閉経後の女性における便秘と心血管疾患の発症リスクとの関係
最新疫学研究情報No.88
米国のマサチューセッツ大学医学部循環器系内科のElena Salmoirago Blotcher主任研究員らの研究チームによって、「閉経後の女性における慢性的な(重度の)便秘は、心血管疾患の発症リスクを増大させる」との報告がなされました。
米国では、1958~1986年に便秘の診察を受けた人は年間250万人でしたが、ここ10年間で女性や高齢者の患者が倍増し、その医療費は69億ドルに達するだろうと予測されています。しかし、便秘に関する科学的文献は少なく、病因学・生理学の分野においても十分に究明されていないのが現状です。アーユルヴェーダや中国医学では、“便秘は深刻な病気を引き起こす可能性がある”という考えに基づき、何世紀も前から腸の浄化を医学療法の柱としています。便秘と慢性病(*心血管疾患を含む)との関連性についての研究報告は、現時点ではわずかしかありません。しかし便秘の要因の多くが、心血管疾患の危険因子と共通していることから、今回の研究では、「閉経後の女性の便秘と心血管疾患の発症リスク」との関連性を明らかにするために、調査が実施されました。
研究チームは、WHI(※1)の観察研究の登録者(*50~79歳の閉経後の女性93,676人)に対し、過去4週間の便秘の状態(*排便が困難かどうか)についてのアンケート(*健康状態や生活習慣に関する質問も含む)を行いました。その中から73,047人を選出し、提出された回答をもとに、被験者を「便秘なし(65.3%)」「軽度(25.7%)」「中程度(7.4%)」「重度(1.6%)」の4つのグループに分け、6~10年間の追跡調査をしました。
調査の結果、軽度から重度の便秘のグループは、動脈硬化・心臓発作・脳卒中・心疾患による死亡率が、便秘なしのグループよりも高かったことが明らかになりました。しかし、人口統計・危険因子・食事内容・医薬品などさまざまな条件を調整したところ、重度の便秘のグループだけが便秘なしのグループに比べて、心血管疾患の発症リスクが23%高かったことが確認されました。軽度と中程度の便秘のグループでは、その関連性は見られませんでした。
今回の調査により、慢性的な便秘の人には、高齢、人種(*アフリカ系とヒスパニック系の米国人)、低学歴、精神的な弱さといった傾向があることが明らかにされました。さらに心血管疾患の危険因子である肥満・高血圧・糖尿病・高コレステロール・喫煙・運動不足などのマイナス要因も1つ以上持っていることが判明しました。また軽度から重度の便秘のグループでは、高い割合でカルシウム拮抗剤または利尿剤を服用していることが確認されました。さらにうつ病の有病率も、便秘のグループの方が便秘なしのグループに比べて高いことも明らかになりました。中程度から重度の便秘のグループは、便秘なしのグループに比べて、食物繊維・アルコール・水分の摂取量がわずかに少ないという結果が見られましたが、総摂取カロリーにはそれほど違いはありませんでした。
研究チームは「今回の研究により、重度の便秘と心血管疾患の発症リスクとの関連性が示唆されたが、これらの関係を結び付ける可能性のあるすべての要素を考慮することはできなかったため、この結果から明確な結論を引き出すことは難しい。重度の便秘の被験者も全体のわずか1.6%で、データ不足だったこともあり、今回の結果を再確認し、男性や若い年齢層においても同様の成果が得られるかどうかを確かめるための、さらなる研究が必要である。プライマリー・ケアにおいて、便秘は簡単に判断できるので、心血管疾患の危険にさらされる可能性がある女性を特定するための便利なツールとして役立つかもしれない。女性は下剤に頼るよりも、問題に対処するためのライフスタイルの改善を検討した方がよいだろう」と述べています。
※1WHI(女性の健康イニシアチブWomen's Health Initiative)は、1991年に米国国立衛生研究所(NIH)によって設立された、女性の健康に関する総合的な研究機関です。ここでは、閉経後の女性を対象とした米国最大規模の臨床試験や観察研究が行われています。
出典
- 『The American Journal of Medicine 2011年8月号』