3 |
「頼忠さん!綺麗なお月様を独り占めですか?」 光り輝いている月を見上げながら尋ねた。 「神子殿。」月から花梨へと視線を移す。「月の姫・・・・・・。」 「は?」頼忠の口から発せられる筈の無い言葉を聞いた花梨、驚き、聞き間違いかと頼忠の顔を凝視した。「頼忠さん?」 「・・・・・・・・・・・・。」 少し頬が紅く、眼にも口元にも艶っぽい笑みが浮かんでいる。酔っているのは解るのだが。 『きゃぁぁぁぁぁ!!』心の中で悲鳴を上げる。心臓が激しく打ち出した。『い、色っぽいと言うか・・・こ、こんな表情見せられたら、ドキドキしちゃうじゃないの!』 「神子殿?」柔らかく微笑み、熱っぽい瞳で真っ直ぐに花梨の瞳を見つめ返した。「どうかなさいましたか?」 「あれ?」彰紋は驚き、眼を見張る。「もしかして・・・・・・女人を口説くようになるのですか?」 「酒は人の本性を暴きだすと言うが、これが頼忠本来の性格なのか。それは面白い。」 泰継は興味津々と頼忠を観察する。 「頼忠が翡翠殿と同じ性格だなんて、嫌ですね。」 「酷い事を言うね。」 「正直な感想です。」 顔を顰める幸鷹と傷付いたフリの翡翠が言い合いを始める。 だが。 「ちょっとお待ち下さい。」泉水が胸を押さえ、心配そうに花梨を見つめる。「大丈夫でしょうか?動揺しているようですが?」 こちらも同様、動揺してしまう。 「え?えっとえっと。」わたわた。場を取り繕う『何か』は無いかとふと下を見れば、頼忠の前に見慣れない食べ物が置いてある。「これ、何ですか?おまんじゅうみたいですけど。」 「あぁ、菓子の試作品だとか。」 「へぇ。」菓子、との言葉に釣られた。「一つ下さいな。」 「あ。」 ひょいと一つ取ると、頼忠の小さな叫び声など気にせずに口に入れた。 「「「「「「「あっ!!」」」」」」」 見ていた者達が一斉に驚きの声を上げた。 「おい。あれ、酒入りの菓子だろう?」 イサトが泉水の袖を引っ張った。 「薬草で味が誤魔化せたので、少し多めに入っています。」 幸鷹が青冷める。 「「「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」」」 息を呑んで見守る。 「うっ!」途端、涙が出て来る。言葉にならない。『に、苦い!何これ〜〜〜?!』 「神子殿?大丈夫で御座いますか?」 頼忠は急いで水の入った椀を手渡そうとするが。 「・・・・・・・・・。」 涙眼のまま、首を振る。口を開ける事が出来ない。 「・・・・・・・・・。」少しの間、花梨を見つめていたが。「失礼を致します。」 花梨の肩に腕を回すようにして頭を引き寄せた。それと同時に、顎に手を添えて無理矢理口を開かせる。 と。 「っ!」唇が重ねられた。「ん〜〜〜〜〜〜?!」 「「「「「「「っ!!!」」」」」」」 眼の前の信じられない、信じたくない光景に、呼吸するのさえ忘れて固まった。 同時に侵入してきたモノが、菓子を捏ねながら花梨の舌に絡ませ、吸う。 「ん――――――ん〜〜〜〜〜〜ぁ――――――。」 身をよじり、パタパタと背中を叩くが、頼忠の腕の強さには敵わない。 ―――コクン。――――――コクン。 大量の水分で溶けた菓子を飲み下す。 ―――コクン。――――――コクン。 「ん・・・・・・・・・。」 菓子に入っていた酒と頼忠の熱に酔い始めた花梨、頼忠の為すがまま・・・・・・・・・。 「「「「「「「よ、よ、よ・・・・・・よりただぁ!!!」」」」」」」 何時までも夢中になっている頼忠とは違って、七葉、我に返った。 「「「「「「「お前、何しとるんじゃあ!!!!!」」」」」」」 一斉に駆け出す。 「俺の花梨に何するんだ!?」 と、最初に辿り着いたイサトが頼忠の背中をドカっと蹴り付けた。 「うっ!」 その拍子に唇が離れる。 「「「「「「この野郎〜〜〜!」」」」」」 遅れて辿り着いた他の男達が一斉に飛び付いた。 泰継が術で頼忠の動きを封じ。 泉水が花梨を引き剥がし。 勝真が腹を踏み付け。 彰紋が拳で顔を殴り付け。 幸鷹が首を絞め。 翡翠が腰に巻いていた流星錘で縛り上げる。 「姫君はご無事かい?」 頼忠を床に転がすと、翡翠は花梨の側に寄った。 「神子?神子!」泉水が抱き締めながら花梨を揺さ振る。「大丈夫ですか?」 「ん・・・・・・?」 虚ろな瞳で周りを見回したが、衝撃から立ち直れずにがっくりと意識を失った。 「可哀想に・・・・・・。」翡翠は泉水から花梨を取り上げると、花梨の顎に手を添えた。「消毒を――――――。」 顔を近付ける。 「翡翠殿!お前もかっ!!!」周りで心配そうに花梨を見つめていた幸鷹が、間一髪の所で衣の袖で翡翠の顔を覆って自分の方へ引き寄せた。「一遍、死になさいっ!!」 「「「「「「はぁはぁはぁはぁ。」」」」」」 急に暴れたから、みんなして息切れ。 「私を殺す気かい?」翡翠はやっとの思いで幸鷹を振り解き、首を押さえながらぼやく。「首を捻ってしまったよ。」 「「「「「自業自得ですっ!」」」」」」 一斉に答えると、床に転がって眠っている傷だらけの頼忠を睨む。 「眠ってしまったようですね。」 「どうする、こいつは?」 勝真の問いに。 「僕達の花梨さんを凌辱したのですから、罰を受けるべきです。」 自分達がした悪戯は棚に上げ、彰紋が怒りを込めてきっぱり言う。と、当然のように全員が頷いた。 「「「「「「当然だな。」」」」」」 「で、どうする?」 泰継が再び問えば。 「「「「「「そりゃあ!!」」」」」」 一斉に、にっこりと残忍な笑みを浮かべた。この瞬間、七人の心が一つになった――――――。 |
食いしん坊花梨ちゃんの災難。 |