「ようこそ。魔法使い様は彼方がたをお待ちしている。こちらへ。」

五人が城の中へ入った途端、中にいた銀の髪の男の子が五人を城の奥へと招き入れました。

「私の名前はカイ。これから魔法使い様とご対面頂くが、何か質問があれば答えるが。」

カイと名乗った銀の髪の少年は、五人の顔を順に見合わせ、誰も質問する意思が無いと取ると、目の前にあった大きな扉を開け、中に足を踏み入れました。

五人もカイの後を追い、扉の中へ足を踏み入れました。

そして、扉の向こうの部屋に浮いている、大きな顔を見たのです。

「…だっせ。」

「ギル!!」

思わずと言った風に呟いたギルに、失礼だ、とリクが怒ります。

「うわーっ!おっきー首―。…これが魔法使い?」

「こんにちは。僕が、皆が捜していた魔法使いだよ。シロンって言うんだ、よろしくね。」

宙に浮く大きな首だけの魔法使いは、その外見に似合わず、随分と可愛らしい声でそう言いました。

「それでね、僕は皆の願いを叶える代わりに、一つ条件を出したいんだけど、良いかな?」

大きな首だけの魔法使いは、そう言って首を傾げました。はっきり言って、気持ち悪い事この上ないです。何人かは視線を逸らしています。

「えっと、それじゃあ。俺達が条件をクリアすれば、願いは叶えてくれるって事だよね?それなら良いよ。」

がんばって視線を逸らさずにいたリクが、魔法使いを見上げてそう言いました。

「ありがとう!僕のお願い事は、この付近に住んでいる悪い魔法使いを退治して欲しいんだ。悪い魔法使いが住んでいるお城までの道は、友達のユウ君が案内してくれるから、ユウ君。お願いね。」

「おっけー。それじゃあ、案内するぜ。ついて…ゲッ。」

何処から来たのか、ギル達の前に黒い長い髪の男の子が現われたと思えば、ユウと言う名前らしいその男の子は、クガイを目にした途端、驚きで固まってしまいました。

「やはりここにいたか、クソガキ…。」

「な、何であんたがここにいんだよ!動けなくしたはずだぞ!?」

「さっさと盗んだ物を返して貰おうか…?」

クスクス、と冷たく笑うクガイと慌てふためくユウの様子から、クガイが捜していた長い黒髪の子供がユウを指していたことが分かります。

呆気に取られている回りを他所に、クガイはユウの襟首を掴むと、そのまま宙に持ち上げます。

「ちょっ!クガイ!相手は子供なんだよ!!?」

「うわぁっ!?ユウ君!?ユウ君に何するんだよ!!」

静止を掛けるリクとシロンを無視し、クガイはユウを問い詰めています。

「さっさと言え。盗んだものは何処にやった。」

「…売った。」

クガイの問いに、ユウがぼそりと答えました。

クガイはその答えを聞くと、放り投げる形でユウを開放しました。

宙に放り投げられたユウは、綺麗に着地を決めると、

「何すんだよ!この死神野郎!!」

と、威勢の言い罵声を飛ばしました。

その様子にギル・リク・リオン・ランドは、元気の良い子供だなあ、などとのんびりと思っていました。

「何処の誰に売った。」

クガイが更に問うと、ユウは「う゛っ」と口を濁しました。

その様子にクガイが眉を潜め、「何処の誰だ」と、問い詰めると、ユウはしぶしぶながら言いました。

「…通りかかった、悪い魔法使いのダチに…。」

すまなそうなにしている様子から、ユウは一応悪い相手に売ってしまった事を後悔しているようです。

対するクガイは無言ですが、怒りのオーラが立ち上っているのが後ろにいるギル達にも分かります。

「…さっさと、そいつがいる場所へ案内しろ。」

先程より幾分低くなったクガイの声に、ユウが少し怯えながらも頷きました。

「ユウ君!気をつけてね!!」

「おう!シロンを頼んだぞ、カイ!」

ユウの身を案じるシロンの声に元気良く答えると、ユウは入り口付近に立っているカイに首だけの魔法使いのことを頼み、五人を案内するべく外へと歩き出しました。

 

 

切りだった崖に沿って建てられたような不気味な城に、ギル達一行はその日の内にたどり着きました。と、言っても時刻は夕方。これから空は暗くなっていく時間です。

早目に事を済ませたほうが良い。と言う事で、五人と道案内の少年は不気味な城に乗り込んで行きます。

大きな扉を開け中へ入ると、丁度目の前にある、上へと続く大きな階段の中央に少年だか青年だか分からない、クリーム色の髪をした男の人が座って六人を迎えました。

「あ、あの時の兄ちゃん!」

階段に座っている彼を指差し、ユウが声を掛けました。

「ああ、さっきの。何かよう?悪いけど、返してくれって言うのは無しな。」

本人、アレ気に入っちゃったみたいだし。と、クリーム色の髪をした人がそう呟き、ユウは顔を顰めます。

「そこを何とか!前の持ち主が、どうしても返して欲しいって言うんだよ。頼む!」

ユウが手を前に合わせ必死に頼みますが、クリーム色の髪の彼は、そしらぬ顔です。

「お?どうしたカイン。客か?」

「ああ、マトリ。丁度良い。ソレを返してくれって奴が来てるぜ。」

クリーム色の髪のカインと呼ばれた人の下から、ギル達にとっては斜め前から、黒い短い髪の男が大きな鎌を担いで現われました。

「え?コレ?何で?お前、これ買ったんじゃないの?」

「いや、買ったよ。ちゃんとね。でも返して欲しいんだと。」

「もちろん金は返すから!お願い!!」

大きな鎌を担いだ男に、ユウはますます頭を下げ、拝み倒します。

「う〜ん。けど、俺も気に入ったしなー…。」

大鎌をしげしげと眺め、さも残念そうにマトリが言います。

「まあ、しゃーねーか。わざわざこんな所にまで来るぐらいだしな!返してやるよ。」

ほら、とマトリは人の良い笑顔を浮かべ、ユウに大鎌を手渡しました。

「あ、ありがとう…。」

嬉しそうに笑顔を浮かべ、ユウはマトリにお礼をいいました。そして、迷惑掛けました、と、クガイにそれを返します。

「あ、その人のだったのか?悪かったな、わざわざこんなへんぴな所まで。」

「それより、悪い魔法使いってお前等か?」

ギルがマトリの言葉を遮り、この城へ来た本当の目的を果たすべく聞きました。

「…何か用?」

その問いに答えたのは、しかしマトリではなく、今だ階段に座っているカインでした。

「用。っつーか、殺しに来た。」

「ギル、それは少し違うんじゃない?」

「何処が?同じ事だろ。」

「殺さなくても、懲らしめればいいんじゃないかな?」

ギル・リク・リオンの言葉を聞き、マトリは顔を顰め、カインは六人を睨みつけるような視線を送って来ます。

「あいつにアンタ達は会わせない。とっとと帰れ。」

カインの怒った声に、「なら、自分で捜す。」と、ギルが勝手に城の中に入って行きます。

「待てよ、どーせなら俺と力比べしてから捜せよ。それなら止めねーぜ?」

クスリ、と笑った顔はどう見てもギルへの挑発としか取れません。

「お、おいカイン。何もここで…。」

「そーだよ、あの人は悪い魔法使いじゃないみたいだし、わざわざやらなくても…。」

マトリとリクがそれぞれに声を掛けますが、二人はちっとも聞いていません。

「へえ、おもしれぇ。いいぜ。降りて来いよ。」

「例え死んでも、後悔すんなよ?幽霊になって恨まれても困るからな。」

「てめーこそ。後でちゃんと魔法使いも送ってやるから、安心しろ。」

それぞれ得物を手に取り、階段をゆっくり降りてくるカインとそれを目で追うギル。

やがてその距離が縮まり、一触即発と言う雰囲気が辺りに広がります。

その空気に呑まれ、六人はただ剣を構える二人を見ていることしか出来ません。

ギルの手にはバスターソードが、カインの手にはエメラルドの剣が。

その二つの剣が小さく重なった、と思った次ぎの瞬間!

「室内で暴れるなって、言ったでしょうが!!」

女の声と共に、ギルとカインの間を物凄い勢いで何かが飛んでいきました。

思わず動きを止める二人の後ろから、ゴツッ、と言う重たい音と、「いでっ!!」と言うマトリの声が聞こえてきます。

剣を構えた姿そのままでギルが後ろを振り向くと、他の五人に囲まれてマトリが床に伸びていました。横には少しひしゃげたランプが転がっています。

「………カノト…。」

カインが階段の上を見ながら先程の声の主を呼びました。

「何よ。」

階段の一番上には、腕を組んで立っている茶色い髪の女がいました。

「何だか知らないけど、家中で物騒な物振りまわさないでよ。」

「だからってランプなんか投げるか?普通…。」

「言葉で言っても聞きゃあしないでしょう。それより、アークが捜してたわよ。」

まるっきりマトリを無視して、カインとカノトは会話を終わらせました。

「…ヒデー扱いだな、あんた。」

「うう〜…同情してくれるか?」

「可哀想に…。」

今だ起き上がらないマトリを囲み、ランドが呟きリオンがそれに同情しています。少し寂しい光景です。

「どうでも良いが、俺の用件は終わった。もうお前等に付き合う理由はねぇな。」

唐突にクガイはそう言うと、くるりと背を向け一人で歩き始めました。

「え?帰っちゃうの、クガイ。」

リクが慌てて尋ねると、クガイは肩に大鎌を担いで外に出て行ってしまいました。

「あーあ。行っちゃった。良いの?あの兄ちゃん仲間じゃねーの?」

「うーん。でも、目的を達成した人を引きとめる訳にもいかないしね。」

見上げてくるユウに優しくリクはそう言い、仕方ないよ。と、小さく笑いました。

「ねえ。そーいや、ギルがどっか行っちゃたけど?何処行ったのかな?」

リオンの声に慌てて三人が辺りを見回しますが、階段の下にいたギルが何時の間にか姿を消していました。

「茶色い髪の子なら、カインを追って行っちゃったわよ?」

マトリの様子を見に来たらしいカノトが四人にそう告げると、階段の上。城の奥を指差しました。

「おーい。…俺等置いてきぼりかよ。しゃあねぇ!行くぜ。」

ランドの言葉に残りの三人は大きく頷き、悪い魔法使いがいるであろう城の奥へ走っていきました。

 

 

月がうっすらと輝いているのが見えるテラスに、ギルはその人を見つけました。

手すりを背に、カインに寄り添う様に立っていたのは長い黒髪の男でした。

「お前か?私を倒しに来たと言う奴は。」

そう言って薄く笑う男は、「身のほど知らずめ」とギルに言いました。

ギルはそれに答えず、無言で剣を構えます。

「どうするアーク。お前がやる?俺がやってもいいけど?」

「いや、お前は下がっていろ。カイン。」

悪い魔法使い、黒い長い髪を持つアークは、カインを下がらせるとゆっくりとギルに近づいていきます。

ギルは動かず、構えたままアークの様子を覗っています。

と、アークが不意に片手を振り上げました。それと同時に起きた空気の変化に、ギルは感で剣を振り上げました。

すると、振り上げた剣に何かが勢い良くぶつかり、ギルはそれを弾き飛ばしてもなお、ぶつかった時の威力は減らず、地面にしっかりと足を付けていると言うのに数メートル後ろに下がってしまいました。

その勢いがおさまると同時にギルはアークに向かい、突っ込んで行きます。

アークは、真っ直ぐに向かってくるギルに第二波を放ちます。

見えないそれをギルは横に飛びのいてかわします。

幾度かそれを繰り返し、ギルはアークの目の前にまで迫りました。

剣を振り上げれば当たる。その間合いに入り、剣を持つ手に力を入れた時。アークが小さく笑ったのをギルは見ました。

勢いのついた足を寸前で止め、後ろに飛びのくと、アークが感心したように言いました。

「意外と馬鹿ではないようだな。」

「っせーな。少しは動けよ。年取りすぎて動けねーのか?」

「当たり。この人結構歳食ってるぜ。んな事より、さっさと終わらせてくんない?暇なんだけど。」

手すりに腰掛け頬杖をついて、カインは殊更暇そうに言いました。

「そんなに暇なら、てめーもまとめてかかって来いよ。」

「…そんなに早死にしたいわけ?」

ゆっくりとした動作で、カインが手すりから降りアークの隣に並びます。

「それじゃあお望み通り…。」

エメラルドの剣を抜くカインに、アークはやれやれと言った溜め息を吐きました。

「下がっていろ、と言っても聞かないだろう。お前は。」

「本人が望んでるんだぜ?良いじゃねーか。なあ?」

カインが笑いかけ、ギルも口の端を上げそれに答えました。

「さっさと二人まとめて掛かって来いよ。」

楽しそうにギルがそう言うと、またアークの手の中の空気の密度が変わり始めます。

それが放たれようとした時

「ギル!!いた!何勝手にやってるのさ!」

リク・リオン・ランド・ユウが現われました。

「…うざってーのが来やがった。」

「そう言う言い方しないの!」

ギルのぼやきにリクは怒った後アークとカインに向き直ります。

「あのさ、別に降参してくれれば俺はそれでも良いと思うんだけど。」

ユウの言葉にアークが答えます。

「人数で勝てるとでも考えたのか?愚かだな。」

「そんな事言って良いの?あんた達の弱点突いちゃうぜ?」

「…弱点?」

ニヤリ、と意地の悪い笑みを浮かべて、ユウは隣に立っているギルに言いました。

「ギル兄ちゃん。その靴のつま先を二回、地面に叩いてみてよ。」

「?」

わけの分からないまま、ギルは素直に地面に二回つま先を打ち付けました。

すると、とても低い地鳴りのような音が何処からか響いて来ました。「弱点」などと言ったユウ本人も辺りをキョロキョロと見渡して、音の正体を探ろうとしています。

段々と大きくなる不気味な音の正体を捜して七人は辺りを覗っていましたが、たまたま手すりの向こう側を覗いたカインがその動きをピタリと止めました。

「どうした?カイン。」

隣にいたアークがそれに気づきカインに話し掛けますが、カインは答えず体を強張らせたまま手すりの外を覗いています。

「?」

反応のないカインを不思議に思い、アークも手すりの外を見やります。

その二人に気がついたユウも好奇心旺盛に、一緒になって手すりの外を見ました。

「うっわー…でっけー、ゴキブ…」

「嘘だー!!!!」

ユウがみなを言う前に、カインが叫び出しました。その様子は尋常じゃありません。

「何でアレがここにいんだよ!!!?」

「…アレ?」

カインの唐突の変わりように度肝を抜かれながらも、何人かが疑問を口にしました。その問いを聞いたカインは叫ぶ様にして答えます。

「生きた化石キング!!!!!!」

「はあ?」

アークを抜かした全員が力の入らない声を上げました。ユウに至っては、手すりから落ちそうになり慌てふためいています。

そのユウが、何とか落ちずにテラスに足を付けると、驚いた顔をして空を見上げました。

「でっけー・・・。」

気が付けば、地鳴りのような無気味な音はさっきより大きくなっています。

「…気色わりー。」

ゆっくりと姿を現したその音の持ち主は、

「こりゃーまたすげー…。」

大きな茶色い羽を羽ばたかせて、

「うわー!俺始めて見た、こんなでっけーの!!」

その姿を現した。

 

「消えろっっっ!!!!!!」

 

「あ、見てみてカイ君。花火!」

(あの方角は…。大変な事になってなければいいが…。)

 

「カイン。落ちついたか?」

「ぜぇぜぇ。…ふざけてる。何なんだこの展開は!!」

「最初に言ったじゃん。弱点突くよ、って。…まあ、あんなのだとは思っても見なかったけど。」

「…疲れた。」

「あー…確かに。力抜けるわな、こりゃ。」

「俺達、無事にカンザスに帰れるのかな…?」

「そんな悲しい事言うなよ!大丈夫。きっと何とか帰れるから!」

この後ユウの、「もう一度アレを呼ばれたくなかったら、降参して。」の言葉に、アークとカインは頷くしかありませんでした。

 

 

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