ジャスミンの風

                                         
                                           
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= ネパール・セミナー出張報告書より =



1.内容および感想;


@室内セミナー(In-house seminar)
10月1日から3日までカトマンズ市内で室内セミナー(講演と発表会)が行なわれた。
本セミナーの発案者である吉田教授の自然災害の概要と当該セミナーの開催目的とネパールで開催する意義(山地災害と平地災害を併せ持つこと)
の基調講演から始まり、AIT(アジア工科大学)やバングラデシュ工科大学からの招聘教授による自然斜面災害の分類や洪水災害の特徴および対
応策等に関する講習、さらに主催者であるトリブバン大学の先生方による土石流災害や道路への対応事例、リモートセンシングやGISによる氷河の動
態観測他の講習があった。
当セミナーには、ブータンから5組10名、カンボジアから1組2名、タイから2組4名、マレーシアから1組2名、モルジブから1組2名と計20名のJICA関係の国外
参加者があり、それぞれ地盤沈下・地すべり・洪水災害等の実態や対応策およびそれらに対するJICAボランティアのかかわり状況他の発表がな
された。一方ネパール側からは、地すべり対策事例・河川の管理手法・氷河湖の拡大・植生による道路安定管理手法の実例・大学での地すべり
災害等の関係教科の紹介他の報告があった。それぞれの発表・報告に対して活発な質疑応答もなされた。各国の取り組み方はそれぞれ事情
があって多少は異なるものの、考え方の基本は同じで、共通の認識をもって取り組むことの意義および必要性を感じた。
このような国際セミナーで発表すること、それも英語でというのは初めての経験で、始まるまでは大きな不安があった。カンボジアで最も特徴的な災
害と目される洪水の実態(原因)とJICAその他による対応策の実例および現状の課題(人的・財政的資源の不足、組織のつながりの不徹底他)
について発表した。20分間という限られた時間内での発表であったが、図や写真を多く取り入れてできるだけ印象深くしたつもりである。最後に
メコン河氾濫原に堆積した特殊な粘土に起因すると思われる人工法面の被害実態と土性の解明に取り組む近々の調査予定を紹介した。結果
的には突っ込んだ質問もなくほぼ時間通りに終えることができ、ホッとしたというのが実感である。
先のバングラデシュの講師による洪水対策の講習で話のあった「Live with Flood」(洪水を敵視するのでなく、共に生きよう)という表現が特に印象
に残った。





A野外セミナー(Field workshop)
10月4日から13日まではカトマンズの西方150km余りのポカラ北西方に位置するカリ・ガンダキ谷を縦走する野外セミナーが行なわれた。この谷はかつ
てインドとチベットを結ぶ交易路であったジョムソン街道の一部ということで、チベットに源を発するカリ・ガンダキ川が刻んだ大渓谷である。
10月4日にバスでポカラに向かい、沿道の土石流跡や地すべり跡それに大規模な河岸段丘等を目前にして、早くもネパールの地形・地質のすさまじ
い実態を見せつけられた。
10月6日にはポカラから今回の野外セミナーの基点になるカリ・ガンダキ谷沿いの町ジョムソンに空路で向かい、そこからカリ・ガンダキ川の流れる谷筋を
さかのぼって北上。谷筋は急峻な地形の連続で、ヒマラヤ山系の地質構造の説明を聞きながら進む。大きな荷物を積んだ馬の隊列をあちこちで
見かける。ここでは馬が唯一の重量物の運搬手段である。我々も数人のポーターと数頭の馬を雇い入れる。途中から寒くなりウインド・ブレーカーを
着ざるを得ないほどだった。10kmあまり歩いて薄暗くなってからカグベニ集落(標高2,800m)に到着。夜は寝袋にくるまって寝る。翌早朝にカグベ
ニを出発して標高3,800mのヒンズー教の聖地ムクチナート間を往復する。ヒマラヤ山系の基盤を成す黒色石灰岩の層理の傾きや大規模な褶曲構造
が、また氷河流の堆積層さらには地すべり災害跡地が随所に見られる。ムクチナート近辺ではアンモナイトの化石がよく見つかる。
その後11日まで今度はカリ・ガンダキ谷を南下しジョムソンを素通りしてツクチエ・レテ・タトパニの各集落を縫って急峻な渓谷をいくつも昇り降りしながら
進む。砂粒混じりの冷たい風が強くてサングラスと口にはマフラーを巻きつけて歩く。途中で冷たい川をいくつかはだしになって渡らざるを得なかっ
たこともあった。教科書さながらの断層・褶曲・地層の傾き等の地質現象や大規模な土石流跡・地すべり跡・落石跡や石積み等による対応事例
が次々に現れる。特に圧倒されるばかりの鮮明で迫力のある褶曲構造や数限りなく存在する土石流災害跡をすぐ目前に見ていると、「世界の
屋根」ヒマラヤ山系がインド大陸移動による造山運動によって出来上がり、未だに隆起しつつあるということが納得できる。
終着のベニ集落(標高830m)まで全体の歩行距離は平面距離で100kmあまり、標高差約3,000m。後半は足の豆が破けそうになり歩き辛かった
が、心配された高山病に罹ることも無く、またマオイスト(反政府組織)に出会うことも無く済んだのは幸いだった。
12日にはポカラ市内で野外セミナーのまとめと印象等を発表し合って、今回のセミナーは無事終了した。
2.まとめ
     今回のセミナー参加、中でも野外セミナーはカンボジアでは全く体験できない内容で、特にカウンターパート同行ということに大きな意義があった
と思う。各地で常に見られたダウラギリ・ツクチエピーク・アンナプルナT峰等7,000〜8,000m級の白銀を戴いた山々のながめは素晴らしく、このせいでネ
パールに住んでいる人たちの心は寛大ではないかと想像されるほどである。タトペニで夜と朝に浸かった温泉は疲れて冷えた身体によい刺激を
与えてくれた。
      ネパールが地質学上の宝庫であることを実感でき、当地はまさに生きた教科書と言える。
この11月から我が校の土木工学科で初めてのEngineering Geology(土木地質)の教科が始まるので、その一環としてこの度の生々しい体験を
授業で披露する予定である。これまでも生徒たちには映像や写真等ビジュアルな手法で授業をした方が印象に残るだろうとの考えで、VCDによ
るアンコール遺跡の修復状況等いくつかの事例を実践してきたが、カウンターパートや他の教師たちにも以降につなげるものを残していきたい、と思っ
ている。


  以    上


   








                                         
                                           


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