「たっだいま〜!帰ったぜー!」
元気な声を上げるユウを先頭に、ギル達一行はエメラルド城に帰ってきました。
「お帰り!大丈夫だった!?」
心配そうに尋ねる首だけの魔法使いシロンと、その下に立って優しく笑っているカイの元に近づくと、ユウは片手で丸を作って見せました。
「条件はクリアしたよ!今度は俺達の願いを叶えてくれる番だ!」
リオンが、わくわくとシロンを見上げながらそう言いました。
「そうだね。今度は僕が願いを叶えてあげる番だね。願い事はなぁに?」
「俺は、鳥に馬鹿にされないようになる方法を教えて欲しい!!」
リオンが大声でそう言うと、ユウとカイは変な顔をしました。
「そんな事でいいの?鳥に馬鹿に、って何?」
「いいの!俺にとっては大切なことなんだから!」
ユウが本人に聞くと、リオンは怒鳴り返してきました。
呆れた様にリオンを見るユウとカイは、その時まったく気が付きませんでした。
揺れる大きなカーテンの向こうに、ギルが何かに気付いて歩み寄っていく事を。
「大丈夫だよ!悪い魔法使いを退治した人を、鳥がバカにするはずがないよ!」
「本当?」
「うん!本当!」
何だか子供の励ましあいのような気がしてくるのは何故でしょう。
「あの、俺達は自分達の古里に帰りたいんだけど、どうしたら…」
「おい。小っこいの見つけたぜ」
「うわっ!シロン!隠れてろって言っただろ!?」
「うわ〜ん、ユウくーん。このお兄ちゃんに見つかっちゃったよ〜。」
リクが自分の願いを頼もうとした時でした。
ギルが、カーテンの向こうからうすい茶色の髪の男の子を連れてきたのです。
それと同時に、今まで浮かんでいた首だけの魔法使いが消えてしまいました。
「え?どう言う事?」
「う〜…バレたなら仕方ないか…。しょうがない、話すよ。」
リクがユウに答えを求めると、ユウは渋った顔をしながらも答えました。
「シロンは本当に魔法使いなんだぜ?ただ、このナリだから、誰もまともに相手してくれねーんだよ。だから、あの人形を使ってたんだ。」
「ごめんなさい〜…。」
顔を歪ませて泣き出す寸前の本物のシロンに、リクは慌てて言いました。
「謝らなくていいんだよ?君は本物なんだから。あのね、俺達、家に帰りたいんだ。どうしたら良いか教えてくれると助かるんだけど。」
頭を撫でられ、シロンは照れた様に笑いました。しかし、次ぎの瞬間にはしぼんでしまいました。
「ごめんなさい。僕にはお兄ちゃん達を家に帰す事は出来ないの。でも!上にいるこの国の王子様なら!!」
「あ、そっか。あいつがいたっけ。」
「うん!ユウ君、もう一度お願いしても良いかな?」
「おっけー。任せておけ!それじゃあ、あいつのとこまで案内してやる。」
何だか勝手に話しが決まったようで、ギル・リク・リオン・ランドはもう一度ユウに案内され、城の上を目指しました。
「おーい。客連れてきたぜー?」
「うーん。勝手に置いてってくれて良いから。」
「おー。 んじゃまたな。俺、下に戻ってるから。」
城の上の方の部屋の扉を挟んでユウは王子と会話をすると、ギル達はそのまま置いてかれていきました。
どうして良いか分からず扉の前に立っていると、突然扉が開き、中からあまげ色の髪を結わいた男の子が顔を覗かせました。
「そんな所に突っ立ってないで、入れば?一応言っとくけど、僕の名前はレアン。この国を治める立場にある。あんた達は?」
こうして簡単な自己紹介を行なったギル達は、すぐに家に帰れるかと聞きました。
「カンザス?聞いたこともないとこだね。別の世界?ふーん、そんな所から来たんだ。ご苦労様。」
「余計なことは良いんだよ。帰れんのか、帰れねーのか?」
余計な一言が多いこの国の王子様は、尋ねたギルに呆れたように笑いました。
「帰れることが可能じゃなかったら、下にいた子達はここまで連れてこなかったと思うけど?」
そして、帰りたいのは二人? と、ギルとリクを見ました。
「ギルが履いているのは、魔女の靴だよね?運が良いね。それがないと帰れないとこだったよ。それじゃあ、準備は良い?」
レアンの声に、リオンとランドが一歩づつ二人から離れました。
「ギル。リク。元気でね。また会えると良いね?」
リオンの少し悲しそうな声に、リクも少し悲しそうに小さく笑って答えました。
「それじゃあギル。その靴のつま先を二回地面に打ち付けてみて。」
「ちょっと待て。 つま先を打ちつけてとんでもね目に会ったぜ?」
レアンの楽しそうな顔を見ながら、ギルが静止の声を掛けました。
「なんだ。バレてるのか。つまんない。」
「馬鹿にしてんのかテメー。」
ギルが背中にあるバスターソードに手を掛けようとして、リクに止められています。
レアンはその様子を、ヤレヤレと言った風に眺めています。
この国の王子がこんなんで大丈夫なのでしょうか? 心配です。
「分かったよ。つま先じゃない。踵だよ。踵を二回、地面に打ち付けるんだ。そうすれば帰れるから。」
一応剣から手を離し、ギルは半信半疑で踵を二回地面へ打ち付けました。
すると、どうでしょう。
ギルとリクの姿は、あっと言う間にその場から消えてしまいました。
「…あーあ。帰ちゃった…。」
「そーだなー…。」
気が抜けた様なリオンとランドの声が、広い室内の響きました。
「ギル!見て!!帰って来れた!帰ってきたんだ!!」
見渡す限り、畑しかない大地。
そこに佇む一軒の家。
「何で、家があるんだ?」
そんな細かいことは気にもせず。
ギルとリクは無事に故郷へと帰って来れました。
まるで夢のような出来事でしたが、ギルの足にはあの魔女のブーツがありました。
めでたし・めでたし。