窓の近くで微笑み合う二人、それを眺め、隣に座る女の子は優しく笑っている。
小さな幸せ、っつーの?そんなものを感じるよな。
俺がこいつらと出会ったのは、つい最近のことだけど、なんかすんなり馴染んでんのが不思議。
まあ、アーク・フィアとは結構昔に、倒す相手として会ったことはあったけどよ、それも昔の話。
こっちに敵意が無いと分かったのか、特に話しを聞いてくる事は無かった。
つーか、あの、アーク・フィアがこんな風に笑う事が出来るとは、想像も出来なかったぜ。
無表情だったユエ・・じゃねや、カインだったよな・・も、穏やかになってるし、
まあ、はっきり言って?男二人べたべたすんのはどうかと思うけど、まあ、見た目よけりゃ全てよし、っつーし。
見てて気持ち悪くなるもんじゃねぇから、いっか。
に、しても、だ。
気っ持ち良い天気に、気持ち良い風、気持ち良いソファに、気持ちの良い空気!
澄み渡った青空に、甘い花の香りを運んでくる風、沈むような感覚のソファ、そして何より、この穏やかな空気。
一人で自分の家にいたら到底味わえない空気だよな、
しょっちゅう人里に遊びに行くっつっても、どうしても俺一人、疎外感を感じてしまうからな。
人間の友達もいっけど、どっか、よそよそしくなっちゃうんだよなー。
ま、俺が人間じゃねーから、しかたねーんだけど。
でも、ここだと落ち着く。安心してくつろぐ事が出来る。自分の家以上に。
隣のお嬢さんも、俺が人ではないことを、何かそう言う血筋だか何だかで、見抜いているのに怖がっているようには見えない。
逆に安心しきってるとしか、見えねぇ。 肝据わってんのかね?
まあ、おかげでこっちも安心してソファでくつろいでんだけどね。
この家広いんだぜ!部屋、いくつあんだよ?!って感じ。
俺、こっちに引っ越そうかな?・・・アーク・フィアに殴られそうだ。
そうそう、こいつ、俺殴るとき容赦ねーんだぜ?いつも思いっきり殴るんだよ、ちょっとしたジョークなのにさ、
そのことカインに訴えるとよ、
「そう?手加減してるように見えるけど?」
とか、面白そうに笑いながら言うんだぜ? ちったー、俺の頭の心配してくれよ。
「カノトー、俺腹減ったんだけど。」
突然、夕日の差し込む窓辺を眺めていたカインが、こちらを振り向いて言った。
「あんたね、それが人に物を頼むときの言い方?」
隣のお嬢ちゃんが、にこやかに笑いながらそう言って、カインを見ている。
「何?じゃ、カノト一人で家帰って食うのか?一人分作るんだったら、二人分作った方が良い、とか前言わなかったか?」
カインも、にこやかに笑いながらそう言った。
こいつらの口喧嘩って、見てる側としてはすんげー怖いんだよ、笑ってるんだけど、目が笑ってなくてさ、
アーク・フィアも、止めりゃあいいのに、楽しそうに見てんだぜ?
「ま、待て!カノト、俺も少し腹減ってきたとこだし、カノトの料理美味いから俺も食いたいんだけど。」
冷や汗ながしつつそう言っても、説得力ねーだろーなー、俺。
けれど、カノトは盛大なため息をつくと、「しかたないわね」とか言いつつキッチンへと向かっていった。
どうやら、彼女自信、もうそろそろ夕食の時間だと考えていたようだ。
視線を、カノトが消えていった扉から前へ戻すと、アーク・フィアが何やらカインの耳元で囁いていた。
「だめ。俺が夕食くってから。じゃねーと、俺夕食食えなくなる。」
カインのしかめっ面と、アーク・フィアの面白そうに笑っている顔を見る限り、どうやらアーク・フィアが、食事をしたいとカインに告げたようだった。
あれから、3日が過ぎた。
「はあ、やっぱ座り心地良いよなー、このソファ!」
「そうねー、コーヒーも美味しいし、何て言っても静かだし!」
「つーか、何でお前ら毎日のようにここに来てんだよ。」
「それは違うぞカイン。毎日のように、ではなく毎日だ。」
カインとアークの、何処か恨みがましい視線を感じながらも、私はマトリと二人、
三日連続でカインとアークの家に来ていた。
外は、見てるだけで気持ち良くなる快晴で、まさしく雲一つ無い澄み切った青空、
木々の間を抜けて、この部屋へと入ってくる風は、家に閉じこもっているのがもったいないと
感じずにはいられない、さわやかな風。
沈むように座っているソファの前のテーブルからは、香りの良いコーヒーの匂い。
そして、最近の遊びとなった、カインとアークの邪魔をして、あぁもう、満ち足りた気分!
数日の間で知り合ったこの三人は実は人間ではなく、不思議な力と羽根と時間をもった者達だ。
さらに詳しく言うなら。私の隣に座り、「金持ちはいーよなー」とか言ってる、黒髪短髪、金の瞳を持った男
マトリは、この家の主人と同じ種族で、人の血を吸いながら生きている種族の一人。
この家の主人とは昔(人間よりはるかに長生きだから、相当昔になるわね)、対立関係にあったとか無かったとか、
今は違うらしいけど、そんな関係の知り合いだとかで、いつも人の好い笑顔をしている人。
笑顔が絶えなくて、面倒見の良いお兄さんのような感じ、たまに腕白な弟のようにも見えるけど。
もう一人、この家の主人で、私達から少し離れた所で外を眺めているのが、マトリと同じ種族の人、名前はアーク・フィア。
黒髪で金の瞳なんだけど、腰にまで届くような闇色の髪と、ある一人を見るとき意外は常にある、冷たい瞳が印象的。
とても綺麗な人なんだけど、何処か闇夜を思い出させる雰囲気を持ってる。
動作の一つ一つが絵になるようで、近づきがたい空気をいつも身に纏っている感じ。
そして最後に、クリーム色の髪に、深い銀の瞳を持つ、アークの傍で一緒になって外を眺めている青年、それがカイン。
アークとマトリとは敵対する種族なんだけど、アークに(多分)一目ぼれしたことが原因で、
何故かアークと一緒に住んでいる。
アークの綺麗さとは異なって、儚さのある人。
外見とは違い、中身は人を馬鹿にしたような態度ばかりとってるけど。
今はもう見せないだろうけど、カインが泣くと、まるで消えてしまいそうな空気を纏う。
今はふてぶてしいぐらいだけど。
ケンカ友達、って言うのかな?遊び相手のような感じかな?
カインに知り合う前は、ちょっとした事情で一人、村の方に住んでたんだけど、
あの時は毎日がつまらなかった。村人の好奇な視線は絶えないし、血筋柄たまに変なものが見えたりするし、
・・・今までよく絶えぬいて来たわね、って、自分の事誉められるぐらい、本当につまらない日々だった。
それがまるっきり変わって、今では毎日楽しい!
なんだろう、今まで気にしていたものを、気にしないでいられる、って言うのかしら?
本当の自分を好きになれる、そんな感じになれる。
まあ、二人の邪魔をするのも楽しいんだけどね。
カインの嫌そうな目もそうだけど、それよりアークがね。
面白いのよ。マトリは何故来るのか分からないけど、やっぱり一人でいるより、何人かといた方が楽しいものね。
あ、窓の外から甘い花の匂い。
カインとアークが窓の側で一緒に笑ってる。
日差しがあったかい。
明日もまた、遊びに来よう。二人が本当は嫌がってない事ぐらい、知ってるんだから。