ジャスミンの風

                                         
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7 -3- ある土木SVのボランティア活動







 4月の休暇に入り、当地で月2回発行しているシニアボランティア機関紙の編集長が一時帰国することになり、その間の編集の代行を頼まれました。その最新
号に投稿した原稿を以下に添付しておきます。

  ある土木SVのボランティア活動
                                5期 横山 羌泰
  乾季明けやらぬ去る4月6日(火)朝8時30分過ぎより、ワット・プノンのすぐ北側にある国立母子保健センター(NMCHC)内で、新築建物の開所式が盛大に行な
われた。テレビ4局に加えて地元の新聞社の取材もあったらしい。長かったような短かったような5ケ月間だった。

  NMCHC との出会いは昨年10月の初旬だった。ちょうどワット・プノンの南側にある公共事業運輸省(MPWT)内にある地図センターで、我がプレアコソマ総合技術
専門学院(PPI)の土木の教師たちを誘ってGIS(地理情報システム)の講習を受け始めて数日後に、突然知り合いのJICAの専門家から電話連絡があった。
NMCHC内に建物を新築するのであるが、地元の請負業者に対し専門の立場から要所要所で工事状況を確認してにらみをきかせて欲しい、とのこと。学
校も当面休み中で講習会場からも近いのと、前々から当地の建設事情を把握して学校での指導の参考にしたいと考えていたので、主として品質・出来形
管理および工程管理を行なう工事監理業務としてボランティアで引き受けることにした。
早速NMCHCに出向き、業務調整役の専門家や病院側のスタッフより設計図面・工事実施工程表他の図書を受け取り、工事概要や施工業者の状況他の説
明を受けた。NMCHCのExtension Projectの一環として、35m×15mほどの敷地に鉄筋コンクリート造一階建ての試験室棟(床面積=320m2)を新築、発注者は
JICAと保健省(MoH)で予算は約110,000US$、竣工日は2004年2月末日、とのこと。現場は地ならしは一応終って現地測量の最中。施工業者を交えた最
初のミーティングで、工事を進めていく上で必要な提出書類(現場組織表・材料納入元一覧・施工図・各種報告書等)および当面の施工要領他について打合
せた。業者の所長は中国系クメール人で以前日本の施工会社の下請けをしたことがあるとのことで、ある程度日本のやり方が分かっているようであるが、こ
の国の慣習等によりやはり細かいことになると行き違いが出て来る。先ず最初に討議したのは、彼らが持ってきた現地地盤調査結果と支持力計算によ
り杭基礎が必要だということだった。設計書にもその項目は無く、内容をよく見てみると基礎地盤の評価がおかしい。それを指摘して杭は不要で、直接基
礎で充分耐力がある、ということでキッパリと退けた。このことがあってから我々に対する見方が変わり、以降言うことをかなり従順に聴き入れてくれるように
なった。「段取り8分・仕上げ2分」という言葉があるように、最初が肝心である。



          



  毎週水曜日の午後に、工事の進捗状況を確認することを主目的に週間定例会議(週例)を病院側のスタッフも入れて開催することにし、あと現場の進捗に
合わせて病院側のスタッフと共に現場立会して、品質や出来形の検査を実施することにした。なお週例の議事録(英文)は施工業者側で作成し、次回の週例
時に提出・説明させて内容を全員で確認してサインし合うことにした。また予め施工図の提出,コンクリートや鉄筋・床タイル・屋根材等の材料確認,測量,基礎工事,
梁工事,床工事,柱工事,天井および屋根工事,排水工事等の検査項目を定めておき、確認する毎に病院側・JICA側・施工業者側で月日とサインを記入する
管理チェックシートを作成しておいて、確認漏れや行き違いの無いようにした。中でも特に注意を払ったのは、建物の全荷重がかかる基礎地盤の硬さ確認と
柱のコンクリート打設だった。念入りに立会・確認したが、当国には地震が無いため柱の断面が20cm×20cmと小さく、コンクリート打設時にジャンカ(砕石や砂利が
集まってできる巣)が生じ易い。そこで通常の振動機に加えて型枠の外からも振動を加えさせた。結果は良好でジャンカは生じなかった。またコンクリートにつ
いては何回も生コンプラントに出向いて強度試験に立会した(念のため一部はMPWT付属の試験場でも実施)。
乾季ということで雨にはほとんど見舞われず、また工事は日曜・祝日(正月休みも)も休みなく続けられ、ほぼ実施工程通りに進捗した。本年2月の中旬に
はJICAの検査員による竣工検査を受け、各部屋の寸法や高さ・ドア等内装の建てつけ状況・雨水および汚水の流出状況・屋根から放水しての水漏れの
有無等を確認し、特に大きな問題は無かった。一部ドアの建てつけ不良ケ所・外壁の塗装不良ケ所・トユの接着不良ケ所・外回り歩道のヘアクラック発生ケ所等
の補修後の状態を確認して2月下旬に病院側に一式引き渡した。なお電気・空調関係は別途SVに見てもらった。
  請負契約書によると瑕疵期間は12ケ月とのことで、来年の2月末日に経年調査を関係者で実施することを約して、延べ5ケ月に亘った業務を完了した。



  



 "Health Garden Building"と名付けられた新築の試験室棟の開所式には、大勢の看護婦や医師たちに迎えられてHong Sun Huot保健大臣が到着、高橋
日本国大使・力石JICA事務所長らと共に段上に着席して式が始まった。カンボディア国歌吹奏のあとKoum Kanal NMCHC院長による歓迎のスピーチに続い
て、力石所長・高橋大使そして最後に保健大臣の開所を祝うスピーチがあった。この間約1時間。その後場所を新試験室棟に移して、保健大臣他によるテー
プカットが行なわれた。続いてシャンパンが抜かれ祝杯。そして大臣たちは試験室をはじめとする棟内を院長の案内で熱心に視察された。10時前に滞りなく終
了。

          

  夕刻18:30頃より今度はNMCHC主催でクメール新年のお祝いを兼ねてのディナーパーティがNew World Restaurantで行なわれ、招待を受けたので出席した。
200人は優に食事できる生バンド・歌手付きの部屋で、着飾った看護婦達や医師・試験検査員・病院のスタッフ達関係者全員が参加した。ビールを注いで廻っ
ていると、別のテーブルに我が家の大家が座っているのにバッタリと出会い驚いた。が考えてみると自宅で産婦人科を経営しており、また保健科学大学の教
授でもあるので納得。おいしい料理を賞味している途中からクメールダンスになり、我々は20時過ぎに退席した。







 今回の工事監理業務では設計サイドとは特に接触しなかったが、本来設計条件や構造計算・排水計算等の内容も事前に確認しておくべきことである。
当国では工事が始まってしまうと施工業者は設計者とは全く無縁になってしまうようだ。また日本のような充分な施工管理基準が無いため、検査がし辛く
行き違いも多少あった。が、この国の生の建設事情の一端をかいま見ることが出来た。さらに熟度の高い情報を集めて、この貴重な体験を赴任先の学
校での指導材料として生かしていきたい。
 なお、この現地施工業者の所長には好意で、私が個人的に手助けしているある孤児院の運動場整備のための土材料およびその運搬・締固め・芝種の
蒔きだし等の労力を格安で提供してもらう、という後日談がある。
 このような専門家と我々シニアボランティアさらには青年海外協力隊員等と連携してできる有意義な業務が他にも色々あると思う。All JICAとしてより大きな
機能が発揮できるのではなかろうか?
                                    
以 上

*本日日本人会主催のソフトボール大会があり、我がJICA-Aチームは2勝1敗の得失点差で優勝して、祝
  勝会から帰って来たところです。



          25/Apr./'04 プノンペンの自宅にて
                                 (明日から学校です)




                                         
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