注意・・・18歳未満立ち入り禁止です。 その他、花梨攻め・拘束・大人的表現が苦手な方も 読まずにお帰り下さいませ。 |
『―――恋罪1―――』 |
「はぁ・・・・・・。」 花梨は寝返りを打ち、今宵何度目かも分からないため息をついた。明日は重要な日、最後の戦いがある。早く寝て体調を整えておかなければならないというのに、何時まで経っても眠気は訪れない。 「もう諦めよう。」 ぱしっと顔を両手で叩き、褥から起き上がった。 「えっと、あれは捨てる。それも捨てる。これとこれは紫姫に返す、と。」眠れないまま、荷物整理を始めた。「この匂い袋は向こうの世界に持って行っちゃ駄目かな?」 何かの折に八葉の一人に貰った匂い袋、今ではもうほとんど香りはしない。だが、記念、思い出になる。 それをぼーと眺めながら他の事を考えていた。 眠れない原因は分かっている。御簾の外へ視線を投げ掛けた。蔀は下ろされ、室の中からは庭を窺い知る事は出来ない。だが、これまでの習慣から庭に一人の男がいる事は想像に難くない。 『頼忠さん!』 『神子殿。近付いてはなりません。』一歩下がり、後ろを向く。『私は貴女の従者です。どうか、優しいお言葉など掛けずに捨て置き下さいますよう。』 『何で?どうして駄目なの?』 『私は穢れをはらんだ武士です。清らかな神子殿にはふさわしくありません。』 『ふさわしいふさわしくない、そんなの貴方が勝手に決めないで!頼忠さん自身はどう思っているの?それを教えてよ。』 『私は―――従者としての役目を果たしているだけです。』 「従者としての役目、か。」 ポツリと呟いたその言葉が室の中で響き、むらむらと怒りが湧き上がった。 『好きな女性でもいるの?』 『・・・おりません。』 『じゃあ、私の事、嫌い?』 『そのような事は―――!』 反射的に振り向き答えるが、途中で言葉は止まってしまう。 『それでも・・・・・・どうしても恋愛対象にはならない?考えてもくれないの?』 『貴女は・・・龍神の神子、ですから―――。』 視線を逸らす。 『私は、神子以前に一人の女だよ。高倉花梨という名前の、頼忠さんを好きだと思う、ただの女の子だよ・・・・・・っ!』 『・・・・・・・・・。』 「私の事を嫌いなら、そう言ってくれれば諦めもつくのに。女として見られないなら、仕方が無いと思えるのに。」 身体も心も守ると誓いながら。全ての望みを叶えると言いながら。そして、貴女のお傍にいるお許しを得られた事は頼忠の多大なる悦びです、とも言ったのに。それは従者としての言葉でも、普段は射るような鋭い瞳が優しく微笑んでいた。その視線は勘違いさせる。花梨の心を煽り、苦しめた。 「バカ。」 バサッ。 乱暴に文箱を逆さまに引っくり返し、紙とゴミをいっぺんに取り出す。と、小さな粒が零れ落ちた。 「ここにあったんだ。」 生理が重い時に密かに飲んでいた鎮痛剤。ある時、手から一粒零れ落ちて見付からなかったが、文箱の中に紛れ込んでいたようだ。ゴミ箱を引き寄せ、捨てようと摘まむ。だが、ある考えが頭の中に浮かび、ゴミ箱の上で手が止まった。長い間指と指の間にある粒を見つめ、そして実際に行動に移す決意を固めた。 「どうせ明日・・・・・・帰るんだから・・・・・・・・・。」 机の上に先ほどの紙を一枚敷き、その上に粒を置く。そして小物入れから小刀を取り出し、刻み始めた。 神子の室の明かりが消えた。 カタリ。 警護をしていた頼忠が物音のした方を見ると、妻戸から神子が出て来た。 「神子殿。いかがなされましたか?明日は大切な日、早くお休み下さいませ。」 高欄に近寄り、声を掛ける。 「ごめんなさい。早く寝なきゃいけないのは分かっているんだけどね。」肩を竦めた。「ちょっと荷物整理をしていたの。でね、まだ途中なんだけど明かりが消えちゃったの。」 「あぁ、そうでしたか。」頷いた。「では私がお点け致しましょう。」 「お願い。」 そう言って頼忠が室に入った。そして火を点すと、物が乱雑に散らばっている室が照らされた。 「終わりそうも無いの。暇なら手伝わない?」 「畏まりました。」 疲れ果てたような表情を疑いもせず、承諾した。 「これを重ねてあっちに持って行って。」 「はい。」 「それは全部捨てるから一纏めにしておいて。」 「畏まりました。」 二人だとさすがに早い。あっという間に片付いた。 「良かった。これで寝られる。」竹筒に入った水を椀に注ぐと、頼忠に差し出した。「ご苦労様。」 「頂戴致します。」 ごくりと飲み干す。 「後どのぐらい警護をしているの?」 「もうしばらく。夜明け頃までは。」 「明日は頼忠さんにも頑張って貰わなきゃいけないんだから、早めに寝てね。」 「お気遣い、ありがとう御座います。」 優しい言葉に感謝しつつ微笑んだのだが。 グラリ。 身体が揺れた。 「頼忠さん?」 「申し訳ありません。眩暈が。」 いや、これは眩暈ではなく、強烈な眠気。手で持っていられず、椀を床に落とすように置いた。 「大丈夫?」 頼忠の腕に手を添える。 「ご心配お掛けしてしまい、申し訳ありません。」 そう謝罪するが、違和感がある。普段起きている時間、そして特別疲れている訳でもない。睡魔が襲って来る事などありえない。こんな急激に体調が変わるのは、普通では考えられない。 「ふふっ。」 頼忠が眼を瞬かせて眠気と戦っているのを見て、花梨が笑った。 「神子・・・殿?」 まさか。まさか貴女が? 「少なかった割には効果抜群ね。」 椀を取り、中を覗き込む。そして頼忠の眼の前で逆さまにして振り、一滴さえも滴が落ちないのを見せ付ける。 「神子殿?」 床に両手を付いて揺れる身体を支える。そして落ちてくる瞼を無理矢理堪えて神子を見つめた。 「さぁ、ラクになりなさいな。」 肩を押し、倒す。 「くっ。」 少女の弱い力でも支えられず床に転がった。身体を起こそうと腕を立てるが耐え切れず、再び崩れ落ちた。眼だけ上に上げると、見えたのは揺れる燈台の火を映した少女らしからぬ妖艶な瞳。 「み・・・こ・・・・・・ど・・・。」 そしてそのまま意識を手放した―――。 「う・・・・・・。」 頭がぐらぐらする。だが、少しずつ意識が戻って来るにつれ、この異様な状況が分かってきた。 「あれ?もう起きちゃったんだ。」 塗籠から出て来た花梨は、夜着である単衣の腰紐を結びながら近付いた。 「神子殿!」 「喚かないでよ。」指一本を頼忠の唇に置く。「何事かと誰かが来ちゃうかもしれないじゃない。」 「これはどういう事ですか!」 声を落とし、だが強い口調で問う。 「そこに頼忠さんを縛り付けたの。そのまんまじゃない。」 頼忠は柱を背にし、上着や胸当て、小袖を脱がされた状態で座っていた。だが、腕が背後に回され、縄で固定されている。縛り付けた、確かにそのままの分かり易い説明だ。 「だから何故このような真似を―――っ!」 「何故って言われれば。」投げ出された足を引っ張り、揃える。そして太腿に跨るようにして座った。「頼忠さんを困らせてやろうと思って。そう、嫌がらせよ。」 「なっ!」 絶句。 「神子殿の命令だったらどんな事にでも従うんでしょう?望みは叶えるんでしょう?だったら大人しくしていなさいよ。」 すっと頬を撫で、そのまま髪を梳く。 「くっ。」 ぴくりと身体が竦む。見上げた少女の瞳に、己の顔が映っている。燈台の明かりが艶やかな唇を照らし、視線を下に移せば夜着の胸元から奥がチラチラと見え隠れしている。これから起こるであろう事を想像し、鳥肌が立った。 「嫌だったら正直に言いなさい。私に、神子殿に、花梨止めろと命令しなさい。」 「何を―――。」 いきなり唇を塞がれ、言葉が止まる。だが、少女の唇の柔らかさを感じる間もなく離され、物足りなさに眼で追ってしまう。 「さて、何をして遊ぼうかな?」 くすくすと笑い、頼忠の唇を親指でなぞった。 「・・・・・・・・・。」 言葉が出ない。恐れと動揺で瞳が落ち着き無く揺れ動いた――――――。 |
注意・・・ゲーム最終日前夜。 鎮痛剤には睡眠薬の成分が入っていますね。 ※期間限定にするか、隠しにするか、それともこのまま展示し続けるか、未だに迷い中。 |