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月夜
なんだかんだで、俺は結局あのまま次の日の朝まで寝てた。
 朝、自然に目が覚めた、何だか異様に目覚めのいい日だった。
 だるかった体もすっきりしていて、俺はなんとなく機嫌が良かった。
 朝、目が覚めた時あいつと会話したが、その後あいつはどっかに閉じこもって何かやっている。
 記憶がどーのこーのってやつだろうが、はっきり言って他人事のようにしか感じねぇし、
久しぶりに自分でコーヒーを入れることにした。
 俺が思っていた通りにこいつ、豆からわざわざ挽いていやがった。
 入れ方ぐらいは分かるから、とりあえず豆を取り出す。中を見ると、 
  「・・・なんだ、もうねぇじゃん。」
 袋の中に入っている豆は、残り1.2杯ぐらいしかなかった。
 しかたねぇ、買いに行くか。
 天気も良さそうだし、1人で時間をつぶす丁度良い機会だ、あいつは
 なかなか部屋から出てこねぇし。
 無断で家を出るわけにもいかねぇし、とりあえず外出許可を得る。
 ・・・なんでそんなもん必要なんだ俺は・・・
 そう思いつつ、足は勝手に動くもの。コーヒー豆を買いに行くと言うと、
 こいつはメチャクチャ心配そうな顔をした。
 ・・・俺1人では買い物もできねぇとか思ってんじゃねぇだろうな・・・
 が、どうもそれは俺の勝手な思い込みのようで、こいつの心配は別の所にあった。
  「大丈夫なのか?あの村は今危険ではなかったか?」
 そうだった・・・。
  「毎日のように死者が出るらしいじゃないか」
  「それはあんたと同じ種族の輩が、村人を食ってるからだろ?」
  「だから危ないと言っているだろう?」
  「平気だろ?すぐ帰ってくるし。」
  「だが・・・」
  「買いに行かなきゃねぇんだぞ?それとも飲むなっつーのか?」
 小難しい顔をするやつに、俺は釘を打っておく。
  「俺1人で行くから。」
 眉間にしわが寄ってるぞ、こいつ。
  「大丈夫だって・・・俺をそこら辺の奴と一緒にすんなよ」
  「・・・していない・・・」
  「じゃ、おとなしく待ってろ。お土産いるか?」
 何か少しかわいそうになって来たんで甘えてやった。
 こいつの首に腕を回し、体を寄りかからせ、少し背伸びして耳元でそう囁いた。
 こいつとじゃれてると何か安心する。温かくて気持ちがいい。
  「なるべく早く帰って来るんだぞ。」
  「わっかてる。 じゃ、行ってくる。」
 少し惜しいが体を離す。 あ、笑ってやがる・・・。でも嫌な気分でもねぇし、許してやる。
 こうして外出許可を得た俺は、散歩気分で村へ向った。
 

戻る

カインが村へ行ってからの私は、集中力がなくなり、中指で机を叩きながら何度も壁に掛っている時計を見た。
 だめだ、どうしても気になる。カインは大丈夫だと言っていたが、何かあってからでは遅すぎるのだ。
 前科があることもそうだが、カインの゛大丈夫"は全く当てにならない。
 むしろ、その逆だ。
 ・・・遅い。 もう帰って来ても良い時間なはずだ。時計の針の進む音が嫌に遅く聞こえる。
 気のせいだと分かっていても、時計が意思を持ち、私に嫌がらせをしているように感じてしまう。
 ・・・・・・やはり遅い。 ・・・・・・まだ帰って来ないのだろうか?   ・・・・・・・・・もういい、迎えに行こう。
 私は机の上の物もそのままに、カインを探しに外へ出た。
 
 村へ行こうと、森の中を急ぎ足で歩いていたが、ふと、足を止める。
 カインは村にいるのだろうか? 何故かそんな考えが頭を過ぎる。 なんとなしに、空を見上げる。
 何かが違う。森の雰囲気と言うか、気配と言うか・・・。言葉では表せない何かが違う。
 私は足の向きを変えた。自分の勘は信じるようにしている。
 その勘が、村ではない場所を指し示している。 向こうに自分が探し求めるものがいる。
 同時に、嫌な気配もしている。 私は走り出した。
 
 
 
 
 やっぱりバカだと改めて、しみじみと俺は思った。
 変な部屋に閉じ込められ、両腕は後ろできつく縛られているが、武器は取られなかった。
 護身用ってわけでもねぇけど、腰のところに挿している拳銃に気ずいた様子もない。
 さて、どうやってこいつの鼻をへし折ってやろうかと、考えようとした時に気ずいた。
 あいつに何の連絡もしてねぇ。 今頃俺の帰りが遅いとか言って、イライラしてんだろうな〜。
 でも今さら連絡なんて出来ねぇし。しかたねぇか。 後で謝っとこう。
 牢屋のようなこの場所は、いやに冷たい印象をうける。
 別にカビ臭いとかそう言うのはないが、殺伐としている。使ってないみたいだ。
 使う必要がないからか?使う前に、食べてしまうのだろう・・・。
 村の鐘の音を思い出す。 静かで、重く、厳かに響く鐘の音を。
 壁に寄りかかって座っているから、背中と尻あたりが冷えた。
 ・・・とっとと殺して帰ろうかな・・・。
 ぼんやりとそう思っていると、嫌な音を立てて、嫌な奴が俺の目の前に現れた、
  「さて、血を分けて貰おうか?」
 などど、ほざきながら・・・。
 
 

 
  
 丁度、知らない男が、カインの顎に手を掛ける所だった。
村は、俺がいた時と変わらずしけていた。
 少々神父っぽいのとかがいるが、人間で言う゛神の奇跡"っつーものを
 持っているようなやつは、俺の見た限りじゃどこにもいねぇ。
 とりあず、村は全体的にしけていた。
 1人歩いていると、偽善者面した奴らがとにかくうるせぇ。
 最初は怪しんで近寄ってくるくせに、俺の首からぶら下がっているロザリオを
 確認すると、危ないだの危険だの、うっせーっつーんだよ。
 急激に不機嫌になった。
  「っくそ、来るんじゃなかった。」
 あいつの側でゴロゴロしてりゃあ良かった。ああ、イライラする!
  「そこの君、1人かい?」
 またかよ! こめかみが引きつったまま、俺は声を掛けて来た奴を振り返った。
 俺は振り返ったと同時に、固まった。
 理由は2つ。
 一つは、なんの脈絡もなく俺の頬が浅く切られたこと。
 もう一つは、あいつがあれほど心配していた原因に出くわしたからだ。
   「おや?君は人間じゃないようだね?珍しい・・・こんな所で出くわすなんて・・・
 良い拾い物をした。」
 ソレは、俺の血が付いた指を舐めながら呟いた。
   「私たち種族にとって、君たちの種族は恐ろしい敵だが、同時に最高の獲物で
 あることを知っていたかい?」
 ・・・ちょっと待て!餌がどうのこうのより、俺は何でこいつが普通に街中にいるのか
 が理解できねぇぞ! 何で誰もきずかないんだ! バカか!この村人は!!
   「お前か、随分と人殺しして楽しんでやがるのは。」
 いくらこいつが、そこら辺の神父っぽい奴らと似たような服装してっからって、
 ・・・あ〜!やっぱバカだ!見かけに騙される人間どもは!!
   「楽しんでませんよ?これでもいつ見つかるか、冷や冷やしてますからね。」
 ニヤニヤ笑ってっても説得力ねぇよ。
 なんかムカツク野郎だ、その有り余ってる様な自信はどっから出てくんだよ?
   「で?俺をどうするって?」
 鼻先で笑ってやりながら、こっちも余裕しゃくしゃくで言ってやる。
 自信過剰なバカは、俺が一番嫌いなタイプだ。
   「一度に全て飲み尽くすのには、勿体無いからね、少しずつその血を貰うさ。」
 つまり、こいつの家だか何だかに、ご招待されたって解釈しちまっていいわけだな?
 おもしれぇ、少しその鼻へし折ってやる。
 口元が上がる俺を、そいつは不思議がったが、たいして深読みしなかったようだ。
  だからバカは嫌いなんだよ。