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細い腕が顔の前を横切り、頭を抱える。袖の薄い布を通して温かい熱が頬に伝わってくる。 ぴちゃっぴちゃっ。 「う・・・・・・っ!」 湿った生温かい舌が耳を這い回る。宝珠を嘗める音が、耳、頭の中で響く。 「不思議よね、これ。神子と八葉にしか見えないんでしょう?」耳の上部、宝珠ごと咥えた。「ちゃんとここに存在しているのに、他の人には触っても分からないなんて。」 もごもごとしゃべりながら、飴玉をしゃぶるように宝珠に舌先を這わせる。 「っ!」 息を呑む。苦しくて眼を瞑った。しかし眼から情報を得られない事で、逆に他の神経は鋭くなる。 ぴちゃっぴちゃっ。 頼忠の頭を抱えるには、花梨は膝立ちし、ぴったりと身体をくっ付けなくてはいけない。少女の柔らかな膨らみが頼忠の腕に胸に押し付けられる。 『駄目だ。この方は・・・龍神の神子・・・・・・・・・だっ!』 理性を失わない為の呪いとばかりに繰り返し己に言い聞かせ続ける。 「ふーっ、ふーーー。」 落ち着かせようと、深呼吸のように意識しながらゆっくりと吸い、吐く。だが、胸の鼓動は激しさを増すばかり。 「くすっ。」 耳を解放した花梨は、そんな乱れた息遣いの頼忠に満足して微笑んだ。 「お願いで御座います、神子―――ぅっ。」 歯を食いしばるように懇願。だが、花梨は聞こえないフリをし、頼忠の単衣に指を這わせた。 「これ、邪魔ね。」 袴から単衣を抜き出し、はだけさせる。 「どうか、どうかお止めくださっ!」 暴れてその行為から逃れたい。だが、太腿の上に少女は座っている。蹴飛ばしたりしてしまう事を恐れ、抵抗出来ない。 「何時までも強情を張っていなさい。」 喉元から顎にかけてゆっくりと指で撫で、顔を上げさせる。そして首筋に顔を埋め、唇を押し付けた。 「ぐっ!」 歯を食いしばる。 さらさらと髪の毛が揺れ、甘い香りが鼻をくすぐる。 ちゅぱっ。 吸い上げては騒々しい音をたてて離す。そして小さな手が頼忠の胸をゆっくりと滑る。時々爪で引っ掻き、軽い刺激を与えながら。 「神子・・・・・・っ!」 吐息が肌を撫で、髪がくすぐる。ぞわぞわと肌の奥で熱い水が沸き立っているように全身を苛む。 『不思議・・・・・・。』 ただ触れているだけなのに。なのに花梨の手が滑っていった後の男の肌が緊張し、筋肉が硬くなっていく。 「ぅっ!」 声を押し殺す。だが、唇の端から零れ落ちる。 先ほどの、手が滑っていった後を、湿った舌が追う。だが、頼忠が本当に感じる場所からは微妙にズレている。そのじれったさが余計に興奮状態に追い込む。 カリ。 「あぅっ!」 胸の出っ張りに歯を立てられ、とうとう喘いだ。 もぞもぞと身体を動かす。だが、拘束されたままでは思うように動けない。女人、しかも崇拝し、密かに慕っている少女による甘美なる拷問は、頼忠を倒錯的な悦びに誘う。止めて欲しいのか、それとももっと激しい刺激が欲しいのか、己自身にももう分からない。 「頑固もここまで来ると腹立たしいわ。」 従者にこんな真似をする主はいない。触るなとでも叫べば、止めろとでも怒鳴れば。神子殿ではなく、花梨と呼んでくれたら。そうしたら解放しようと思っているのに。従者として有るまじき言動を見せてくれさえしたら。 「はぁはぁはぁ・・・・・・。」 呼吸が荒く、苦しげに顔を歪める。瞳は固く閉じられ、動揺戸惑いはおろか、嫌悪の表情さえ見る事が出来ない。 「眼、閉じちゃったら面白くないじゃない。開けなさいよ。私を見なさい。」 ピタピタと頬を軽く叩く。 「・・・・・・・・・。」 拘束された身体は上手く散らす事も出来ずに欲望の全てを受け止めてしまう。今や頭の中にあるのも、心も身体も望んでいる事は只一つ、それを伝える言葉を必死で飲み込む。 「もう良いわ。見ないんだったら、その代わり感じなさい。」 頼忠鋼の忍耐力が花梨の行動をエスカレートさせた。 ふわりと頼忠の膝の上に柔らかな布地が落ちた。と、次の瞬間。 「っ!」 顔に柔らかな膨らみが押し付けられた。芳しい匂いと共に、温かくすべすべとした素肌が頬を、唇を包み込む。 一瞬にして頭の中が真っ白になった。 「あぅっ!」 あまりの強い刺激に堪らず声を上げてしまう。何時までも拒み続ける頼忠に対し、最後の嫌がらせとばかりに裸の胸を顔に押し付けたのだ。だが、背けると思っていた顔を逆に押し付け、そして膨らみにむしゃぶりついてきた。胸の頂を咥え、舐め転がし、吸う。 「ぅ・・・・・・っ。」 身体が震える。腰を突き出し、夢中で頭を抱き締めた。 「あ・・・・・・。」 膝が笑っている。腰に力が入らない。身体を支えていられなくなり、花梨は座り込んだ。 「っ!」 肌が引き剥がされ、頼忠はそれに釣られて眼を開いた。 膝の上に呆然と座り込んでいる少女の足腰に、夜着が絡まっている。だが、上半身には何も身に付けておらず、素肌を曝け出していた。全身がうっすらと上気し、暴れる心臓と共に上下している小さな膨らみは頼忠の唾液で濡れ、燈台の明かりが反射してきらきらと光っている。微かな痣らしき痕も幾つかあって。 欲望が腰下に集まってくる。 視線を下へと移す。細い腰、平らな下腹部、そして・・・・・・。 「(ごくり)。」 生唾が湧き出る。 「な、に・・・・・・?―――っ!」 食い入るように見つめるその視線を辿ると、そこがあらわとなっていた。慌てて隠そうと、夜着を掴む。と、手が頼忠の身体の一部分を掠めた。 「くっ!」 身体が震え、顔が歪む。 そんなに強く打ってしまったのだろうかと訝しげに思いながら夜着を取り除ける。すると、衣の上からでもはっきりと分かるほど、それは存在を主張していた。 「・・・・・・・・・。」 花梨は頼忠にとって主というだけの存在。しかし従者とはいえ、頼忠はやはり男だった。興味も無い、好きでもない女からでも、肉体的な刺激には反応する。 身体の奥から湧き上がる強烈な疼きを怒りに変えた。 「なっ!」 鋭い声が上がる。そこに花梨が手を乗せたのだ。途端、ビクンと脈打つ。更なる強い刺激を強請るように体積と硬度を増していく。 歯を食いしばる。自由にならないかと身体を捩り、腕を引っ張る。逃れようと、腰を引く。だが、花梨の手はそれを追い掛け、強く握り締めた。 「苦しめ。」 主の心を傷付けまいとする心遣いは、逆に残酷だった。はっきりと言葉で、態度で拒絶してくれたら、そしたら諦められたのに。何時か主ではなく、一人の女の子として見てくれるかもしれないと、虚しい夢に縋る事もなかったのに。 手の平で包み込んだまま、先端を指先で形を確かめるように撫で回す。 「やめ・・・神子、殿・・・・・・。」 どんなに懇願しようと、止める力は無い。根元から先端までをゆっくり滑らせる。 「苦しめ。」 手の速度を少しずつ増していく。頼忠の表情を見て、より苦しむ強さを探しながら。 「あ・・・うぅ・・・・・・く・・・っ!」 今や欲望が全身を埋め尽くし、解放を求めて悲鳴を上げている。気も狂わんばかりに手首を引っ張り捻りこすり合わせる。痛みなど感じる余裕も無いままに。 「苦しめ苦しめ苦しめ。」 夢中でしごく。一人苦しむなんてもう嫌だ。こんな思いで泣くなんて。早くに失恋させてくれたら、その悲しみだったら頼忠を許せたのに。憎む事も無かったのに。 せめて。せめて私を、失恋した腹いせに肉体的な辱めを与えた女と覚えておいて。清らかな龍神の神子ではなく。源頼忠の主としてでなく。 バラリ。 縄が緩んだ。 その瞬間、自由になった手で少女の手を払った。そして突き飛ばすように押し倒す。 ダンっ! 「うっ!」 背中を打ち付け、息が止まる。だが、花梨が事態を理解する間も無く、頼忠は腰紐を解き、猛るそれを解放した。 「神子殿っ!」 唸るように叫び、花梨の足の間に身体を入れると一気に捻じ込む。 「ぐっ!」 叫び声さえも出ない。燃えている棒を突き込まれたような痛みに身体は仰け反るように跳ね、頼忠にしがみ付き、突き放す。 「神子・・・殿・・・・・・?」 頭から冷水を浴びたように、一気に冷静になった。一体己は何をしたのだ?何をしているのか?身体の下でもがき暴れ、顔をゆがめ涙を流すその様子に、身体が固くなる。身体はラクになりたいと叫んでいる。だが、こんなに苦しんでいる少女に続ける事も出来ない。 「申し訳御座いま―――。」 全身の力、精神力を掻き集め、身体を離せと己に命令する。 「続けてっ!」謝罪の言葉と共に抜こうとする男をしがみ付いて止めた。「続けて。こんな状態になっても優しくしないで!」 喉の奥がひりひりと痛む。叫んだが、囁くような掠れた小さな声しか出ない。 「しか―――。」 「貴方は何度私を傷付ければ気が済むの!?拒絶しないで私を受け入れて!」 「・・・・・・・・・・・・。」 「他の女と同じように扱ってよ。一度で良いから、従者じゃない頼忠さんを見せて。お願いだから・・・・・・っ!」 しゃくり上げながら懇願。じっと見つめていた頼忠がやっと頷いた。 「畏まりました。」途端、中心でドクンと脈打つ。「貴女がどんなに泣き叫ぼうとも、途中で止める事は出来ません。」 「何でも良いから早くっ!」 気が変わる前に。 「声を押し殺す事が出来ないようでしたら、思いっきり噛んで下さい。」 急かされ、早口でそれだけ言うと、左手を花梨の口に差し込んだ。片足を広げて固定すると、一旦腰を引いて抜き掛け、再び最奥まで押し入る。 「あぅ!」 痛みにのたうつ。噛んだ手の隙間から、唾液とくぐもった唸り声が洩れる。 「み・・・こど・・・神子・・・殿っ!」 こんな苦痛にまみれた状態でも頼忠を求める少女。手の痛み、そして繋がったそれを締め付ける強さに、頭の中は真っ白になる。例え地獄へと向かっているのだとしても、少女を殺してしまうとしても、二度と途中で止める事は出来ない。うわ言のように繰り返しながら突き上げ続けた。 「はぁはぁはぁ・・・・・・・・・。」 少女の顔の横に肘を付く。潰さないように身体を支えながら、床板を見つめていた。行為を悦び、結果を恐れて。未来を占うような気持ちで。 荒い呼吸が整っていくのと同時に、猛っていたそれは力を失っていく。 「・・・ひっく・・・・・・。・・・・・・・・・。」 しゃくり上げる声がだんだんと小さくなり、止まった。激しく上下していた胸も、ゆっくりとした規則正しい動きへと戻っていく。 物音一つ無く、静かな時間だけが流れる。 「・・・・・・・・・。」 黙ったまま身体を起こす。少女を見下ろせば、身動き一つなく横たわっていた。両足の間には鮮やかな血痕が。 「帰って。」 眼を閉じたまま静かに言う。事務的に、冷たい口調で。 「・・・・・・・・・。」 「帰って。」 「・・・・・・・・・。」 繰り返して言う少女に対し、返す言葉は見付からない。少女が着ていた夜着を身体に掛けて覆い隠すと、手早く己の衣を身に付ける。そして何も言葉にせぬまま、静かに頭を下げるとそのまま退出した。 庭から室を見つめる。 ズキッ。 両方の手首には黒々とした縄の痕が付いている。皮膚は破れ、血が滲んでいた。そして手には少女の歯形がくっきりと付いている。その両方の深い傷が鈍い痛みをもたらす。 ズキッ。 喜びでもなく、哀しみでもなく。だが、少女は確かに穏やかな微笑を浮かべていた。 身体に纏わりついている少女の汗と女としての匂いを感じながら、微笑みの意味を考え続けていた――――――。 |
未経験の花梨ちゃんからでは『最後』までは無理ですな。 次は最終日の後、です。で、―――ですね。 |