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潰瘍性大腸炎・クローン病・過敏性腸症候群

 最終更新日 2009.4.17  1.004  (私自身の病気であるクローン病は、患者さんの立場から手助けできる疾患です。)

現代医学での概要と中医学での針灸治療

千秋針灸院で行う治療法について

クローン病におけるレミケード(インフキリシマブ)治療について 
更新

当院での治療効果の実際

当院のクローン病の針灸治療についての統計症例報告   2008.6.5 Web症例報告 Copyright © Chiaki. All Rights Reserved

院長からひとこと

現代医学での概要

○当院の治療は過敏性腸症候群や、寬解期にある潰瘍性大腸炎・クローン病が適応です。
 (腸閉塞により手術を伴う等の重症例は適応外と思われます。)
 (私自身と同程度までの症状の方の治療実績はあり、治療は十分に可能です。)


潰瘍性大腸炎 UC
原因不明に大腸粘膜に起こる慢性の炎症疾患で潰瘍を形成する。以前は欧米に多かったが、国内においても2004年現在で
8万人を超える患者数がある。20~30代に多く発症し、持続・反復する下痢や下血、粘血便が主症状。
長期に渡り再発と寛解を繰り返す、半年以上に渡り症状が持続する、初回発作のみで軽快する、重篤な合併症を起こし
予後不良の型が知られている。病変は直腸から連続的に始まり、大腸全域に潰瘍を形成する。
一日数~十数回の下痢、粘血便ないし血便と腹痛がみられ、急性期には発熱、頻脈、体重減少が見られる。
10年以上長期化の場合は大腸・直腸ガンの併発も見られる。この場合も最近では直腸温存手術が行われる。

一般に寛解時には食事制限はほとんどありません。アルコールや刺激物を避ける程度の内容です。
現代医学的には根本治療はありませんが、服薬を続けることで比較的良好な状態を維持できます。
大腸の定期的な検査が特に大切になります。

クローン病
 CD
原因不明に主に10~20代の若年者に発症する疾患で、特に回盲部に好発する慢性炎症性肉芽腫性疾患である。
2004年現在で2万人を超える患者数がある。病変は口腔から肛門までの腸管全域で発症し、全層性の潰瘍、炎症性ポリープ、
肛門病変、口内炎など、様々な病変が見られる。進行すると狭窄や腸閉塞症状を生じる。吸収不良症候群であるため
高カロリー、高蛋白食がとられ、入院安静が必要。一年内再発率70%、三年内再発率90%以上とされている。
若年者に多いため
心理的、社会的なサポートが重要となる。

生涯に渡って症状を抑え炎症の再燃を防ぐために、栄養状態の管理と食事制限が必要になっています。
現代医学では完治させる治療法は無く、進行を止めたり遅らせることが目標とされています。

患者さんの立場からすると、最も困難な難病の一つです。

私のクローン病は外科的な手術歴はありませんが、入院5回と内視鏡下の処置、大量の下血による輸血を行っています。
体重の減少(発症前より約15キロ減)、強い腹痛、頻繁な下痢や下血、微熱、疲れ易さが主な症状です。
内視鏡による検査では縦走潰瘍は認めるものの狭窄は軽度ということです。薬剤は悪化時にプレドニン(ステロイド)、寛解時に
サラゾピリン(最近ならペンタサか)、エンシュアリキッド(最近ならエレンタールか)でした。当時の担当医師によると、重症では
ないが下血の量や症状からは軽症ではないそうです。
15年以上前の診断ですので、最近の診断法とは異なる部分もあるかもしれませんが、当院での針灸を併用した治療結果は、
私と同程度までであれば比較的良好にコントロールが可能です。

過敏性腸症候群 IBS
腸管の知覚過敏(痛み等)と消化管運動の異常により、腹痛や腹部不快感、便通異常が慢性的に起こる症状で、原因と
なる器質的な疾患が認められない機能性障害をいう。炎症性腸疾患(IBD)である潰瘍性大腸炎やクローン病とは異なり
発熱や下血等は無いが、ストレスにより発症・増悪することが多い。検査で異常は認められず周囲に理解され難いが、
症状は強く患者のQOLは大きく障害されている。腸の働きを高めたり症状を抑える薬物治療や抗うつ剤が処方される。
心身医学的な治療が行われる場合も多い。

患者さんは検査で異常は認められないため周囲に理解され難いのですが、症状は強いため日常生活は実際に大きく
障害されています。現代医学的なアプローチで解決する場合は良いのですが、順調に回復していかない場合や、薬物の
長期投与や副作用による別の症状に悩む方も多いのが現実です。

海外では鍼灸治療を含む代替医療の利用も多くなっており、日本国内でも鍼灸治療の果たす役割は今後大きくなると
考えられます。


中医学での捉え方

中医学では〔腸へき〕、〔赤沃〕などという。『素問・太陰陽明論』で「食事が不節制で規則的に生活していない者は陰に影響を
受ける。長引けば腸へきとなる。」と ある。
飲食の不節制により脾が運化しなくなり湿が体内に溜まったり、不規則な生活で外邪が虚に乗じて侵入し脾胃を損傷して
起こる。結果湿熱や寒湿が結腸に溜まり腹痛や下痢が起こって便に粘液や血が混じる。
治療は腎を温め脾を健全にする目的で温法と清法を併用する。

中医学の「腸へき」は主に潰瘍性大腸炎やクローン病を連想させる症状ですが、分かりやすくいえば温法により腸の働きを
高めて腹痛や下痢を抑え、清法により発熱や下血・炎症を抑えるということになります。
中医学では矛盾する「温補と清熱を同時に行う必要がある」ことから、特にクローン病では大変難しい治療になります。
この分野での経験の深い治療家でなければ対処できない疾患です。

過敏性腸症候群は下痢型・便秘型に関わらず、温補と清熱の必要性を見極めながら対処していきます。
どの疾患においても脾・腎もしくは肝がポイントになり、温補と清熱を使い分けることが大切になります。


中医学による針灸治療 〔主に潰瘍性大腸炎〕

灸法が中心となります。中焦~下焦にかけての中カン、天枢、神ケツ、気海、関元等へ温補を目的とした灸法を行い、
同時に清法として上巨虚に寫法の針または灸を行います。中国では中薬(漢方薬)から餅上の物を作成し、隔物灸と
することで温補の効果を高めています。上記の治療は一般的な方法であり、患者個々の証立てが必要で、健脾化湿、
温補腎陽を中心に必要な治療を加えるここと、場合により肝気を寫すこと等も治療のポイントになります。再発の際にも
針灸は有効であり、病状のコントロールは可能とされます。報告では中国における有効率は70~90%程度と高く、
一年内再発率も30%と比較的低いようです。クローン病もほぼ同様の治療内容です。

中国での寛解期における治療は病院受診時に針灸治療を行い、処方された中薬(漢方薬)を服用する針灸・中薬の
併用治療が一般的でした。私の留学していた当時(~1996)より、現在は現代医学の治療も
必要に応じて取り入れた
中西医結合医療が更に進んでいると思われます。

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クローン病におけるレミケード(インフリキシマブ)治療について

クローン病の治療薬として、レミケード(インフリキシマブ)が一般に使用されるようになっています。レミケードは従来の栄養(食事)
療法やペンタサ(メサラジン)、ステロイド等に頼ることなく、腸管の炎症を抑え、下痢等の症状を軽快させる画期的な治療法となり
ました。しかしマウス等の蛋白に由来する遺伝子組み換え技術により生まれたレミケードは、その性質上、人間の基本的な防御
反応である免疫反応によって抗体(抗ヒトキメラ抗体)が作られやすく、投与を繰り返すと効果が弱まり、効果の持続期間が短縮
される等の問題が生じてきます。そして効果の減弱を防ぐために免疫反応を抑制する薬剤が使われ、結果として免疫力が低下し、
多くの患者さんで様々な免疫力低下に伴う副作用が生じている現状があります。

私自身もクローン病の患者の一人であり、また全ての投薬や食事療法から離れ、実質的に治癒させている体験、また正常な免疫を
高め病気を治療する自然療法の一つである鍼灸師という立場からすると、レミケードが広く使用され、免疫低下に伴う副作用が、
画期的とされている治療効果に比較して、問題視されていないことが不思議でなりません。
レミケードは数ヶ月間症状を抑えますが、クローン病を完治させる薬ではありませんし、感染症、過敏症をはじめ、悪性腫瘍等、
体内で様々なトラブルを引き起こす可能性があります。副作用の発現確率は一説に25%とも説明されていますが、投与開始後から
数ヶ月~数年して発症する遅発性過敏症等、当面は使用できても長期に渡って安心して使用できる薬剤では無いと考えられます。

私はクローン病患者の一人として、また鍼灸師として、副作用の無い針灸によるクローン病治療を実用化してきました。
重症例を含む全てのクローン病患者さんに適応できるわけではありませんが、外科的な手術を伴わない程度の比較的軽症例や
クローン病の寬解期であればレミケードに頼らず、ある程度まで通常に近い食事が可能になり、下痢や腹痛の症状は軽減し、
体重の増加に伴い体力がつき、通常の社会生活が可能になることが分かってきています。針灸治療は一切の副作用の心配が
無く、自然に健康な体を取り戻していける優れた治療法ですので、レミケード治療に不安がある場合や、既に副作用が発現して
している場合等、クローン病治療の選択肢の一つとして検討していただけたら幸いです。

レミケードによる治療と鍼灸治療の併用は、鍼灸治療により正常な免疫力が向上するため、特にレミケードの治療効果を減弱
させる恐れがありますので、当院ではお勧めできません。

クローン病などへのレミケード(インフリキシマブ)治療に一考を 09.4.17

最近のクローン病治療の主流となっているレミケード(インフリキシマブ)について、最近気になる話が続いています。レミケードの
投与により、クローン病の患者さんは一回の注射毎に数ヶ月間、従来のような食事制限や投薬を必要とせず、普通の社会生活が
可能なほどの一時的な回復を得られます。しかし高確率の副作用と共に、レミケードの主成分であるマウス等の遺伝子に由来する
異種蛋白は、遅かれ早かれ人間の持つ正常な免疫機能により、抗体(抗ヒトキメラ抗体)が作られ、徐々に効果を失っていきます。
具体的にはレミケードの効果期間(通常8週間とされる)が短縮したり、効果が弱まったりという形で表面化してくるようです。

レミケードの効果が、人の正常な免疫による抗体反応により減弱されるのを防ぐために、一般に免疫抑制剤が広く使用されます。
免疫抑制剤は、様々な感染症に罹りやすくなったり、悪性新生物(癌)などの合併症もみられます。正常な免疫が感染や癌などの
発生を抑えているのですから当然の話です。また最近ではレミケードの効果持続期間の短縮が問題になっているようで、通常の
8週間という期間を短縮して6週間や4週間でも投与される話を耳にします。レミケード自体が多くの副作用を持つ医薬品ですので、
頻回の投与は一定期間の快適な生活と引き換えに、クローン病の患者さんが大きなリスクを負わされることになります。

また嫌な話ですが医療機関にとってはレミケードは大変大きな収入になります。レミケードの薬価は一回約23万円(2バイアル)で、
これを年6回(8週間毎)行うと150万円弱にもなります。(診察料や検査料を含まず) また期間を短縮して4週間毎に行えば、患者
一人当たり年300万円の収入になるのです。注射だけで済み入院も必要としないクローン病の患者は、一部の医師や医療機関に
とって非常に効率の良いお客さんかもしれません。幸い高額療養費や特定疾患治療研究事業の対象になり、患者さんの負担は
それほど大きくはありませんが、クローン病の患者さんの抗体反応が強まり、通常の8週間という効果期間が徐々に短くなる状況に
対し、投与期間の短縮という安易な手法で対応するのは、私には危険と思われてなりません。

違う病気ですが、例えばパーキンソン病に対するドーパミンの投与も似たような状況があり、「楽になるから」と医師から言われ、
限界まで薬を増やした結果、病気が急速に進んで早期に治療手段を失い、亡くなる症例は後を絶ちません。レミケードは、現在
クローン病治療の主流であることは認めます。しかし私と同じ病気の患者さんが、本来持っていた免疫を低下させられ、命に関わる
危険を背負わさせている可能性に、私は目をつぶることはできません。様々な意見があるとは思いますが、実際に患者でもあり
鍼灸師としてクローン病の治療も手がけている、私なりの意見として述べさせていただきたいと思います。

レミケードの効果持続期間の短縮が顕著になった場合、既に抗体ができているため何をしても効果を延長することは不可能です。
(生命が危険に曝される位、免疫力を引き下げれば別です) 効果が6週間を切ってきたら、レミケードには見切りをつける時期と
考えられます。間違っても4週間やそれ以下に注射の間隔を頻繁にしない方が、副作用のリスクを避けることにつながります。
レミケードの持つ副作用や合併症のリスクを、患者さんが無理に背負い込む必要は全くありません。そもそも免疫を引き下げての
治療自体が生命の在り方に反しています。レミケードを使い続けていけば、病気が治癒するという話は聞いたことがありません。

ではレミケードが使えなくなったら、どうしたら良いのでしょうか。その答えは「原点に戻ること」です。元々クローン病は消化管での
吸収障害が顕著になり様々な症状が出てきたものですから、消化の良い食品を選んで摂り、調子の悪い時はエレンタール等を
利用して腸を休ませ、ペンタサやプレドニン等の実績があり副作用も把握されている薬を必要に応じて使いながら、体調を整える
べきです。十分な休息や睡眠をとり、適度に体を動かし、仕事でストレスを溜めないことも大切です。調子の良い時は何でも食べて
抵抗力を付け、体を丈夫にすることを心がけていると、いつの間にか体重は増え、腹痛や下痢は少なくなります。私のように病歴が
20年にもなる方は、元々こうして体を健康に保つ方向でクローン病を乗り切ってきましたし、健康を省みるきっかけにもなりました。

また、残念ながら十分な治療実績を持った鍼灸師は少ないので針灸治療は敢えて勧めませんが、漢方薬なども含め体を丈夫にし
抵抗力を付けていく方向で、時間をかけた取り組みをしていきましょう。職場等を含めた環境まで変えることが可能ならば、なお
良いです。一見地味で時間もかかり、時間をかけずにとりあえず楽になれるレミケード治療とは正反対の方向ですが、結局当院の
患者さんも含めて、クローン病の患者さんで本当に治癒していく(完全寛解)方は、こういう方向でしか有り得ないと思っています。

現在、主流の治療法ですので、医師や患者さんの中には反対意見も少なくないとは思いますが、一考していただけたら幸いです。

クローン病は特定疾患に指定されている難病であり、決して簡単に良くなる病気ではありません。 ご自身でよく考えていただき、
納得のいく治療法を選ばれることをお勧めします。

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千秋針灸院で行う治療法について

○可能な限り「食べて治す」治療法です。体重を増加させて体力や正常な免疫力の強化を目指します。
 (現代医学での常識的な治療とは方向性が異なります。賛同いただける患者さんにお勧めします。)
 (潰瘍性大腸炎・クローン病の場合には寛解期が適応です。活動期は現代医学的な治療が必要です。)

○現代医学の治療薬とは併用可能ですが、特に免疫抑制剤等で治療を行う場合は注意が必要です。
 (レミケード、イムラン等の免疫抑制剤を使用する場合は、治療効果が相殺される恐れがあります。)

○潰瘍性大腸炎・クローン病の場合には比較的長期間に渡り、週に2回程度の治療が必要になります。
 (過敏性腸症候群では、この限りにありません。多くは数ヶ月程度で比較的容易に安定します。)
 (潰瘍性大腸炎・クローン病では、体重・体力増加期、薬剤暫減期は週に2回程度の治療が必要です。)

○希望される方には体質に合わせた中薬(漢方薬)を紹介します。医師の処方や薬局で入手できます。
 (特に体質に合った処方が重要になりますので、この問い合わせには一切お答えできません。)
 (一定期間当院の治療を受けられ、その間に患者さんごとの体質を見極めた上で紹介いたします。)

針灸により、主に腸での栄養吸収力を高めることや、下痢を起こし難くなることに重点を置いた治療を行っていきます。
ようやく臨床例も集まり、当院は独自の治療法を一通り完成することができました。この結果として体重増加や正常な
抵抗力(免疫力)を高めることにつながります。(クローン病)
私自身の例でもあるのですが、十分な体重があれば、少々下痢等を起こしても容易に回復します。体重=余力と考えて
いただいても結構です。針灸治療を行うことで、下痢で大崩させないようにしつつ現代医学の薬物治療も併用して、
十分な食事を摂り可能な限り体重を増やすことが第一段階です。

更に一定まで体重を増やした後(5~10キロ程度を目安)、体調が安定していることを確認して、薬物(例えばペンタサ)
から徐々に離脱することを目標とします。薬物治療からの離脱には良好な検査結果等を基にした医師の理解も必要に
なります。この段階は現代医学の常識ではありませんので、全ての方に可能ではないかもしれません。その後は薬物
治療からの完全な離脱と食事制限を無くす方向で治療を進めていきます。最終的には針灸治療も治療間隔を空けて、
離脱=治癒を目指していきます。

レミケードをはじめとする免疫抑制を目的とした現代医学の治療は、正常な免疫力を高める針灸治療と作用を相殺して
しまいます。針灸治療は免疫抑制剤等の副作用を抑える治療としても優れる可能性はありますが、本来治療の方向が
異なりますので、十分な治療効果が得られない可能性があります。私としては例え現代医学の常識であるとしても、
免疫抑制の治療は本来の姿ではないと考えています。
当院のクローン病治療については、こうした方向性に賛同いただける患者さんにお勧めします。


潰瘍性大腸炎の寛解期や過敏性腸症候群の治療は、必ずしも体重増加を目標としません。
最も難易度が高いクローン病の症状をコントロールする治療法を生かして針灸治療を行っていきます。


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当院での治療効果の実際

○クローン病では、1ヶ月あたり1~2キロ、半年で5~10キロの体重増加・体力増強を目指していきます。
 (体重は毎回申請していただきます。女性は秘密にして基準値プラス○キロでも構いません。)

○軟便や下痢、腹痛の傾向は治療を続ける間に緩和していくケースが普通です。
 (針灸治療を取り入れる前に比べて、疾患特有の症状は少なくなる傾向です。)

○私自身は既に治癒していますが、現在治療中の患者さんは完治に向けて取り組んでいる段階です。
 (薬剤の暫減には医師の理解が必要になります。良好な状態となり薬から離れることを目指します。)
 (過敏性腸症候群や服薬をしていない軽症の場合には治癒例があります。)

潰瘍性大腸炎・クローン病
寛解期にサラゾピリンやペンタサ、エレンタール等でコントロールされている方は、針灸治療を取り入れることで、腹痛の
症状緩和や下痢を起こし難くなり、排便回数も減少しています。また食欲は増し、体重は増加する傾向があります。
当院では症状の変化とともに体重の推移に着目しており、特にクローン病では総合的な回復の目安としています。

潰瘍性大腸炎では主に排便回数の変化に着目しており、針灸治療開始後は大きく減少する傾向を確認しています。

炎症性腸疾患治療の難しさや実際を知っている方は、最初から治療は当院で行い、幸い比較的軽症のため数ヶ月の
治療で症状が消失したケース(治癒)もあります。
(病医院等は検査のみで服薬等は無し)
現代医学での裏づけを取りつつ、針灸治療を効果的に取り入れて回復することができた症例です。


過敏性腸症候群
針灸治療により腹痛の症状緩和や便秘・下痢を起こし難くなり、精神的にも排便の不安を緩和することが期待できます。
頻繁に処方される安定剤の服用から離脱できることも必要なのですが、高齢者の方では安定剤等の副作用としての
症状(便秘)の場合があり、こうしたケースでは改善が難しい場合もあります。潰瘍性大腸炎やクローン病に比較して、
特に下痢型では数回程度の治療で症状が緩和する症例が多く、針灸治療は広くお薦めできます。

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当院のクローン病の針灸治療についての統計症例報告

中医学によるクローン病への針灸治療

当院の取り組んでいるクローン病への針灸治療について、症例は寡少ですが統計報告が可能となりましたので報告
させていただきます。クローン病への針灸治療の効果についての複数症例での報告は国内初になるものと思われます。
なお評価方法として体重の推移を取り上げましたが、クローン病において体重の推移は病勢を判断するための最も
重要な客観的数値の一つとなり、患者さんのQOLに大きく関わる指標です。


○患者数 男性5名 (クローン病と診断された方で、半年以上継続して鍼灸治療を受けられ、体重を報告された方)
○年齢層 17才~38才(初診時)
○罹患期間 診断後4ヶ月~4年 平均15.2ヶ月 
○期間 2006年11月29日~2008年4月22日 治療開始時点で概ね寬解期と思われる患者を対象とした。

※対象とした患者さんは基本的に投薬(ペンタサ・エレンタール)治療を中心とした方で、比較的軽度(寛解期)です。

○治療方法 中医学に基づき針灸治療(主に脾気虚)を、半年間を目安に週2回行った。
※詳細な治療方法等は、今後症例報告として学術大会などで公式に発表する際に、報告させていただきます。

○評価方法 起床時に体重を自宅の体重計で測定し、治療日朝の体重を報告していただいた。
※クローン病は体重減少を特徴のひとつとしており、総合的な状態の目安となります。現代医学の治療において
 通常体重を増加させることは困難であり、患者さんのQOL向上に大きく関わる課題となっています。


○平均体重の推移(5名)


当初59.4㎏、1ヶ月後61.2㎏(+1.8㎏)、2ヶ月後63.3㎏(+3.9㎏)、3ヶ月後64.5㎏(+5.1㎏)、
        4ヶ月後65.2㎏(+5.8㎏)、5ヶ月後65.5㎏(+6.1㎏)、6ヶ月後66.6㎏(+7.2㎏)
鍼灸治療開始から半年間で、5名の平均体重は7.2㎏増加。全員の体重が増加しました。


※5名中1名は遠方のため治療開始当初から週1回の治療であり、体重の増加は2㎏未満と少なくなりました。
 他4名の平均は8.5㎏の増加となり、内
3名は発症以前の最高体重へと回復しています。

体重以外の変化について
排便回数の減少、大便の性状変化(下痢→軟便など)、腹痛や腹部不快感の緩和、食欲改善、倦怠感の軽減、
自覚として体調が良好に変化した等

※クローン病として病状に多少の変動はあるものの、上記期間内に特に悪化したとの診断はありませんでした。


○考察 針灸治療により、クローン病患者への体重増および諸症状が改善されたことが確認された。
※週2回・半年程度の針灸治療により、クローン病患者は平均5~10㎏程度の体重増加が見込まれ、下痢をはじめ
 特徴的な症状の改善と共に、患者QOLの向上に繋がることが明らかになりました。
※また週1回の治療では体重の大幅な増加は望み辛いものの、比較的軽度な症例(寛解期)であれば、様々な
 症状に対して有効であり、やはり患者QOLの向上に繋がることが明らかになりました。

※全ての患者さんでエレンタールが不要もしくは少なくなり、通常かそれに近い食事が摂取できるようになりました。

○課題 現代医学の治療方針との不一致(免疫抑制剤を中心とした治療法に対して相殺される傾向)
※現代医学では重篤な副作用リスクもある、レミケードをはじめとした免疫抑制剤を使用する傾向がありますが、
 針灸治療は免疫力向上や正常化を目標とするため、当院でも治療方針の不一致に突き当たることがあります。
 針灸治療は寬解期であれば現代医学のみでの治療に比較して、良好な結果が得られると考えられますので、
 担当医師にも当院の報告から、状況に応じた選択肢を患者さんへ提示していただければ幸いに思います。
 10名以上の患者さんを診てきましたが、現代医学の治療方針との不一致による治療中止も過去にはありました。

治療者である私自身がクローン病患者でもあることから、当院では患者さんの立場で治療や指導が可能であり、
当院でのクローン病をはじめとした下部消化管疾患・症状への改善に大きく寄与しているものと思われます。
当院はIBD、IBS(クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群など)について、数十名の治療実績を持ちます。
今回クローン病では寡少とはいえ、国内初となる針灸治療による複数症例での報告に至り、これまで当院に来院
いただけた患者の皆様に感謝いたします。 
2008.6.5 Web症例報告 Copyright © Chiaki. All Rights Reserved

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院長からひとこと

特定疾患指定ということに囚われず、「完全寛解」を目指し前向きに治療に取り組みましょう。
 (潰瘍性大腸炎・クローン病は難病ですが、発症までの過程があるのと同様、回復の過程もあります。)

病名こそ潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸症候群とそれぞれ異なっていますが、中医学の側から見た場合には
似通った病気であり、症状の出方が異なる疾患であると捉えていきます。つまり現代医学の検査では分からない
過敏性腸症候群も、下血等の重篤な症状こそありませんが、潰瘍性大腸炎やクローン病の延長線上にある病気と
見なして治療を行うことができます。
潰瘍性大腸炎・クローン病の場合では、入院が必要な活動期は針灸治療の適応ではありませんが、病勢が落ち
着いている時期を見計らって治療の開始をお勧めします。過敏性腸症候群では不適応となる期間はありません。

クローン病で大学病院等の高度な専門医療機関を受診されている場合に、比較的軽症にも関わらずレミケード等の
治療を勧められる場合があります。この治療は高確率での副作用、長期観察例が無い事、更に悪性腫瘍や致命的な
経過を辿るケースさえあるものです。この治療さえも疾病を完治させるものではありませんので、病勢が強く他の
有効な治療手段が無い場合の最後の手段の一つとされています。
やむをえない場合もあるのですが、私自身クローン病を持つ一患者として、治療方針を決定する際には熟考される
ことを願うばかりです。


クローン病は私自身にとっても他人事ではない疾患です。私自身の病気のことはクローン病から針灸へに紹介させて
いただいています。おかげさまで私自身のクローン病は、中医学の診断・治療から以前に比べはるかにコントロールが
可能になりました。下痢等が続き、病院で診断がつき始める比較的初期で、かつ寛解期に針灸治療を開始すれば、
比較的薬剤や絶食に頼りきりにならなくても調子を保っていけます。
また一般にクローン病発症後、10~15年も経つと腸の狭窄など、大きな問題が生じてくるのですが、発症後20年の
私が完全に服薬無し・食事制限無しで済んでいる事例から、現代医学的な治療が必ずしも正しい選択とは限らないと
いうことを知っていただけたらと思います。

慢性化し、何度も入退院を繰り返し、腸の状態を悪化させてしまうと一筋縄ではいきませんが、そもそも全ての病気は
ある日突然発症するわけではありません。元々の素地(体質)に加え、発症するまでの長い過程が必ずあるものです。
そしてクローン病も含めた多くの病気は「ある」と「なし」の二択ではなく、多くは
「健康」-「やや健康」-「不健康」-「病気・初期」-「病気・中期」-「病気・末期」と連続しているものです。
つまり治療方法の選択によってはクローン病も「健康」な状態に近づけていける可能性があり、針灸や中薬(漢方薬)を
はじめとした中医学の治療は、容易ではありませんが治癒へ向かう道筋を持っています。

私もクローン病と診断され、国の指定する特定疾患ということで落ち込んだ時期もありました。しかし病気を調べ、
攻略法を見つけ、ついには治癒(完全寛解)を実現できました。自分で調べた漢方薬も合っていたのでしょうが、
重要なポイントは病気と向き合う中で私自身の価値観が変わったことだと思います。
「体を壊すほど仕事をして稼ぐ必要は無い=高収入より面白い生き方を選ぶ→好きなことを仕事にする」
「現代医学では回復不可能=他に病気を攻略する方法を考える→自分で治療法を編み出して治す」

という図式の答えが中医学による針灸治療でした。なにせ自分自身が治療家であることは何よりも心強いです。(笑)
クローン病は、恐らく半分くらいは「気持ちの持ち方」で状態が変わってきます。誤解を恐れずに言えば「病気を過大に
評価しない」こと、「こうでなくてはいけない」という固定観念を変えることと思います。


もうひとつ癌化が怖いとされる潰瘍性大腸炎ですが、軽、中症例では現代医学でも五年後では半数が症状消失
〔完全緩解〕、重症例でも二・三割は完全緩解し、癌化は十年後で約1%、三十年後で約20%というデータがあり、逆に
見れば99%、80%の患者さんは癌化しなかったということで、まったく油断して検査等をしないのでなければ恐れることは
ありません。その証拠に長期生命予後の数字は、一般の方と生存率の差はありません。つまりクローン病と同じく
「病気を過大に評価しない」ことが重要で、必要な治療を優先してある程度自制した生活を送っていれば、そのうち治る
病気という具合にとらえて、自分の人生観を変える機会と考えるくらいが適当でしょう。


気が付けばクローン病ばかりを書いてしまいましたが、自分自身の病気ということで、やっぱり深い思い入れがあります。
現在のところ当院は眼科針灸を専門としていますが、私自身の病気であり、この難病を完全に克服できた体験から
クローン病(消化器系疾患全般を含む)への針灸治療こそが、本当に「私にしかできない役割がある分野」と思います。
この病気を持つ全ての方が、少なくとも私と同程度までに回復されることを願ってやみません。中医学や針灸治療が
少しでも手助けになれば幸いです。
 


参考文献 
臨床各論 医歯薬出版株式会社
わかりやすい内科学 文光堂
診断と治療 1993.8
        1996.2 診断と治療社
難病の針灸治療 緑書房  他
        

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本ページの内容は現代医学及び中医学、千秋針灸院の治療実績に基づいて書いているものです。
内容や画像は千秋針灸院の著作物です。無断での転用や複製はお断りします。