『―――温もり・A編〜竜胆〜花梨―――』 |
秋。 花梨は勉強の日々を送っていた。文字の読み書きを中心として、縫い物や琴などの京の女性としての最低限の教養を覚えようとしていた。―――好きな男(ひと)と釣り合うような素敵な女性になる為に。 その日も、文字の練習をしていた。 「花梨殿。ご機嫌はいかがですか?」 頼忠さんが逢いに来てくれた、ただそれだけなのに嬉しくて、挨拶もそこそこに走り寄ってしまう。―――ご主人様を出迎える犬状態。心の中でこっそりと、自分を笑う。 「ねぇねぇねぇ、ちょっと見てみて!」紙を手渡す。「大分読めるような字になって来たの〜!もう少し練習すれば、頼忠さんに文を贈れるようになるよ♪」まだたどたどしい字だけど、苦労しなくても読める筈だ。 「そうですね。」真面目な顔をして読む。―――子供相手だからといって、軽々しい態度で接する事は無い―――嬉しい。「花梨殿は、上達が早いですね。頑張りましたね。」そして、優しく微笑んだ。 『よしっ!』心の中でガッツポーズ。誉めて貰いたくて、頑張っているとも言える。 「頼忠さんが驚くような文を贈るから、楽しみにしていてね♪」 ラブレターを書くんだもん。下手な字じゃ、読む前に振られちゃう。もっと頑張らなきゃ! 「はい、楽しみにしております。」また笑顔。そして、花を差し出した。「竜胆の花が咲き始めましたよ。」 「竜胆?」贈ってくれたのは青紫色の花。そして、頼忠の手から一本だけ抜き取ってじっと見ると、心の中に複雑な感情が湧き起こる。「この花って、頼忠さんみたい。」 頼忠さんが傍にいてくれるようで嬉しいのに、どことなく切ない気分にさせる花。 「は?竜胆の花が、この頼忠に似ているのですか?」 驚いて尋ねてくる。 「うん、頼忠さん。頼忠さんの背中を思い出すの。」そう言って、花を抱き締める。「凛としていて清らかで美しい花。背筋を真っ直ぐに伸ばして前を見据える頼忠さんそのまま・・・・・・・・・。」 背中をイメージさせるからだろうか?こっちを向いて、私を見て、と思わせる花・・・・・・。 「・・・・・・・・・・・・。」頼忠さんはしばらく黙って私を見つめていたけれど、掠れた声で私に尋ねた。「花梨殿・・・・・・。竜胆の花が、お好きなのですか?」 「・・・・・・・・・。」真っ直ぐに貴方の瞳を見つめ返す。「大好きです。」 この花は貴方だから。貴方だから、この花が大好きだよ。 「ありがとう御座います・・・・・・・・・。」振り絞るように声を出す。「ありがとう御座います・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・。」 貴方に似ているこの花を好きだと言ってお礼を言われると、期待してしまう。良い?貴方を好きでいても、迷惑じゃない?―――でも、そんな事よりも。どんなに優しく微笑んでくれても、陰のある瞳が心苦しかった。でも、その影が消えた・・・・・・。どんな理由かは解らないけれど、私の言葉で消す事が出来たのかな? 『そうだと嬉しいんだけどな・・・・・・・・・。』 その後、私も貴方も黙ってはいたけれど、とても気持ちの良い時間を過ごした。貴方は、後悔を含んでいない優しい瞳で私を見つめてくれた。ずっと。長い時間――――――。 注意・・・『温もり・A編』のED後の番外編。花梨視点。 まだ想いは告げていない秋の日。 お互いに想い合ってはいるけれど、またしても両想いにはなっていません。 それでも、花梨ちゃんは(頼忠が傍に居てくれるから)穏やかで幸せな日々を送っているのです。 花梨が頼忠に文を贈る話は、どうしても陳腐な内容しか思い付きません。ので、書く予定はありません。 花梨からの初めての文が届いて大喜びで開いたら恋文で、驚きのあまり固まった、てな感じですかね?好き勝手に想像して笑って下さいませ。 2005/02/22 21:26:42 BY銀竜草 |
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