counterfeit ; L'odeur de la Papaye verte 01




 項に薄らと汗が浮かんだ。背筋の窪みを辿って緩慢と汗の珠が蛇行して往く。
眼の下にも汗が溜まっていて、手の甲でそれを拭った。関口の手元ではパパイヤが薄く千切りになっていた。不図吐息が漏れ、再びパパイヤを引っ繰り返した鉋の裏側のような削り器へ沿わせた。
母は郷里で教師をしている。だから仕送りはしなくて良い。ただ彼女の給金では、関口を養えなかった。父はもっと以前になくなった。だから孤児院へ出され、長じて此の屋敷へ住み込みで働くことになった。
不器用なことは自覚していたが働かなくては餓え死ぬだけだ。
幸い孤児院では学校に通い、関口は読み書きが出来た。棲込み先はそうした人間を求めていたらしい。
奉公に出た屋敷は実に広い。
関口は概ね炊事や洗濯が主な仕事で、所謂奥の仕事だ。関口を雇う主人一家に会うことさえ度々にも無い。腕の立つ料理人は他に居る。関口はほんの手伝いでしかない。
その手伝った料理を他の人間が運び、主人一家は食べる。
主人一家が空にした食器を他の人間が運び、関口が洗う。
永遠に回り逢うことの無い人々。
──────そんな心構えでいた。
皿に薄く切られたパパイヤをこんもりと載せ、近くの卓子へ置く。そして直ぐに料理人が主菜を添えた。
睫毛に汗が溜まり、指先でそっと払う。
傍の桶から柄杓で水を汲み、互い違いに右左に水を掛け、手を濯いだ。
宵は唐突に暮れ、関口は泥む空の色と紫掛かった流れる雲を見上げた。
母屋が賑やかになる。家人が夕餉に集ってきたのだろう。その間に主人の寝間を整えなくてはならない。
大概こうして榎木津家に於ける関口巽の一日は終わる。






??/11/06






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