恐怖に慄(おのの)いている花梨とは違って、頼忠は全く気にしている様子は無い。
当然と言えば当然なのだが、花梨はあの夜とは違う表情を見せている。次から次へと襲う快楽に動揺し、必死に抵抗している。羞恥と恐怖に震え、苦しげに漏らす吐息が実に官能的で。そんな花梨の様子は頼忠の理性を溶かし、更なる艶やかな表情を見たいと思わせる。誰に気付かれようと、見られようと、もう止めるつもりは無いし、出来ない。
『神子殿・・・。』
額の髪の生え際に口付けると、とうとう手で触れた。
『ダメだってばっ!』
手で押さえる。離そうと、手首を掴んだ。だが。
するり。
一本の長い指が沿うように撫で上げた。
『あぅっ!』
喉の奥で悲鳴が上がる。声を上げずに済んだのは、頼忠が口で押さえ込んだお陰だ。だが、感謝する状況では無い。強引に入り込んだ舌が花梨の口の中で這い回る。舌に絡められると理性を手放さないでいるのが精一杯で、抵抗する余裕など無い。

「ちょっと、何をしているの?」

「っ!」
眼を瞑る。恐怖で頼忠の腕に爪を立てた。

「え?何って、御帳台も模様替えを、と―――。」
先ほどの怒られていた若い女房が答えた。
「もう。昨夜、神子様がおっしゃった言葉を忘れたの?起きるまで好きなだけ寝かせてとおっしゃっていたでしょう。」
古参の女房は呆れたように言った。
「でも・・・。」
「ほらほら、邪魔してはダメよ。静かに休ませて差し上げて。」
「はぁ〜〜〜い。」
しゅるしゅる。
衣擦れの音が遠ざかって行く。

『ほぅ・・・・・・。』
安堵のため息を洩らし、緊張を解く。しかし、その隙に指が忍び込んだ。
「ぁんっ!」
とうとう声が零れ落ちた。

「あら?何か言った?」

『(びくっ)』
再び身体を固くした。しかし指は休み無く動き、花梨の身体を覚えていく。

「何が?」
「誰も何も言っていないわよ。」
「そう?」御帳台の方を見ながら耳を澄ます。「神子様がお目覚めになられたのかと思ったのだけど、勘違いだったのかしら。」
「気のせいでしょう。私は何も聞こえませんでしたわ。」
「シィー!」
突然、一人が指を口元に当てて静かにするように合図した。

『ダメッ!』
激流に押し流されるような恐怖感を、頼忠が強く抱き締めて受け止める。口に押し込まれた頼忠の肩を思いっきり噛み、悲鳴を殺した。

「ごそごそ動いていらっしゃるわ。煩くて寝苦しいと感じていらっしゃるんじゃない?」
「シィー!」
「シィー!」
慌ててお互いに静かにするように合図を送り合う。
「泣いていらっしゃるみたいだわ。怖い夢でも見ているのかしら?」
「だから模様替えは後にしましょうと言ったのに。」
一人が不満そうに言う。
「だってねぇ。」
「そうよねぇ。」
他の者達は反論する。
「新年を迎えられたのは神子様のお陰じゃない。」
「そうよ。新年に相応しい装いで感謝の気持ちを表したいじゃない。」
「美しい調度品をご用意するぐらいしか、私達には出来ませんもの。」
「そうそう。驚いて喜んで欲しいわよね。」
「ねぇ?」
「ねぇ?」
力強く頷き合う。

頼忠の汗と血の味が媚薬となり、花梨の残っていた理性の欠片を失わせた。痙攣が治まると、ポロポロと涙が零れ落ちる瞳で頼忠を見つめる。
『より・・・た、ださ・・・・・・っ!』
恐怖心も羞恥心もすっかり消え去っている。狂おしい欲望だけが支配している。少しでも強く感じようと、腰に足を巻き付け、頼忠の手に自ら腰を押し付ける。
『うっ!神子・・・ど・・・・・・の・・・。』

「それで騒いでいたら意味が無いわ。」
ため息をついた。
「だったらさっさと片付けてしまいましょう。」
「そうね。早く静かにしなきゃね。」
「私達がいるだけでも煩いでしょうから。」
カタカタと物を動かす。

指を引き抜き、代わりに熱く存在感のあるものを挿入し始めた。
『っつ!』
鋭い痛みが花梨を貫く。だが、慣れていないとは言え、ゆっくり準備を整えた身体は難無く咥え込んでいく。
『・・・・・・・・・。』
顔を見つめ、苦痛が消え、代わって快感に支配されていく表情に見惚れる。頼忠自身も、そこで包まれる熱と快感を味わい、歓びを噛み締める。
『ねぇ?』
腰に巻き付けた太腿に力を込め、引き寄せる。そして腰をくねらせ、強請った。
『っ!』
周りの状況一切合切頭から消え去った。

「さぁ、これで何時お目覚めになられても大丈夫ね。」
室の中を見回して頷いた。
「そうね。そろそろ下がりましょう。」
シュルシュルシュル。
衣擦れの音が遠ざかって行く。

「花梨!」
「頼忠さん!」
頼忠が花梨の名を呼んだのをきっかけに、限界を超えた二人は本能のまま、夢中で求め合った――――――。



目覚めた時、花梨は頼忠の温かな腕の中にいた。頼忠は眠っているらしく、静かな寝息が聞こえ、胸がゆっくりと規則正しく上下している。
上半身を起こし、見下ろした。様々な思いが胸を駆け巡り、息が出来ない。その中の一つ、怒りに突き動かされ、花梨は頼忠の腹部に跨った。
「ん・・・・・・・・・。神子、殿・・・?」
痙攣するように瞼が震え、瞳が開く。視線が絡み合った。
「面白い?」眼を細めると頼忠の喉元に両手を乗せ、押した。「ねぇ。私を弄んで、楽しかった?」
「ぐっ!」
顔が歪む。しかし花梨は体重を乗せ、更に強く押した。
「従者が主に対して無礼を働いたんだから、殺されても文句は言えないよね。」
「・・・・・・・・・。」
肺が酸素を求めて唇が開いた。だが、抵抗しない。
「そう、覚悟はしているのね。それに免じて弁明の機会をあげる。言いたい事があるなら言いなさいよ。」
首から手を離し、身体を起こした。途端、頼忠は激しく咳き込んだ。そして落ち着くと長い時間視線を上下に動かし、花梨の顔から胸、腰と全身を見つめていた。
「貴女は。」声が掠れている。それが花梨の全身を粟立てさせた。「ただの清らかな幼い少女ではなかったのですね。淫らで、そして・・・とても美しい大人の女だ。」
花梨は言葉の意味を理解出来ずに眉を顰めた。視線を瞳に固定すると両方の手を持ち上げ、花梨の胸の膨らみを包み込んだ。撫でて丸みを確かめると、やわやわと揉みし抱き、柔らかさも楽しむ。
「・・・・・・ぅ・・・・・・・・・。何を・・・・?」
内腿に力が入り、触れている頼忠の腰を締め付ける。手首を掴んで止めようとするが、無意識の内にその手に胸を押し付けていた。
「この身体が欲しいのです。貴女が欲しいのです。貴女を、独占したいのです。」
頂きを親指で押し潰し、擦り、尖らせる。
「・・・・・・え?」
瞳が見開き、頼忠を見つめる。唇が何かを言おうと開くが、息をするのに精一杯で言葉は出ないまま。
花梨の手が緩み、逃げ出した片手が膨らみから下へとゆっくり滑っていく。頼忠の腹部にまで到達すると、手の平を上向きにして二人の間に指を差し入れた。そして花梨の中心を撫でる。
「ここに頼忠のものを入れ、熱を感じ、溶け合いたいのです。私は龍神の神子の従者ではなく、花梨の夫になりたい。」
更に奥まで指を押し込むと、花梨は唇を噛み締めた。だが抵抗するどころか反対に腰を上げ、助けた。再び腰を下ろすと頼忠の指は中へと侵入し、そこで蠢(うごめ)く。
「・・・・・・んっ・・・・・・・・・。」
眉間の皺が深くなり、瞳を閉じた。唇から不満気なため息が漏れる。入り口付近にしか刺激を与えられない指にイラつき、手に押し付ける。
だが、頼忠は指を引き抜いた。そして上半身を起こすと、花梨は頼忠の腹部から太腿へと滑り落ちた。
「あっ。」
脚の間に硬いものが当たった。大きく膨張した熱いものが。
「そろそろ女房の誰かが神子殿のご様子を窺いにやって来るでしょう。」口を耳に近付けて囁くと、花梨の身体が強張った。「私達二人のこの姿を気付かれれば、貴女はご自分の世界に帰る事は出来なくなります。そして、この私を夫としなければなりません。」
「っ!」
眼を見開く。呼吸が乱れ、暴れる心臓の為に胸の膨らみも上下に大きく揺れる。
「それがお嫌ならば・・・。」散らばっている自分の衣の中から小刀を取り出し、鞘から抜いた。「これで頼忠の首でも心の臓でも突き刺して下さい。」
「っ!」
「さぁ。」
花梨の震えている手を取り、小刀を握らせた。
「・・・・・・・・・。」
ほとんど光の入ってこない御帳台の中でも、丹念に研がれているのが分かる刃・・・。花梨はそれをしばらく見つめていたが、決意したように視線を頼忠に移した。そして小刀の切っ先を頼忠の心臓の上に当てた。
「・・・・・・・・・。」
チクリと小さな痛みが胸に走る。しかし表情は変わらない。
「私は我が儘なの。そして独占欲も強い。だから頼忠さんを他の女と共有する事は出来ない。一瞬でも心変わりしたら。」言葉を止め、胸に当たっている切っ先をほんの少し食い込ませた。「その時は覚悟して。」
「・・・・・・花梨。」笑みが浮かぶ。「頼忠の心も身体も、花梨、全て貴女の物です。どうぞお好きなようにして下さい。」
「―――好きにする。」
胸から外した小刀を滑らせ御帳台の垂れ布の外に押し出すと、頼忠の首に腕を回した。そのまま引き寄せると唇を重ねた。
「花梨・・・・・・。」
背中に腕を回し、後頭部に手を添えて固定すると、情熱的な口付けで花梨の全身に熱を送り込む。そして何度かの息継ぎを繰り返しながら奪い取る。その間、物欲しそうに花梨の脚の間に擦り付け、突付く。
「より・・・た、だ・・・さん・・・・・・・・・。」
唇を離すと熱に浮かされたように虚ろな瞳で見つめた。そして頼忠に促されるまま腰を持ち上げ、悪戯を繰り返していたものの上に下ろし、飲み込む。自分自身の体重で最奥まで達し、花梨は頼忠の首筋に顔を埋め、苦しげな熱い吐息を漏らした。
頼忠が繋がった箇所を指で撫でると、花梨は震えてぎゅっと締め付けた。
「貴女の心と身体を頼忠以外の男に与える時は・・・・・・頼忠を殺してからにして下さい。」
「・・・・・・・・・。」
花梨はその言葉を聞いていたのかいないのか、頼忠の頬に手を添えて一瞬だけ唇を重ねると、大胆に動き出した。それに釣られ、頼忠も更なる高みに昇ろうと合わせて動き出す。心も身体と同じように溶け合い、一つになったと信じられるまで。



何時までも起きない神子を心配して様子を窺いに来た女房は、御帳台の側に剥き出しの小刀が落ちているのを見つけた。何事があったのかと驚き心配して乱暴に垂れ布を持ち上げ覗き込んだが―――二人は裸のまま抱き合って眠っていた。お互いに穏やかな笑みを浮かべながら。―――全身を紅く染めて逃げ出した。






注意・・・花梨×頼忠。ゲーム最終日を挟んだ三日間。

誤魔化しようが無いほど完璧な裏創作。つーか、それしか無い・・・・・・。
御帳台の中での事を、周りが気付かない筈は無いと思うけど、ね。
―――あっ!頼忠、傷だらけだ。凶暴花梨ちゃん♪(ちげーよ。)

後書き

2006/10/15 03:18:00 BY銀竜草
2006/11/14 00:55:56(手直し) BY銀竜草


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