『―――ボツ後日談〜男の魅力2―――』



「ん〜と。興味を引くような事は何も無いようだし、私達はこれで帰らせて―――。」
千歳の顔色から心情を読み取った花梨がそう言って頭を下げたが。
「いや待て!」大臣が慌てて身を乗り出し、女童の袖を掴んだ。「待ってくれ!」
「でも、これ以上話しても無駄だし・・・・・・。」
神子まで肩を竦め、大臣は焦るばかり。
「そ、そうじゃ。神子は今も以前と変わらず祈りを捧げていると聞いておる。呪詛の痕跡があった土地を浄化したり怨霊を祓ったり。ワシはこの京に情報網を張り巡らせておるのじゃ。その情報網を使えば欲しい情報をいち早く集める事が出来るぞ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
急に黙り込んだ二人。それに気を良くしたのか、ますます声を張り上げた。
「ワシならこの京に多大なる貢献が出来る。この京の未来を考えるなら、ワシと縁を結ぶ事は何にも代えがたい事だぞ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「さぁ、どうじゃ!?」
これなら文句をつけようが無い筈だ。龍神の神子とその隣の女童を交互に見つめる。
「えっと・・・・・・、何と言って良いのか分からないんだけど・・・・・・。」
女童が困ったように呟くと、神子がうっすらと笑みを浮かべた。
「大臣殿の情報網では、龍神の神子の事は何と言っているの?」
やっと興味を持ったか。大臣の顔に満足気な笑みが浮かぶ。
「ふむ。光と共にこの京に参られた平家の姫が、院に憑いた怨霊を一瞬にして祓われた。そして怨霊と会話する能力のある神子は、八葉と呼ばれる男達と共にこの京に巣食った怨霊を祓い、絶望から救ったのじゃ。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「そうそう、身寄りのない神子は四条の尼君の屋敷でお世話されておる。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「どうじゃ、このワシの情報網は?きっと神子の役に立つぞ。」
自慢げに言ったのだが、とうとう千歳が噴き出した。
「何じゃ?何がおかしい?」
不愉快そうに神子をきつい眼で見つめる。
「あのー・・・・・・。」黙り込んでいた女童が躊躇いがちに口を挟んだ。「何で平家の姫なのに、身寄りがないの?」
「ん?」
「勝真さん、兄がいるんだから、ご両親様だっているでしょうに。そしたらご両親様の屋敷に住めば良いんじゃないの?」
「えぇ、私は父の屋敷に住んでいるわ。」
ハトが豆鉄砲食らったような顔をしている大臣に、にこやかに言う。
「おや?・・・・・・・・・ん?し、しかし尼君が星の一族の末裔で、その縁で尼君の屋敷に住んでおると―――。」
「孫、よ、星の一族は。祖母である尼君は星の一族としての力は受け継いでいないの。」
「え?え?え?」視線が神子と女童を行ったり来たり。「し、しかし神子は四条の尼君の屋敷に住まわれていると―――。」
「えぇ、確かに尼君のお屋敷に龍神の神子がお世話になっているわ。でもそれは私でなく、花梨よ。」千歳は花梨の腕を引き寄せた。「文を四条のお屋敷に贈っていたのだったら、あなたの息子さんが求婚していたのはこっちの神子、ね。」
「へ?私?」
混乱している大臣をのんびり見物していた花梨は、いきなり話が自分に向けられて飛び上った。
太政大臣はジロリと花梨を眺め回した。千歳が勘違いしているか言い逃れを言っているとしか思えない。
「何じゃ、この鄙びた娘は。ワシの息子が求婚したのは龍神の神子であって貴族の屋敷に仕える女童では無いぞ。」
軽蔑口調で言った。途端、千歳の表情が怒りに変わった。
「知らなかったの?龍神の神子は二人いるのよ。そして京を救った龍神の神子は花梨であって私ではないわ。あなたご自慢の情報網も大した事は無いのね。」
「千歳―――。」
口を挟もうとした花梨を手で制して言葉を続けた。
「帝や院を呪っていた怨霊を祓ったのも、この花梨よ。帝や院も認めた龍神の神子を、あなたが愚弄するなら―――。」
あまりの冷たい口調に、この千歳の言葉が真実だと気付き。大臣は顔色を変えた。
「いや、申し訳ありません!」ずりずりと後ろに下がると、花梨に向かって頭を床に擦り付けて見せた。「龍神の神子のお噂はよく耳にしておりましたが、姿を見た事は無く、誤解してしまいました。お許し下さいませ!!」
「え、え〜?えっとえっと・・・。」
「これ、お前も謝らんか!」
花梨が戸惑っていると、大臣は横でぼんやりと遣り取りを眺めていた息子を睨み、促した。
「あ、はい。」慌ててその場で土下座。「申し訳ありません。」
「怒っていませんから顔を上げて下さい。」
大臣の肩を何度か揺さぶると、やっと頭を上げた。
「ありがとう御座います・・・・・・。」
感激に声も肩も震わせている。だが、そのわざとらしいまでの大げさな仕草が、演技だと教える。
「誤解も解けたようだし、じゃあ花梨、帰りましょう。」
呆れた千歳、花梨を促し立ち上がった。
「うん。」
だが、立ち上がり掛けた花梨を大臣は慌てて引き留めた。
確かに、変わっている、との評判もこっちの娘ならば納得だ。そしてこんな鄙びた娘でも、龍神の神子には変わりは無い。龍神の神子ならば、誰だって良い。常識など知らぬこっちの方が、貴族の姫よりも都合良く利用出来そうだ。
「いや、話を聞かないうちに帰られては困ります。」
「話?」
「そうじゃ。」息を大きく吸った。「ワシの息子と結婚して下さらんか?」
「ケッコン?―――え?今、結婚してくれって言ったの?千歳じゃなくてこの私に?」
素っ頓狂な声を上げた。
「うむ。ワシの息子はそなたに懸想し、恋文を贈っておったのじゃ。誤解は解けたのだし、考えてはくれんか?」
「散々千歳を口説こうと必死だったクセに。結局、誰でも良いんじゃ・・・・・・・・・?」
そう呟きながら疑いの目で見ると、大臣は大きく首を振った。
「いやいやいや、それは誤解しておったと理解してくれたではないか?そんな意地悪など言わんで前向きにお考えになって下され!」
「・・・・・・・・・。」
息子を見る。と、彼は俯いて床を眺めていた。父親の命令でここにいるが、どうも神子のどちらにも興味は無さそうだ。
きちんと座り直すと、きっぱりと言い切った。
「それは無理です。私には恋人がいるから。」
「恋人?」
「うん、先ほどの会話で出てきた頼忠さん。」
「頼忠?」背筋がピンと伸びる。「頼忠が優秀な若者だという事は知っておる。が、たかが武士ではないか。太政大臣の嫡男の求婚を蹴ってまで何故にわざわざ武士など選ぶのじゃ?」
自尊心を傷付けられたとばかりに憮然とした表情で神子、花梨を睨む。
「頼忠さんは優秀なだけじゃないもん。」真っ直ぐに見返し、大真面目な顔で言った。「すっごく声が素敵なんだもん。」
「へ?声?」
「―――は?」
大臣は勿論、千歳までびっくりした声を上げた。「ちょっと待って花梨。まさかあなた、声で頼忠殿を選んだの?」
「まさか、そんな訳ないでしょ!見た目は格好良いし、性格だって優しいし誠実。学問はダメだと言うけど頭だって悪くないし、分別もある大人の男性だよ。」眼を見開いて否定したが、突然、にへら〜とした笑みを浮かべた。「でも、頼忠さんに名前を呼ばれると、擦り寄ってゴロゴロ喉を鳴らしたくなる。」
猫か、お前は。
「そ、そうなの。良かったわね・・・・・・・・・。」
その惚けた顔に呆れて呟いた。しかしながら突然思い出した。いや、思い出せない事に気付いた。「あら?私、頼忠殿のお声を聞いた事があったかしら?」
「え?なかったっけ?」
びっくりし、訊き返した。
「頼忠殿、私の側には来ないもの。」
花梨、恋人の友人でも、勝真、友人の妹でも、千歳は貴族の姫だ。身分を考えているのだろう、直接には話し掛けて来ない。
「頼忠さんの声って少し低めで艶があって、すっごく格好良いんだよ。物語を朗読して貰ったら、その声に聴き惚れちゃって内容、話が頭に入って来ないの。ん〜、でも千歳は聞いちゃダメ。」
にこにこと説明していたが、急に表情が変わった。
「何でよ?どうしてダメなの?」
「だって、千歳も頼忠さんの事を好きになっちゃうかもしれないじゃない?そしたら私、負けちゃうもん。」
「何言っているの!」
不安そうな花梨、そして呆れ笑う千歳。


そんな二人を見つつ、大臣は考えていた。
素晴らしい男達に囲まれている龍神の神子二人。ボンクラ息子では勝負もなにもそれ以前の問題だ。だが神子は今、ココ、大臣の屋敷にいる。一人には恋人がいるようだが、たかが武士、このまま既成事実を作ってしまえば――――――。

パタパタパタ。

隙間などない筈なのにどこから入り込んだのか、1羽の白い鳥が女童にしか見えない神子に向かって飛んで来た。
『―――神子。』
「な!?」
「うわっ!」
大臣とその息子が飛び上がった。そのまま尻もちを付き、無様な恰好のまま口をパクパクと動かす。
「と、鳥が・・・。」
「・・・しゃべった!?」
しかし、神子二人は平然としている。女童にしか見えない神子が腕を伸ばすと、その鳥が手の平にふわりと降りた。
『―――神子、何をしている?』
「泰継さん、どうしたの?」
「・・・・・・やすつぐ・・・・・・?」
大臣は目玉が飛び出るかと思うほど眼を見開いた。
これがあの有名な、そして神子と懇意の陰陽師?
『―――帰りが遅いから様子を伺いに参った。何をしている?』
「うん、このお家に呼ばれたの。お話があるって。」
「えぇ、そう。でもその話はもう終わったわ。」
『―――そうか。星の姫がお前の帰りを待っている。』
「え?」御簾の外を見て今度は花梨が飛び上がった。「あ〜〜〜!?もう陽が暮れ始めている。大変、頼忠さんが来ちゃう!」
「あらら〜。兄が大騒ぎし始める頃ね。」
大慌ての花梨とは違って、大変と言いながらも千歳はどこかのんびりしている。この雰囲気が貴族の姫、というものだろうか?
『―――頼忠を迎えに行かせる。そこで待て。』
「ううん、大丈夫。遅いから送ってもらうよ。」
「そうね。その方が早いわ。」
花梨が千歳を見ると、千歳も同じ考えだったらしく頷いて見せた。
『―――分かった。』
「すぐに帰るからね〜。」
飛び立った鳥に手を振っている。

「・・・・・・・・・。―――はっ!?」
見た事が信じられない。呆然と眺めていたが、神子の「送ってもらう」の一言で我に返った。
誰がこんな絶好の機会を逃してなるものか。
陰陽師は既に帰った。神子が帰らずとも、自分から帰ると言ったのだ。当分、迎えは来ない。ならば、その間に。
『おい。』
『ふへ?』
未だに驚きから戻って来ない息子に目配せをする。顔を動かした視線の先には、塗籠。
『どちらかを。』
『え?でもすぐに帰るって―――。』
鈍い息子の膝を叩いた。
『バカもん、熱意を見せんか!恋を叶える行動力があるのも、男としての魅力の一つだ。こっちが牛車の用意をせねば帰られん。どっちでも良いから早くせよ―――。』

「―――うん。そう―――。」
「分かったわ。―――文を送るわね。」
「うん、待ってる。」
大臣達はそっちのけでしゃべっていた神子二人、今後の予定が決まったようだ。頷き合う。
「じゃあ―――。」
「いや、帰す訳にはいかん。」
顔を向けられた大臣が二人にきっぱり言うと、また怒られるのを恐れた息子が勢いよく立ち上がり、きょとん、とした眼をしている花梨の側に駆け寄り腕を掴んだ。
「あのっ!」
「ん?何?」
「いや、あのっ!―――そのっ!」
言葉では上手く説明出来ず、行動で示そうとぐいっと腕を引っ張り、立ち上がらそうとする。
しかし。
バシッッ!!
物凄い音が響き渡った。横から千歳が花梨の腕を掴んでいる息子の手の甲を扇で思いっきり叩いたのだ。そして今度は手首の内側を扇で強く叩き、不作法者の手を完全に払い除けた。
「無礼者!こちらにおわすお方をどなたと心得る!恐れ多くも京をお救い下さった花梨様にあらせられるぞ!・・・・・・と、この後何だったかしら?」
「えぇ〜い、皆の者、龍神の神子姫の御前である、頭が高い。控えおろう、だよ。」
小声で訊けば、こんな事には頭が回る花梨、きちっと教えた。
「えぇ〜い、皆の者、龍神の神子姫の御前である、頭が高い!控えおろう!!」
珍しく大きな声を出した千歳、ちょっと声が掠れたが、最後まで言い終えた。
「ワシの息子に何をする!?」
今までこんな扱いを受けた事は無い。大臣が怒りに燃えて千歳に向かって大声を出したが、千歳は大臣に向かってずいっと扇の先を突き出した。無言だが、強い瞳に気圧(けお)され、もぞもぞと座り直した。
「おぉ〜。美人がやると迫力が違うねぇ。」
拍手する音が響いた。
「ち、父上・・・・・・・・・。」
強くて恐ろしい父。しかし、そんな父に歯向かう神子と、それを感嘆し楽しそうに眺めている神子。
息子は怯えたように2歩3歩4歩とよろけつつ離れて行く。


「花梨、先に帰って良いわよ。」
男二人を見ながら言った。
「え?良いの?」
「えぇ。早く帰らないと、頼忠殿が大騒ぎして駆け込んで来るわ。ね?」
「うん、そうだね。―――じゃあ、先に帰るよ。」
大臣は、牛車の用意も頼まないでどうやって帰るつもりか、と半分小馬鹿にした気持ちで神子二人のやり取りを聞いていたが。
「お願いします。」
花梨は胸の前で手を組み、一言。
その瞬間。
ドワ〜〜〜ン!!
突風と共にどデカイ白い龍が現れた。その風圧で大臣が吹っ飛ばされ、悲鳴を上げた。室の隅にまでゴロンゴロン転がって行く。
『―――神子―――』
「龍神様、屋敷までお願いします。」
『―――良かろう―――』
「ありがとう御座います!」
にっこり笑顔。しかし、室の中を見回すと、笑顔が消えた。
大臣は室の隅で呆然と引っくり返った四つん這い状態で、帽子がどこかに吹っ飛んでいた。そして息子は、神子二人から数歩離れた場所にそのまま立ってはいたが、眼が落っこちそうなぐらい見開いている。
問い掛けるような瞳で見つめる千歳にちょっと笑って見せると、花梨は息子に駆け寄った。
「お兄さん!」
「・・・・・・あ・・・・・・?」
ゆっくりと生気の無い眼で見返すと、神子の瞳が大臣の方を見、そして息子に戻った。釣られるように、息子の眼がゆっくりと父親の方に向く。そして花梨に戻って来た息子の眼には恐怖心が宿っていた。
花梨が息子の右手を取った。
「私の龍は白龍、前に進む龍です。あなたに、白龍の力、前に進む勇気をあげます。」
そう言ってじっと見つめた。その言葉が息子の頭の中に届いたのが分かると、ほんの少し、握った手に力をこめる。
神子の全身から神々しい光が放たれ、優しく温かい光が息子を包んだ。
『―――これが白龍の神子。さすが花梨だわ。』
花梨の意図を理解すると、千歳は感嘆しため息を吐いた。
龍神の神子を誘拐して結婚を迫(せま)る輩にも、慈愛の心を持つ。救おうとする。白龍の神子は、この太政大臣の息子が今、欲しているモノ、必要なモノを与えた。
実際には、白龍の神子だろうが黒龍の神子だろうが、龍神の神子は龍神の神力を使うが人間に分け与えるなんて事は出来はしないが。
「大丈夫、もう大丈夫だよ。自信を持って。」
息子の眼を見てはっきり言った。にっこり微笑むと手を放し、龍の側に戻る。
千歳が小さく頷いた。
「千歳、バイバ〜イ!」
白い龍が前足で神子を抱え上げると、次の瞬間には突風と共に消え去った。
「黒龍様。」
今度は千歳が胸の前で手を組んで祈る。
その瞬間、先ほどと同じように突風と共にどデカイ黒い龍が現れた。
『―――神子―――』
「・・・・・・・・・。」
千歳は少しの間考えていたが、小さく頷いた。龍神に会釈すると、その黒い龍を見つめたまま固まっている息子に近寄った。
「っ!?」
びくっと大きく震えたが、息子の眼が千歳の眼と合った。
「私の龍は黒龍。」息子の眼が脅えたように揺れる。しかし千歳は微笑みながら息子の左手を取った。「黒龍は破滅の神ではなくて留まる神、癒す神様よ。そしてあなたに黒龍の力、迷った時に悩む己を赦す勇気をあげるわ。」
そう言うと同時に、神子の全身から神々しい光が放たれ、優しく穏やかな光が息子を包んだ。
「―――・・・・・・・・・。」
一度眼を閉じたが、開いたその眼からは脅えの表情が消えていく。
「この龍神様の力をどう使うかは、あなた次第よ。」
手を放し、黒龍の側に歩み寄った。
少し強くなった視線を背中に感じて思わず笑みが零れたが、黒龍に向かい合った時には既に真面目な顔に戻っていた。
「黒龍様、お屋敷までお願いします。」
『―――良かろう―――』
「では、私も失礼させて頂きますわ。」
挨拶をした。
黒龍が前足で神子を抱え上げると、次の瞬間には突風と共に消え去った。


静かになった室内で、大臣は脱力し床に伸びた。そして息子は足の力を失い、崩れるように座った。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
お互いに顔を見合わせた。そして、室の中をそれぞれ見回した。
龍神は外から来たのだろう、折れた高欄や格子の木の欠片、引き千切られた御簾の切れ端があちこちに散らばっている。室内にあった全ての家具が吹っ飛び、バラバラに壊れている。ここから見える庭も、木々草花が荒れ放題。竜巻が通り過ぎたような惨状だ。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
今見た事が信じられない。しかし、この室にはその証拠が残っている。
「大臣様、ご無事ですか!?」
「若君、何事ですか!?」
女房や家司が騒ぎに気付いて駆け付け、驚き騒ぐが、大臣は言葉も無く、ただ呆けたような顔で見返すだけ。
そんな父親の姿を見ていた息子は、自分の両方の掌を上にして、見た。
「・・・・・・・・・。」
柔らかな小さな手。だが、温かで力強かった手。
龍神の神子と言えども童、小娘。そんな若い姫が持つ勇気、自信。それに対して、大人の男である己は何なのだ?
『・・・・・・・・・・・・。神子・・・・・・・・・、どうか私に勇気を・・・・・・・・・っ!』
ゆっくり握ると立ち上がって顔を上げた。
「若君!」
「騒ぐな。客人が帰っただけだ。父上はお疲れのご様子、静かに休ませてくれ。」
破裂しそうなほど強く打つ心の臓。だが、恐怖心を押し隠してきっぱり言うと、急激に変わったその態度に父親を始めとしてその場にいる全員が驚きで固まった。
怒る者も、嘲笑する者もいない。心に深い安堵感が広がった。
「後は頼む。」
その視線を気持ち良く感じながら、息子はしっかりした足取りで室を出て行った。






注意・・・連作『おままごと』のボツ番外編。

龍神様を「アッシー君」にする龍神の神子様(爆)。
そんな神子は連作『おままごと』の花梨ちゃんぐらいです。

帝に会っているのだから、太政大臣はその場にいて神子の顔を知っている筈。なので、これは有り得ない話・ボツ番外編となりました。

2009/06/18 02:55 BY銀竜草