か、いないの」



「ねえ。何なの。これ。教えてよ」

大声で叫ぶが、先刻と同じく 言葉のみが響く。

「誰か。・・・・・助けて」

やがて、声に力がなくなり、涙交じりの声に変わる。

涙を一杯に溜めて辺りを見渡す。

やはり、何もない、虚空。

「・・・・耳が痛い。静か過ぎて、頭が痛い」


突然。

前方から音の様なざわめきが聞こえ始める。

それと共に、うっすらと光らしきものも見える。

「光。それに、音、が」

光や音が見え始めた瞬間。


今まで動かなかった体がその方向に引き寄せられる。

「キャッ」

強力な何かによって、物凄いスピードで引寄せられて行く。

暗黒の中、滑る様にして光の方向に向かう。


そして

その光に入る

刹那の時。

視界の隅に何かが見えた。

「えっ。何。「鍵」と「羽」?」

だか

それを確認する事無く、光の中に引き込まれる。


一変して世界が変わる。

ああ。

意識が戻り始める。










2・自室


















ガバッ。

ベッドから跳ね起きる。

ハアハアと肩で息をしている。

まだ、焦点が合わない。


ツー

涙が一筋頬を伝う。

慌てて目に溜まっていた涙を両手で拭う。

「夢、だったのかな。不思議な夢。何だったんだろう」


ふう。

大きく溜息をする。

まず、心を落ち着かせよう。

部屋を見回す。

特にこれと言って変わった物もない。

次に

私は「如月弥生」十七歳。
青春真っ盛りな女子高生だ。

因みに昨今、流行した
黒くなったり白くなったりしてる様な輩とは違う。
いたって普通の女の子だ。

よし
多少混乱してるけど大丈夫。

「そう言えば」

「夢に出て来た「鍵」と「羽」。見覚えないなあ」

あの「鍵」と「羽」は部屋のどこにもない。

更に言えばそんな物自体私は「見た事」ない。

「五月達に聞いて見ようかな。でも」

はあ。
今日何度目かの溜息。

「又笑われるかな。高校にもなって。とか」

苦笑いしながらほほを掻く。

「特に五月は」


ベッドから起き上がり、んーと大きく伸びをする。

うし

「さ〜て。ガッコ行く準備しないとね」


幕間


私はまだ寝ている。

いや

私はずっと寝ていた。

意識だけ起きていて体はずっと寝ている。

だから、まだ寝ている。

多分ずっと。
そしてこれからも

そう思っていた。

けど

ある日。

何かが違った。

意識だけでなく、体も自分の思う様に動いた。

自由に自分の四肢が動かせる。

これで、
私は

自由だ。



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