カインが記憶を取り戻したからと言って、何かが変わるわけでもなく。
私たちは、またいつもの日々を過ごし始めた。
カインは私に何も聞かず、私も何も聞かなかった。
知りたい事が無い訳ではない。
だが、゛知りたい事"はあっても、゛聞きたい事"とは違う。
まあ、カインが私の元に来た理由は、きちんと本人の口から聞きたいが。
その当の本人は、ソファに横になり、何度も寝返りをうっている。
何もする事がなく、昼寝をして時間を潰そうとしているらしいが、眠れないらしい。
ゴロゴロと、しまいにはソファの上で転がっているカインが、ふと、動きを止めた。
ジーっと、その瞳が見ているものは、本を読みながらカインを観察していた私だ。
その視線に気が付かないふりをして、私はページを進めた。
動物のように、しばらく動かないでいたカインが、静かにこちらに近づいて来る。
それでも動かない私に、カインは少し不満そうな顔をする。
それでも私のすぐ側まで来て、何をするでもなく、ただ突っ立ている。
遊んでくれるのを待っている動物を感じさせる。
私はまたページを進める。
カインは側で立っている。
・・・・・・ここまで来ると、この沈黙が痛い。
まったく、遊びたいのなら一人で遊べば良いものを。
読んでいた本をしおりを挟んで閉じる。
「どうした?」
そう、問いかけ顔を向ければ、じっと、こちらを見ているカインの目と合う。
半分、ぼうっとした様子でただ一言。
「暇」
私に言われても困るんだが・・・
返答に困る私を無視し、カインが言葉を続ける。
「暇。つまんねぇ。やる事ない。」
「お前も、読書でもすればいいじゃないか。」
「やだ。ここの本、好みに合わねぇ。」
他に思いつく事などないぞ?
何を言って良いのかわからず、カインの顔へと、手を伸ばす。
カインの頬や髪を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じる。
しばらくそのままでいたカインだが、目を開けると、あろう事か、私の膝の上に座り込み、
そのまま、寄りかかってきた。
「重いぞ、カイン。」
「子供一人分ぐらい平気だろ?」
「あのな・・・」
「いいや。」
「?」
カインの言葉の意味が理解出来ず、黙っていると、カインは目を閉じ、ゆっくりと言葉を続けた。
「ここで寝る。動かないから邪魔はしない。な?」
さっき、ソファでは眠れなかっただろうが・・・。
私があきれていると、カインはゆっくりと息を吐き出し、黙り込んでしまった。
仕方がないので、さっきの本を手に取り、広げる。
読み始めて数行も経たないうちに、カインから穏やかな寝息が聞こえてきた。
どうやら、本当に眠ってしまったようだ。
多少重いが、まあ、仕方がない。私が本を読み終えるまでは、このままにしておこう。
カインの寄りかかってくる部分が暖かい。それだけで随分と、穏やかになれる。
しばらくはこのまま、暖かく、穏やかな空気の中にいよう。