『―――若返りの薬〜改良版1〜―――』



ある日の夕刻。
四条の屋敷、控えの間で八葉が報告会をしていた。そこに珍しく遅れて登場した泰継が、他の者達に竹筒を差し出した。
「若返りの薬を改良した。誰か試しに飲んでくれ。」
「ん?若返りの薬?」
竹筒を覗けば、以前の物よりも更に異様な臭いを発する黒っぽい液体が入っている。大変な騒ぎとなったあの事件を忘れる事の出来ないイサトが睨み付けた。
「いい加減にしろよ、泰継。実験なら自分で試せよ。」
しかし、一人が考え込みながら尋ねた。
「それは、以前の物とはどう違うのですか?」
「今度のは身体も若返る。」
「そうですか・・・・・・。」普段は控え目で意見らしい言葉など口にしない泉水が、珍しく興味津津。「どのような効果があるのか、見てみたいですね。」
「泉水殿?これを飲んでみたいのですか?」
彰紋が驚いたように言うが、翡翠と幸鷹は面白がった。
「あの薬の改良版、効果を見てみたいね。」
「泰継殿の研究の成果です。仲間として協力をしようではありませんか?」
にっこり。二人で顔を見合わせて、同意見だと確認する。―――自分は飲みたくない。この薬の効果を知りたいと思っているのでもない。だが、前の騒ぎの時に一人美味しい思いをした男に、仕返しをしたい。―――あの男に飲ませたい。
「頼忠。泰継殿の為に飲んでくれないか?」
「なっ!?」
「「「「――――――っ!」」」」
一人はぎょっと顔色を変えたが、他の者達はその言葉の意味を正確に読み取り、名案だとばかりに顔を輝かせた。
「・・・・・・・・・。」
身の危険を感じた頼忠、そろそろと後ずさりをする。だが。
「「「「「「それっ♪」」」」」」
七人に一斉に飛び掛られると、さすがに逃げられない。
「なぁにふぉする?やみぇれ!」
「こら!動くなっ!!」
「足押さえろ!」
「身体の上に乗ってしまえば宜しいのでは?」
「紐は無いのでしょうか?」
「腕を後ろで縛っちまうか?」
「筒を持って来て!」
「口を開けさせろ!」
「えぇい、面倒だ。筒ごと口に突っ込んじゃえ!」
・・・・・・・・・・・・。
ゴクン。
・・・・・・・・・・・・。
「ゴホゴホっ!お前ら・・・ぐっごぉ・・・・・・っ!」
むせて咳き込んでいる間に、七人は逃げ出した。
「「「「「「「明日の朝が楽しみだ♪」」」」」」」



翌朝、控えの間。
頼忠を、七人が取り囲んでいた。
「・・・・・・・・・。」
取り囲まれた頼忠が真っ赤な顔で周りの男達を睨み付ける。普段ならば、その瞳の鋭さだけで恐怖のどん底に陥れられるのだが――――――あの薬の効き目は凄かった。
「5歳、いえ、4歳ぐらいですかね。」
「そうですね。想像していたよりも若返りましたね。」
「泰継殿は凄いです。」
ニヤニヤと笑いながら話し掛ける。
「可愛いなぁ、頼忠。」
「怒った顔も可愛いものだ。」
「頼忠にも子供の時代があったのですね。」
「俺も子供の頃に戻ってみたいぜ。」
「・・・・・・・・・。」
どんなに瞳に鋭さがあっても、幼い童の姿では睨む姿も可愛いだけだ。それに、何時もの衣を着ているからブカブカで、脱げ落ちそうな衣を抱き締めている状態では笑いを誘ってしまう。
「やすつぐどの、いつもどれるのですか?!」
真っ赤な顔で叫ぶ。
「お?花梨とは違って、記憶はそのままなんだな。」頼忠の言葉に感心する勝真。「見掛けだけか、若返ったのは。」
「ふむ。精神がそのままなら成功だ。だが、飲ませた量が多すぎたか。」
「飲む量を変えると、若返る年齢も変わるのでしょうか?」
「そうだ。」
「だから!」苛立って頼忠が声を荒げる。「わたしはいつ、もとにもどれるのか!?げどくやくをください!!」
「無い。」
「ない〜〜〜!?」
「無い。だが、問題無い。」
「もんだいあるっ!いま、すぐに、つくってください!!」
「これはまだ実験段階で、完成品ではない。だから時間が経てば元に戻れる。しばらくその姿でいろ。」
「やすつぐどの!?」
飛び掛ろうとするが、肌蹴てしまう衣に足を取られて転んでしまう。と、その隙に彰紋が嬉しそうにひょいと抱えあげた。
「童だからと言って、乱暴はいけません。」
「「「「「「そうだそうだ。暴力はいけません。」」」」」」
「くっ!!」
悔しそうな頼忠を、七人は更ににやにやと嬉しそうに観賞する。

と。

「賑やかですね。何かあったんですか?」
花梨が覗き込んだ。
「みこどの?!」
頼忠は顔色を変えて彰紋の腕から逃げようとしたが、イサトが花梨を呼んだ。
「ちょっとこっちに来いよ。子供が紛れ込んだんだぜ!」
「子供?」
「ちがうっ!」
頼忠はじたばたともがくが、いくら彰紋だからって子供よりは強い。そうこうしている内に傍に寄って来た花梨、じっと見つめる。下手に暴れて大切な少女に怪我をさせては困る。諦めて大人しくすると。
「ねぇ、彰紋君・・・・・・。」腕を伸ばして、頼忠を受け取る。「この子、頂戴?」
「みこどの?!」
「「「「「「「はぁ〜〜〜?」」」」」」」
「可愛いんだもん。欲しい。」
ぎゅっと抱き締める。
「ぅわっ!」
抱き締められた頼忠、真っ赤な顔で声にならない叫び声を上げてしまう。
「神子殿。子供は物ではありませんから、差し上げる事は出来ません。」
幸鷹が慌てて奪い取ろうとするが、花梨はさっと子供を横にして取られまいとする。
「ケチ。」
「ケチとかそういう問題ではありません。」
「じゃあ、今日一日、この子と遊ぶ。それなら許してくれるでしょう?」
首を傾げてのオネダリ。
「・・・・・・それ位なら――――――。」
駄目と言える者は居ない。
「神子は子供がお好きなのですか?」
がっくりと諦めて泉水が尋ねる。
「ん?苦手。」
「「「「「「「はぁ〜〜〜?」」」」」」」
「小さい子が身近にいないから、どう接して良いのか解らないんだもん。泣かれたら、もうどうにでもして〜、とこっちが泣きたくなる。」
「「「「「「「じゃあ、何で!?」」」」」」」
「可愛いし、我が儘言いそうに無いから。」
「「「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」」」
そりゃあ、見た目は子供でも中身は26歳。そんな大人の男が泣いたり駄々を捏ねたりする筈も無い。まぁ、どこかの誰かさんのように、この機会に乗じて甘えようなどと思いもしない頼忠であるのがマシと言えばマシであ――――――るか!
「ねぇ、君のお名前は?」
「な、なまえ・・・?」名前?まさか、頼忠とは名乗れない。もごもご。「あの、その・・・。」
「そう、僕のお名前。」
「――――――ただなお。」
抱き締められ、こんなにも間近で笑顔を見せ付けられて、頭の中は真っ白になってしまって考えられない。それでも何とか、咄嗟に浮かんだ名前を言う。
「ところで、何で忠直クンは、大人の服を着ているのかな?」頼忠の身体を、肌蹴た着物を直して覆う。「これじゃ動き難いでしょう?先ずは着替えが先だね。」
そう言うと、七人の戸惑いも気にせず、抱き締めたまま紫姫に相談しに行った。


「「「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」」」しかし何故?どうして?何時も何時も、花梨はこちらの思惑の正反対な反応を見せるのか?それも、頼忠が美味しい思いをする方に。「「「「「「「頼忠の野郎め・・・・・・・・・っ!」」」」」」」
納得がいかない七人、頼忠の監視をする為、一緒に遊ぶ事に決めた――――――。







子供の名前を考えるのが○○だった銀竜草、またしてもこの名前を使ってしまいました。他の名前を思い付くまでに何ヶ月掛かるか解らないので、悩むんだったらコレにしちゃえ!ってね。―――安易です。