次の日の夕刻、予定通りに宴は始まった。
「東の札も無事に手に入れられましたね。」彰紋がにっこりと花梨に微笑んだ。「残りは一枚ですね。」
「そうですね。」花梨もにっこり微笑み返す。「気を引き締めて頑張りますね。」
「そんな堅苦しい話は止めろよ。」イサトが割って入り、花梨の手に餅を乗せた。「ほら、椿餅。お前、好きだろう?」
「あ、ありがとう!これ、美味しいよね!」
「甘い菓子でしたら。」笑顔を奪われた彰紋、負けじとばかりに他の菓子を勧める。「唐菓子もありますよ?」
「わ〜い、ドーナツだ♪」
花梨は眼の前に普段口に出来ない菓子が次々と出されて大喜び。
朱雀の二人が甘いお菓子で花梨の眼を逸らしたのを合図に、他の者達も動き出した。



「泉水殿。一曲お願い出来ますか?」
「私の拙(つたな)い笛の音で良ければ喜んで。」
幸鷹の求めに応じて、泉水が笛を吹き始めた。
「今日はすまなかったな。」勝真が頼忠の隣に座った。「今日はお前のお蔭だ。」
勝真が頼忠の杯になみなみと酒を注ぐと、頼忠も自分の目の前にあった酒を勝真の杯に注いだ。
「何の事だ?」
「シリンさ。勝手に動いた挙句、あんな馬鹿げた策略に嵌って札も花梨も危険に晒してしまった。」
「だが、お前なりに神子殿を守ろうとしたのだろう?」
「それは・・・そうだが。」
「気にしていない。あの女がお前を狙ったのはたまたま、というやつだろう。」
「お前に慰めてもらうとは、俺もまだまだだな。」
ため息と共に頭を振る。
「お前さえ良ければ、友として、仲間として共に戦う事を許して欲しい。」
「おいおい。俺はそう言うのは好きじゃないんだが・・・・・・。」苦笑。「勝手にしてくれ。嫌だと言っても、聞いてはくれないんだろ?」
勝真は自分の杯をカチンと頼忠の杯にぶつけると、一気に飲み干す。
「私は真面目に言っているのだが。」
生真面目言うと、頼忠も酒を飲み干した。
「はいはい、解ったよ。お前は俺の友で、仲間なんだろ?」トクトクと頼忠の杯に酒を注ぐ。「頼むから連呼するのだけは止めてくれな。」
「今宵は美しい月だねぇ。」翡翠が頼忠に近付く。「杯に月を映してごらん。手の届かない筈の月の姫を手に入れられた気分にならないかい?」
「月の姫・・・・・・。」
ぼそりと呟くと、頼忠は杯の中に月を映す。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」
何時の間にか背後に近寄った泰継が、泉水の笛の音に呪文を乗せる。
「・・・・・・・・・。」
何も気付かない頼忠、酒を一気に呷った。
「全く強情な友を持ったもんだ。」
勝真が愚痴を零しながら頼忠の杯に酒を注ぎ直すと、翡翠が自分で持っていた酒を勝真と自分の杯に注いだ。
「君達の友情に乾杯!」
杯を上げてからかうように言うと、飲み干す。
「おいおい、冗談じゃないぜ。」
「・・・・・・・・・。」
二人も苦笑しながら飲み干した。


一曲吹き終わると、勝真と翡翠の二人と入れ替わるように泉水と幸鷹が頼忠の側に寄った。
「これはまだ試作品の段階なのですが、味見をしてくれませんか?」
「これは・・・・・・?」
「神子殿にお贈りしようと思っている菓子なのですが、お口に合わなかったら申し訳ありませんから。」
「はぁ。」一つ口に入れる。「菓子の類は良く解りませんが・・・・・・これは美味しいと思います。」
「そうですか?良かった。」
泉水がにっこり微笑むと、幸鷹が違う菓子を勧めた。
「こちらはどうですか?私も考えてみたのです。」
「はぁ。」仕方が無く、こちらも口に入れる。「ん?・・・・・・・・・・・・。」
その無言の態度に、幸鷹ががっくりと肩を落とした。
「疲れに効くように、少し薬草を入れてみたのですが。やはり駄目ですか。」
「少々苦いように感じられます。お止めになった方が宜しいかと。」
「ではお口直しに、こちらをもう一つどうぞ。」
泉水が同情するように優しげに微笑むと、包みを幾つか頼忠の前に置いた。
「まぁ、こちらは薬草入りですから。この後警護をするのなら、もう一つほどいかがですか?疲れが取れますよ。」
諦めきれないようで、幸鷹も菓子を幾つか強引に頼忠の前に置いた。



半刻後。
ちらちらちら。ボソボソボソ。
「おい、どうだ?」
「う〜〜〜ん、酔ってはいるようですが。」
「はい。顔は紅いですね。」
「しかし・・・・・・・・・。」
ちらちらちら。
頼忠は柱に寄り掛かり、外を眺めている。何時もは背筋をピンと伸ばしているから、酔って寛いでいるというのは解る。解るのだが。
「酔っても変化無しなのか?変わらないのか?」
「つまらないじゃないか。」
「面白くもなんとも無い。」
ぶつぶつぶつ。
「この酒、本当に強いのか?」イサトが勝真の前に置いてあった筒を手に取ると、一口、口に含んだ。途端。「ぶほっ!」
吐き出した。
「ゲホっ!くっ!ゲホッゲホッ!!」
「大丈夫か?強いって言っただろうが。」
慌てて背中をさする。
「だけど!ゲホっ!くっ!よ、より、ただは!」
「平気な顔で何杯も飲み干していたな。」
「何なんだ、あいつは?化け物か?」
憎々しげに頼忠を見る。

と。

花梨がひょこひょこと頼忠の側に歩み寄ると、隣に座った。