混乱状態にある現代のホリスティック医学界

“ホリスティック”という言葉が示す医学の本質

「ホリスティック医学」という名称は、それがどのような特徴を持った医学であるかを端的に示しています。“ホリスティック(Holistic)”という言葉は、生命の全体性という意味のギリシャ語(ホロス・holos)を語源にしています。

この“ホリスティック”という言葉には、近代科学の要素還元主義(*対象を細かい要素に分解して、その性質や働きを明らかにしようとするあり方)への異議と批判の意味が込められています。近代科学とそれを土台とする西洋医学(近代・現代)のあり方を批判する言葉です。近代科学と現代西洋医学は、生きている人体をバラバラにしてミクロの部品に還元し、それを調べて病気の原因と治療法を解明しようとします。

ホリスティック医学の本質は、近代科学と現代西洋医学の要素還元主義に基づく機械的人間観(*人体を精密機械のようなものとする考え)に対する“アンチテーゼ”という点にあります。それが“ホリスティック”という言葉として表明されています。ホリスティックとは“全体性・丸ごと”という意味で、ホリスティック医学は「全人的医学」「全的医学」と理解されています。そこには現代科学・現代医学から見ると医学の範疇(はんちゅう)からはみ出た内容も含まれるため、医学思想・医学哲学であると主張する人もいます。取りあえず、「全人的医学思想」と言っておくのがよいでしょう。思想の中の一部分として医学(科学)を含んでいると考えれば、全体の構図を正しく押さえることができます。

米国ホリスティック医学の現状――理想は共有されているが、具体的な内容はバラバラ

アメリカでは、1950年頃から従来の文化・伝統的宗教(キリスト教)に対抗するというカウンター・カルチャー運動が起こり、ニューエイジ・ムーブメントが形成されていきました。そうした一連の動きの中から、新しい医学として「ホリスティック医学」が志向されるようになり、1978年に「全米ホリスティック医学協会」が設立されることになりました。アメリカにおけるホリスティック医学は1980年代に活発化し、多くの人々に知られるようになりましたが、内部に多くの問題を抱えていました。ホリスティック医学関係者が自分なりの見解を主張し合うという中で対立や派閥争いが起こり、現在も足踏み状態が続いています。

そうした停滞を引き起こしている最大の原因は、関係者全員が共有することができるホリスティック医学の理論モデルがない、というところにあります。“アンチ現代西洋医学・アンチ要素還元主義・アンチ人間機械論”という点で方向性は一致しているものの、それを理論化した「共通の医学思想体系」を構築することができずにいます。いつまでたっても、誰もが受け入れられるホリスティック医学の「理論モデル」をつくり上げることができないのです。「ホリスティック医学」という理想と目標は共有していても、具体的な点になると各自がそれぞれ異なる見方・考え方を主張するため、共通の理論モデルを確立することができないのです。その結果、現在のホリスティック医学は、バラバラな考え方をする自称ホリスティック医学関係者の集まり(サロン)になっています。

残念ながら、現時点でのホリスティック医学は「共通の理論モデル」がないため、理想から大きくかけ離れた状態に置かれています。ホリスティック医学協会全体が混乱状態に陥っていて、1つにまとまることができないのです。

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