bisous_06


恋をするのに相応しい────

 外界は薄暗く、雨が降っていた。
「何だい、それは」
怪訝に眉を顰めて見れば、鳥口は酷く慌てた風情で執成した。
「否、此の雑誌にそう書いてあっただけで、決して僕がそう思ったとかそんな街に中禅寺さんとその相手が居て恋をしているとか思っているわけじゃなくて」
鳥口守彦と云う良く見れば二枚目な橇犬に似た青年はお調子者ではあるが決して気が利かぬ人物でも唐変木でも朴念仁でも無い男は、時々酷くどうでも良い余計なことまで云ってしまってその場を気不味くすることがある。決して彼が故意にそんなことを口走っているわけでも無いと理解している関口は如何返すべきか解らず凝乎っと鳥口を見るだけとなってしまった。熟視する目に鳥口は身を竦めて目をぎゅっと瞑った。
鳥口は関口を可哀想だと思う。
そして鳥口はただの同情者だ。つまりは傍観者だ。所詮は他人事だろう、と関口に看做されるのは不本意だった。だからこそこうして関口に彼を追いかけることを責付いているのだから。時々、不意に中禅寺の言葉が亡霊の様に現れることがある。
『だったら君が口説けばいい。僕に妻が出来るように、関口には君が出来る』
それはぞっとする程に蠱惑的で、何よりも鳥口の好意が看過されていたことへの恐怖でもあった。否、中禅寺にしてみれば見過ごして上げていた、と云う処か。中禅寺は平然と関口へ好意を持つ男を傍において何でもないような顔をしていたのだ。
 申し訳なさそうな顔をして目を閉じている鳥口の顔から眼を反らして関口は雨の降る外界を見た。雨滴が窓を伝っていた。そして薄暗い其処はまるで鏡のように関口と眼を閉じた鳥口を映し出していた。
一体何時から双心があったのだろう。
鳥口が知っていると言った中禅寺が今いる土地名を予てより中禅寺本人から聞いていた。妹が知人の許へ預けられていると、何度か跫も運んでいた筈だ。
思えば、旅はどうだったと訊ねても一度も中禅寺はその旅路の話をしたことはなかった。中禅寺と云う男はまるで魔法の様に人の気を逸らすのが上手い人間だったのだ。妹に会うと称して、相手に会いに行っていたのだろうか。
けれど、中禅寺は慥かに関口のことを好きだと云った。
それは慥かだ。当初酷く困惑して苦い思い出でもあるけど、今では甘くて美しいような気もする。
冬の雨は寒い。暖房が利いている筈なのに、関口は腕を摩って生成り色をした碗に手を伸ばした。注がれた珈琲は疾うに冷え切っていたがそれでも口にすると苦味ばかりが感じられた。
自分を振り返ろうとすると、そのあらゆる情景に中禅寺秋彦がいることに気が付く。今では殆ど郷里にいた頃のことは思い出さない。あの頃を生きていたとも感じられないのは、きっと、多分、否────中禅寺に出逢ったからだ。
彼の言葉が関口に生の彩を与えた。その後には性も。
それは中禅寺にとっても同じだと言うことを関口は知っている。あの日────二人の何もかもが変わった日、中禅寺は関口にそう告げたのだ。
口の中に苦味が一層拡がった。
幸せだった。
恐らく、互いに。
だのに何故今こうして中禅寺は関口の許を去る必要があったのだろう。そして去るのなら何故一言も告げてくれないのか。 「双股を掛けていての後ろめたさでしょう?」 と云ったのは目の前で未だ眼を瞑った儘でいる青年だ。 双股とは不思議な言葉だとも思う。 要は一つの股に対し、二つの股があることを言うのだろう。どうしたって一つの股が一つの股と嵌っている時には、もう一方の股は疎かとなっている。……それは寂しいことだ。腰をもぞりと小さく動かした。では中禅寺にもう一つの雄芯があれば解決するのかもしれない。不図中禅寺の股間にもう一つの物を想像して、そんなことを考える自分が余りに滑稽で関口の口元は少し歪んだ。もしかして声も漏れていたのかもしれない。
「関口さん、あのすみません…」
震えた小さな声が関口の滑稽な想像を掻き消した。
「いいんだよ。君に謝ってもらうことじゃないし。それどころかきっと僕は感謝しなくちゃならないんだろうし」
かといって中禅寺に謝って貰いたいのかと云うと、それも違う。中禅寺に此処に居て欲しいのだ。
「感謝なんて!」
「その雑誌みせてくれよ、綺麗な処なんだろう?」
雑誌の見開きを鳥口は関口の前に差し出した。下方に灰藍の湖があり中央部には山並みを背景に森林の緑と湖に突き出す優美な邸宅が映し出されていた。
そしてその頁には『此の街は────恋をするのに、相応しい』と赤字で印字されていた。
慥かに此の優美な邸宅の露台テラスに人間二人が立てば忽ち恋に落ちるかもしれないと思わせる。
「こういう処なんだ」
頁を繰れば山肌に咲く水仙の景色の写真があった。その傾斜した先には濃藍色をした湖がある。隣の頁には旧い町並み細い石畳の路地や洒落た喫茶、旧所名跡には古代の遺跡もありその中で競技場の建造物もあった。湖にはヨットが停泊し、湖の食材と山の幸を使用した郷土料理店、優美なホテルが二三軒紹介されていた。
「此の頁にですね、ヴィラ・キョーゴクと言うホテルがあるでしょう?」
鳥口が箇所には指し示した慎ましい宮殿のようなホテルの外観と広くてホスピタリティの行き届いている客室の写真があった。
「うん、」
「元々は菓子屋だったらしいんです」
「菓子屋?」
「はい。で菓子屋って向うでは惣菜も扱うらしくって、其処からオーベルジュに成ったらしいんですね。これが十九世紀も後半の話です」
「オーベルジュって?」
「旨い食事を主にした宿屋です」
簡単に鳥口は云ったがそれが本当かどうかは関口には確証が取れない。きっと中禅寺に聞けば、と思考を廻らせて打ち消す。全く根本的な思考に彼が組み込まれているのだ。まるで我が身の一部の様に。
「でも十九世紀…ってその中、ナポレオンとかの時代だろう?未だ各国に王族とか貴族がいて。ほら此処に貴族の避暑地だったとか書いてある。そんな時代にお…オーベルジュ?」
「同時に産業革命の時期でもありますよ。貴族階級が崩れだして、ええとつまりは資本家が居たってことです」
「う…ん。そうかなぁ?」
「話の腰を折らないで下さい」
注意されたが果たしてこれが話しの根幹なのかが解らない。鳥口は何を云いたいのだろうか。
「資本家が求めるのは金の次には地位と貴族のような生活ですよ。実際それまで貴族しか手に入れられなかった特別を手にしたいんです。けれど、同時に合理主義でもある彼らは避暑には訪れたいけど…って人たちもいたみたいなんです」
「はあ、」
「旨い食事の少ない部屋数。需要にぴったり」
「そうかな?…まあいいや。で?此の宿はとても旧い老舗ってこと?」
「そうです。部屋数を増やしてオーベルジュの形態はとっていないみたいですが、それでも食事も旨くて美しい宿」
「一生縁が無さそうだ」
関口が指でこつりと雑誌の宿の写真を打つとその手に鳥口の手が重ねられた。驚いて手を引こうとすると、鳥口が握った。顔を上げる。青年は思いつめたような厳しい顔をしていた。
「此処が、中禅寺さんの相手の家なんです」
「え…」
「此のホテルの支配人の娘さんだそうです」
恋をするのに相応しいと書かれた雑誌の見開きの頁にあった優美な邸宅のテラスに、中禅寺とその相手の女性の姿が浮かぶ。二人は見詰め合って、そう────恋をしている。
「此処に予約を入れます」
「鳥口くん」
青年を呼ぶ声が上擦った。
「流石に中禅寺さんがそのホテルの利用者情報を得ることは無いでしょうから、関口さんのことはばれないでしょう」
そして────。
そして、どうしろと云うのか。己はどうしたいのか。
関口は咄嗟に思いつかなかった。
ホテルの人間、従業員の目を盗んで中禅寺に会うのか。それとも支配人一家と仲良く会食して居る処に恋人面をして乗り込んで行くのか。
 雑誌は色色な季節の写真を掲載しているようだが何れも眩くて明るい季節のようだった。先刻鳥口は貴族の避暑地だと云っていたから夏のこそ美しい季節なのだろう。今の季節は如何なのだろう。関口は再び目線を窓へ転じた。雨が降る外界は鈍色の雲が重く垂れ込めていた。



 その街は湖の恩恵を受けて栄えてきた。
いにしえには要塞の一つで古代帝国がその版図を広げる為の要地であったらしい。湖は『Y』の文字が右回りに260度ほど回転した姿をしていた。湖の両側には山が迫って大小の入り組んだ入り江があった。十九世紀には産業革命の余波が此処にも押し寄せ、養蚕による生糸産業が盛んだったが、今はひっそりと鉱業都市を形成している。
 午睡ねむるように静かな街だった。
それもその筈だろう。既に聖誕節を過ぎた季節に主に避暑に使用される此の小さな山間の湖の街に客は来ない。駅から車を使う気になれず大通りを行けども軒を並べる舗の三軒に二軒は閉めている。
駅員に二日前に大雪が降ったと聞いていた。良く見れば道には融けない雪が片隅に寄せられているのが見受けられた。しかし雪の気配はそのくらいで、町並みの中に白いものは無い。顔を上げた山の頂付近に白い雪はあるくらいだ。此処は雪が少ないところだと駅員は語っていた。どうせならもっと美しい季節に来れば良いのに、とも。駅員の云う『美しい季節』とはきっと雑誌に掲載されていた野辺に水仙の咲き誇る頃合いなのだろう。あの馥郁たる香りがまるで街中に立ち込めているようだと書かれていた。
そんな美しい風景など関口には今一つ想像できない。ゆっくりとゆっくりと歩んでいると時折高級車が道路を過ぎて行く。冬には冬で、冬らしさを味わいに来る客もいるのだろうか。
そう思ったのはホテルの客が思った以上に多かったのを知った時だった。
 関口はホテルから少し離れた道筋でその建築物を見上げることに成ってしまった。普段俯き加減に居るだけに頸が少し痛い。何処がヴィラなのだ。と思ったがすぐに改める。鳥口はヴィラであったのは嘗ての話で、先代が没落した貴族の瀟洒な別邸を買い取ったものだと云っていたではないか。黄土色の八つの柱。車寄せのファザードからエントランス入り口の扉までには濃緑色をしたフロックコートの男性が立っている。ホテルの上方を見上げれば、五つの階を有する黄土色をした石造りの舘であることが解る。天辺には時計の小塔が乗っていた。ファザードの上には等間隔に国旗と地域の旗と嘗ての所有者、つまり嘗ての貴族の紋章旗が掲げられている。道脇の常緑の植栽に寄りホテルを窺うことにした。余りに場違いだ。己の身形を検めてもどうしたって、此処には似合わない。エントランスの扉の両脇は一面の硝子張りで、内部で寛ぐ上品な老夫婦の姿や、恋人と思しき並んだ男女の姿があった。矢張り場違いだ。
 それでも来てしまったのだ。
関口は大きく溜息をついて鞄を持ち直した。足止めを喰らった当日にお潤の店で酔う前に連絡を入れていたから、きっと未だ関口の予約は保留状態の筈だ。キャンセル料は宿泊の有無に関わらず全額を支払うことになっている。
溜息が漏れる。
勇気を出そう、と思ってすぐに勇気なんて何処にあるのかと改めた。そう。だって玄関前にいるドアマンが関口に気付いてにっこり笑ったのは、関口が大股に跫を踏み出したからでも無く、ただ足許がふらついた結果だったからだ。よろめく跫の為にもう一方の跫を出したら、木陰から姿が食み出た結果だったのだ。大きな荷物と此の建物の前に立っている男。どうみても観光客で宿泊客以外の何物でもない。もう逃げも隠れも出来ない。今の気持ちこそ暗澹たるものだった。関口は『儘よ』と、莞爾と笑うドアマンに覚束無い足取りで近付いていった。
「いらっしゃいませ」
と滑らかな発音で声を掛けられる。何と返して好いのか解らず曖昧に微笑んでみた。果たして微笑みになっているのか解からない。ただドアマンは一層口角を上げて笑んで扉を開けた。
荷物を持たれる。扉を閉めると風除室を過ぎてもう一枚の扉を開ける。飴色の扉だった。此れにも透明な硝子が填め込まれて其処を潜れば、眩いばかりだ。不思議な光景があった。
高い天井は半円形をしていて、その真下には円い噴水が飛沫を上げているのだ。そしてその先には中央には濃藍の絨毯が敷かれた長い階段が見えた。
「どうされました?」
ドアマンは絶句したように動かない関口を振り返った。
「否、ちょっと驚いて」
「初めていらっしゃったお客様はみなさま仰られます」
噴水の周りには四角い卓子と椅子が置かれていた。
ドアマンは関口をその一つの卓子に導いた。そしてすぐに初老の男性が現れた。細い銀淵の老眼鏡を掛けた柔和な男性はゆっくりと一礼して「関口さまですね」と確認した。何の千里眼だろうか。関口は白地に驚いた。
「どうして…私が関口だと」
「本日最後のお客様ですから、」
種を明かせばなんとも簡単なことだ。関口は余程此処へ気遅れしていることを自覚した。
「霧は災難でしたね」
「申し訳ありません」
「謝って頂くには及びません。下界の霧で此処に来れない方は度々いらっしゃいますから」
「下界?」
「北部鉄道の向こうを我々はそう呼びます」
そう笑って、此方にご署名を、と促された。関口は卓子に差し出された小さな用紙に名前と住所を記名した。自分の文字の下手さが目に付く。
「ご宿泊は当初五日でしたが、遅れましたので残り三日と云うことになりますが…改めなさいますか?」
因みに泊まれなかった二日は全額支払いだ。
「否、はい…三日でお願いします」
「お支払いは現金もしくはカード、どちらに?」
「…か、カードで」
「承ります。手続きを済ませますので少々お待ち下さい」
四辺を眺めやれば先刻外から見た上品そうな老夫婦がいて、その近くには二組程居る若い男女の卓子には碗があり湯気があがっている。
喫茶も兼ねているのかもしれない。
足許に紙が滑り込んできた。黒い牛と煌びやかな衣装を纏った男がいる。手には赤い布地。
「すみません」
老紳士が腰を上げて関口の許へ来た。関口と同じくらいの背の高さに見えるので、かなり小柄な紳士だ。
「手を滑らせてしまって」
「否。…あの、これは…」
「闘牛ですよ。こんな処で珍しいでしょう?」
莞爾と笑んでいる。
「何処で?」
「円形闘技場でですよ。ご覧になりませんでした?」
「観光には、未だ行っていなくて」
「湖側じゃなくて、もう少し山際にあるんですよ。古代に軍隊が越山するのに此処は要所でしたからね、当時の痕跡があると言うのは中々浪漫じゃないですか」
そういわれてもはあ、と応える他関口には術が無い。古代の闘技場など正直余り知らないからだ。
「明夜、闘牛があるそうで。是非云ってみようかと」
「此の季節に?」
流石にシーズンではないのではないか。
「闘牛の本場、という訳ではありませんからね。どうも此処は何とかして客を冬にも呼びたいらしい。私達のような好事家だけでなく。そう云う努力は嫌いではない」
老紳士がにこやかにそういうと傍で「お待たせいたしました」と声が掛った。
「お部屋にご案内いたします」先般の男に荷物を持たれると、関口は少し会釈し老紳士から離れた。
 エントランスの噴水を巡り足は長く緩やかな階段に向かった。
白い大理石造りの階段には慎ましやかな濃藍色をした絨毯が敷かれている。
「長い階段ですね」
果たして此処まで長く作る理由はあるのか疑問になるほどだ。
「此の階段は花嫁のドレスの裳裾と長い薄絹布ベールを映えさせるものの為なのです」
「え、」
心臓が魚のように跳ねた。心うちを見透かされているような感覚に襲われる。
「嘗てはさる貴族の館でして、その方のご令嬢の婚礼を行う為に建てられた館なのですよ。実際には此処を花嫁が通る時には絨毯は取り払ったみたいですが」
因縁を感じるような話を関口は何処か上の空で聞いていた。
 外界は未だ明るかったが館の廊下には等間隔に左右交互に明りが点っていた。仄黄色い蝋燭の色合いに似た電燈である。潤の家に似ている。あの家には蛍光灯が無かった。彼女が言うには「蛍光灯なんて工場で働くように開発されたもんなのよ。隅々まで何もかもみえるようにね。陰影も深さなんて全然気にしないの。見えないものがあるなら見えなくてもいいじゃない。暗がりには暗がりの意味があるんだわ」と。
関口が案内されたのは三階の湖側の部屋だった。スタンダードだと言う話だったが、勿論こういう宿の規格にシングルなど存在せず大きな幅の薄紅色をした寝台と、高い天井にはが美しいシャンデリアが下がり、養蚕産業華やかなりし頃の往時を偲ばせる鮮やかな絨毯と飴色の文机があった。
一通り室内の機能を案内される。浴室は薄紅色の大理石でジャクジー付きだった。
本当に此処に中禅寺がいるのか、と思う。どうにも似つかわしいとは思えない。こんな処は、そう榎木津こそが似つかわしい。
関口は駅で別れた男を思い出す。
「幸運を、」抱擁と脣の端に親愛の接吻を呉れた。
否、あれを親愛の接吻と呼ぶには少しきつかった。吸い付かれたと云ってもいいだろう。関口は自分の脣の端へ手を当てた。余韻が残っているのだ。
嗚呼全く恥ずかしい。
顔が熱くなる。
何故、榎木津と言う男は接触スキンシップ過多なのだ。
関口が慌てたり、思わず叫んだり、顔を紅くさせたり蒼くさせたりするのを楽しんでいる風情だった。
「以上ですが、何かご不明な点がございましたら、」声が掛かった。思わず肩が強張った。
「あ、否、特には」
「そうですか。それではごゆっくりと。ああ、そうそう一つだけ、此方からご案内することがございまして」
「はい?」
「誠に恐縮ではございますが当ホテル支配人のお嬢様がこの度婚約される運びとなりまして、明後日の夕餉に当レストランで御披露目がございます。ご臨席下さいませば有り難く存じます」
「お嬢さん…」
「はい。是非関口さまも」
男は優しそうに微笑んでいる。良心的にこんな喜ばしいことを他の人間も歓ばないことはないとその顔は語っている。
関口に彼らの祝宴に出席して細い硝子碗を掲げろと云うのか。関口は自分の鼓動が早まるのを意識しないではいられなかった。出来るわけがない。関口はそれとは全く逆のことを行いに来たのだから。
「ええ…。是非」
よろこんで、と社交辞令にでも続けるべきなのだろうが、どうしてもその一言が口から出なかった。



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