counterfeit ; L'odeur de la Papaye verte 02




 遠くから見るに、主人一家には自分とそう歳の変わらない息子がいるようだった。
無論上流階級に居住する彼らとは棲む世界が違う。正面に顔を合わせることは生涯無いだろう。晒を片手に棚の置物をすっと退かしながら力を籠める。
置かれた陶器一つ、関口の身より重いと言う。
榎木津に来たばかりの頃、人に聞いた話だ。
晒を水桶の中に入れる。
沈む晒。小さな水面に大きな波紋が起きた。関口が水の中へ躊躇いも無く腕を入れ、両手で晒を揉む。そして水から取り出し、絞った。肘を張って。
その時、音が轟いた。
関口の右横、正しくは右の背後だ。
「あ、」
声を上げた。
放心円状に飛散した陶器の破片。
豊かな色彩。
揺るぎの無い断片的な線。
それは、関口の身より重い──────
瞠目する。頭が真白になり躰が強張っていた。水が滴る指先。その所為ではなく、指先が冷たい。僅かに躰が震える。崩れるように膝を着いた。
其処には微塵の、破片。
革靴が視界の端に入った。
目地まで手入れの届いた輝くような靴だった。靴から伸びるズボンの生地は上等なものだ。
革靴は関口に近付く。
そんな靴を履く人間は
もう生きていられないかもしれない。
それ程榎木津の家は強大だ。
死刑通達人。
否、執行人はそんな上等な靴や衣類は持ち合わせていない。
関口の眼前に腕の降りてきた。
そして腕を掴んだ。
破片に触れようとしていた関口の腕を掴み、立ち上がらせた。
顔を─────正面に初めて見た。
思わず見蕩れる。
如何にも端整な、男性だった。
その脣に彼の長い指が縦に添えられる。
関口の身を反転させ、背を押した。
頸だけをそっと後へ向けると、彼が優しく片目を閉じるのを見た。






??/11/06






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