「これなら動きやすいよね?」
花梨はにっこり話し掛けるが、童用、子供服を着せられた頼忠はあまりのショックで倒れそうになっていた。
「・・・・・・・・・。」
「ふふふ。可愛いなぁ。」上機嫌。「お母さんになるんだったら、やっぱりこういう子のお母さんが良いよねぇ。」
「は?」
「「「「「「「え?」」」」」」」
待て、花梨。そいつは何処をどう見たって頼忠そっくりだぞ?そんな子供が良いのか?まさか・・・・・・・・・頼忠の子供が欲しいとは思っていないよな?
動揺しまくる一人と青冷める七人、その場の雰囲気には全く気付かない花梨を心配そうに見つめる。


「さてと。忠直クン、絵巻物でも見る?」
花梨は巻物をスルスルと広げた。そして童を膝の上に乗せ、訊ねる。
「うわっ!」
声を上げてしまう。み、神子殿、神子殿の膝の上ですか?しかも、神子殿の御手が私の胸の前で組まれている。後ろから抱き締められている。
「これはこの世界の四季だね。お花が一杯で綺麗だよ。」
「・・・・・・・・・。」
膝の上の童、頼忠はもじもじと居心地悪そうに身動ぎをする。背中に・・・柔らかい感触が・・・・・・・・・。
「「「「「「「・・・・・・・・・・・・。」」」」」」」
七人、じぃぃぃと頼忠を無言で睨む。
「こっちは、色んな動物が居て面白いよ?」
「いえ・・・その・・・・・・。」
嫌ではありませんが・・・いや、むしろ嬉しいのですが・・・・・・・・・。
「興味が無い?貝合わせとか双六とかは?」
「・・・・・・・・・。」
周りからの視線が痛いと言うか、殺気が恐ろしいと言うか・・・・・・。
「じゃあ、どうしようか?何をして遊ぶ?」
「・・・・・・・・・。」
「おい、花梨。」何時までも頼忠を放さない花梨に苛立ち、勝真が提案をした。「そいつは男の子だろう?身体を使う遊びの方が良いんじゃないか?」
「外だと運動か・・・・・・。」子供の顔を覗き込む。「ねぇ、お外で遊ぶ?」
「そと・・・・・・?」
弱々しく、だが何処と無くほっとしたように微笑む。
「じゃあ、お外で遊ぼう!」
「・・・・・・・・・はぁ。」
「「「「「「「・・・・・・ふぅ。」」」」」」」
花梨が頼忠を膝から下ろすと、頼忠を含めた男達の全員が、密かに安堵のため息を洩らした。そして、花梨の後をついてぞろぞろと庭に降りて行く。



「よっしゃあ、行くぞ!」
始めたのは、蹴鞠。花梨が細かい決まり事を知らない為、鞠を地面に落とさなければ良い、とだけにして遊び始めたのだが。
「花梨さん!」
「はい、姫君。」
七人は花梨には優しく声を掛けながら蹴り返し易いように渡すのだが。
「ほらよっと。」
「そりゃっ!」
一人にはわざと返せないように蹴り渡す。だからあっちへ走り、こっちに走り。
「わっ!」
「おい、忠直。お前、下手だなぁ!」
「す、すまない。」
転がってしまった鞠を拾いに行く。
「ねぇ、みんな。忠直クンにはわざと蹴り返し難い渡し方をしていない?」
「そんな事無いぜ?」イサトがすっとぼけて言う。「俺は蹴鞠なんて遊びは初めてだからな。上手い渡し方は出来ねぇぜ?」
「私は初めてではないが、何年ぶりかな?コツを忘れてしまったよ。」
翡翠までとぼける。
「そう?」
信じてはいないようだ。眉間に皺が寄っている。
「はい!」
戻って来た頼忠、小さな足で精一杯大きく蹴る。
「はい!」
「そりゃあ!」
「はいっ!」
ばしっ、ばしっ、ばしっ。鞠が蹴られてあっちからこっちへと飛び回る。

しかし、しばらくすると。
「うわっ!」勝真がわざと大きく外して蹴り上げた。「すまん、忠直。」
「おっと!」上を見ながら頼忠が走る。「だ、だいじょうぶかと―――。」
だが。
「うわっ!!」大きな石に躓き、転んだ。「あーーー!」
「あっ!」
「「「「「「「あっ♪」」」」」」」
ばしゃ〜〜〜ん!池に落ちた。
「うわっぷ!」
「忠直くん!?」七人がにんまり笑っている横を花梨が走って行く。「大丈夫?怪我、していない?」
「げほっ!ごほっ!ぺぺっ!」
立ち上がったが、水を飲んでしまったらしく、むせて吐き出す。
「ねぇ、大丈夫なの?」ばしゃばしゃと躊躇いも無く池に入って行くと、頼忠は眼を見開いて固まった。「大丈夫?痛い所はどこ?怪我は?あるの?無いの?」
「・・・・・・・・・。」背中をトントン叩かれて我に返った。「だ、だいじょうぶですっ!けがなどありません!!」
「花梨!?」血相を変えてイサトが駆け寄って来た。「お前、何をやっているんだ?」
「神子?大丈夫ですか?」
「花梨さん?どうしたのです?」
次々と寄って来た男達が花梨を心配するが。
「何を言っているんですか!?」花梨が怒鳴った。「私じゃなくて忠直クンでしょう?池に落っこちたのは!」
「そ、それはそうですが。」幸鷹がもごもごと言い訳。「忠直は男児ですが、貴女は女人ですし・・・・・・。」
「今は冬ですから、お風邪を召してしまわれるのではないかと―――。」
泉水もおろおろごにょごにょ。
「もう良いです!」自分を庇ってくれる花梨に驚いている頼忠をひょいと抱え上げる。「風邪を引く前に着替えようね?」
「は?」慌てる。「み、みこどの、ひとりでもあるけます!わたしはけがなどしておりませんから!!」
「姫君。機嫌を直してくれないかい?」翡翠が頼忠を受け取ろうと腕を伸ばした。「私が連れて行こう。」
「結構です。私が連れて行きます。」つんとソッポを向き、抱き締める。「忠直クンの事は嫌いなんでしょう?」
ぞろぞろ。
「誤解だ。」泰継までが弁解を言う。「八葉が神子の心配をするのは当然だ。」
「神子とか女とかそう言う問題じゃあ、ありませんよ。忠直クンは子供なんだから、もう少し優しくしたって良いじゃありませんか?」
「その子は武士の子だろう?」花梨の怒りを爆発させたきっかけを作った勝真も言い訳。「甘やかしてはいけないんだ。それがこいつのためでもあるんだ」
「それにしたって冷たすぎです。」後ろを睨む。「大人げありません。」
「「「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」」」
弁解の余地は無いが、それでも。だってそいつは―――子供じゃ無い。
「こんな意地悪なお兄さん達は放っておきましょう。」腕の中の子供に微笑む。「風邪を引かないように、早く着替えて温かいお粥でも食べようね?」
「いや・・・あの・・・・・・・・・。」
柔らかい身体に密着していて、その上、優しく背中や頭を撫でられて、眩暈で頭がグラグラする。
「だから意地悪した訳では無いんだって・・・・・・。」
ぞろぞろ。花梨を先頭にして、カルガモ親子の行列のように屋敷に戻った。


「「「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」」」
だからなぜ、頼忠だけが良い思いをするんだ?






次で完結致します。