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・8へ

カインが記憶を取り戻したからと言って、何かが変わるわけでもなく。
  私たちは、またいつもの日々を過ごし始めた。
  カインは私に何も聞かず、私も何も聞かなかった。
  知りたい事が無い訳ではない。
  だが、゛知りたい事"はあっても、゛聞きたい事"とは違う。
  まあ、カインが私の元に来た理由は、きちんと本人の口から聞きたいが。
  その当の本人は、ソファに横になり、何度も寝返りをうっている。
  何もする事がなく、昼寝をして時間を潰そうとしているらしいが、眠れないらしい。
  ゴロゴロと、しまいにはソファの上で転がっているカインが、ふと、動きを止めた。
  ジーっと、その瞳が見ているものは、本を読みながらカインを観察していた私だ。
  その視線に気が付かないふりをして、私はページを進めた。
  動物のように、しばらく動かないでいたカインが、静かにこちらに近づいて来る。
  それでも動かない私に、カインは少し不満そうな顔をする。
  それでも私のすぐ側まで来て、何をするでもなく、ただ突っ立ている。
  遊んでくれるのを待っている動物を感じさせる。
  私はまたページを進める。
  カインは側で立っている。
  ・・・・・・ここまで来ると、この沈黙が痛い。
  まったく、遊びたいのなら一人で遊べば良いものを。
  読んでいた本をしおりを挟んで閉じる。
   「どうした?」
  そう、問いかけ顔を向ければ、じっと、こちらを見ているカインの目と合う。
  半分、ぼうっとした様子でただ一言。
   「暇」
  私に言われても困るんだが・・・
  返答に困る私を無視し、カインが言葉を続ける。
   「暇。つまんねぇ。やる事ない。」
   「お前も、読書でもすればいいじゃないか。」
   「やだ。ここの本、好みに合わねぇ。」
  他に思いつく事などないぞ?
  何を言って良いのかわからず、カインの顔へと、手を伸ばす。
  カインの頬や髪を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じる。
  しばらくそのままでいたカインだが、目を開けると、あろう事か、私の膝の上に座り込み、
  そのまま、寄りかかってきた。
   「重いぞ、カイン。」
   「子供一人分ぐらい平気だろ?」
   「あのな・・・」
   「いいや。」
   「?」
  カインの言葉の意味が理解出来ず、黙っていると、カインは目を閉じ、ゆっくりと言葉を続けた。
   「ここで寝る。動かないから邪魔はしない。な?」
  さっき、ソファでは眠れなかっただろうが・・・。
  私があきれていると、カインはゆっくりと息を吐き出し、黙り込んでしまった。
  仕方がないので、さっきの本を手に取り、広げる。
  読み始めて数行も経たないうちに、カインから穏やかな寝息が聞こえてきた。
  どうやら、本当に眠ってしまったようだ。
  多少重いが、まあ、仕方がない。私が本を読み終えるまでは、このままにしておこう。
  カインの寄りかかってくる部分が暖かい。それだけで随分と、穏やかになれる。
  しばらくはこのまま、暖かく、穏やかな空気の中にいよう。

・7

月夜