『―――ボツ後日談〜男の魅力1―――』



とても天気の良いある日の事でした。
京の町をお散歩していた花梨と千歳は、上級貴族に指示された集団に誘拐されてしまいました。



「ここ、どこだろう?」
「さぁ?」
屋敷の室に閉じ込められた二人は顔を見合わせた。
「抜け出せないかな?」
貴族の姫らしく大人しく座っている千歳とは違い、花梨はうろつく。
しかし、妻戸には鍵が掛かっていて格子は全てしっかりと下ろされびくともしない。耳を澄ませば外に男が数人いるのが分かったが、誰かに命令されて花梨達を見張っているようだ。
「駄目だ。やっぱりここの家の人に帰してくれるように頼まないと無理みたい。」
室内に戻って来た花梨は千歳に言った。
「そう。」
小さく頷いた。力づくで攫って来たのだからそう簡単に帰してくれるとは思えないが。
「でも大丈夫!千歳の身はこの花梨が生命を賭しても守り抜くから安心して!!」
花梨が力強く言うと、千歳はにっこり微笑んだ。
兄である勝真の紹介で知り合ったのだが、この花梨、一風変わった少女だった。考え方も行動力も、この京の常識とは大違い。見れば見るほど、知れば知るほど、龍神の神子という大役を軽々とこなしたその理由を理解させられた。
そんな花梨と一緒なのだ。こんな状況におかれても、不安など感じない。
「えぇ、心配していないわ。」


千歳がそう答えた時、でっぷりと太った年配の男が御簾を跳ね飛ばして室に飛び込んで来た。そして入り口付近にいた花梨にぶつかり、転びはしなかったが、奥ほどまで吹っ飛ばした。
「神子!」
しかしその男はその事には全く気付かずに、息を呑んだ千歳の膝に触れそうなほど近くに座った。
「神子!ワシの息子の求婚を、何故に拒み続けるのだ!?」
「え?」
いきなり喚かれて驚く。そんな千歳をじれったく思い、千歳の手を取った。が。
「無礼者っ!」
「ふぎゃっ!?」
花梨が身体全体でその男を吹っ飛ばした。
「無礼者!こちらにおわすお方をどなたと心得る!恐れ多くも京をお救い下さった平千歳姫にあらせられるぞ!えぇ〜い、皆の者、龍神の神子姫の御前である、頭が高い!控えおろう!!」
睨みを利かせて強い口調で言うと、男はその迫力に押され、慌てて千歳から膝三つ分ほど後ろに下がると、「は、ははぁ〜!」と言いながら頭を床にくっ付けた。
『どうしたの花梨?やけに楽しそうだけど・・・・・・。』
呆気にとられ、そんな男の様子を満足気に眺めている友人を見上げた。


「さてと。」千歳の半膝分前に座った。「神子誘拐を指示したのはあなた?」
「そうじゃ、ワシじゃ。」
顔を上げると口をへの字にしながら答えた。
「私達、帰りたいんですけど。」
「帰す訳にはいかん!」
怒鳴った。しかし顔を顰めた花梨に、顔色を変えた。
「神子にどうしてもお訊きしたい事があるのじゃ。それを聞かぬ内にお帰しする事は出来ん。」
「何?」
じゃあ、さっさと訊け。
そんな表情だが、一応、話を聞く気持ちになったようだ。気が変わらぬ内に、とばかりに千歳の方に顔を向けて口を開いた。
「うむ。ワシの息子がそなたに恋文を贈り続けておる。じゃが、求婚を承諾してくれないばかりか、返事も無い。その理由を知りたいのじゃ。」
「恋文?」
千歳には覚えがなく、きょとんと首を傾げた。
年配の男の後ろを見れば、気の弱そうな若い公達が落ち着きなく手で袖を握ったり伸ばしたりしながら立っていた。みんなの視線に気付いたようで、慌てて父親の背中に隠れるように座った。
「そなたに贈った文が100通を超えたのですぞ?そろそろこちらの気持ちに応えて下さっても良いではないか!」
「そんな事を言われても・・・。」
千歳は唾を飛ばしながら叫ぶ男に困惑し、眉を顰めた。
「ワシは太政大臣だ。その息子の何が不満だと言うのだ!?」
大げさな身振りで息子の方に腕を広げたが、父親の影に隠れるように座っている事に気付いて龍神の神子、千歳から姿が見えるように引き摺り出した。
「太政大臣。」
そこでやっと納得した。そんな話が来れば、千歳の両親は大喜びで受けるだろう。100通どころか1通で結婚している筈だ。つまり、太政大臣の息子が求婚したのは千歳ではない。
しかし、求婚した相手がどんな姫なのか知らないなんて、失礼にも程がある。
『どうするの?』
呑気に瞳を輝かせて尋ねる花梨に思わず笑ってしまうが。
「どうか、ご説明を。」
「・・・・・・・・・。」
ふんぞり返るような座り方をしている、全てが思い通りになると思っている男。そして俯いて無言で座っている、父親に従うしか能の無い息子。
断るにしても、一応、話を聞かないでは終わりそうもない。
「そうね。でも、龍神の神子の周りには素敵な殿方が大勢いるのよね。彼らよりも優れている何かを持っていたら、考えても良いわ。」


コイバナ。
正確には違うが、求婚は似たようなものだろう。
そして女の子にとって、これ以上楽しい話題は無い。
俄然、花梨は張り切る。


「そうだね。千歳はとっても良い娘(こ)だから、つまらない男と結婚させる訳にはいかないよ。」
『何じゃ、この女童は?』
胡散臭い者を見る目つきで龍神の神子の隣の童を見つめる。
しかし、この龍神の神子は変わり者、との噂がある。礼儀知らずの田舎者を話し相手として側に置いていても不思議は無い。それどころか、この女童を信頼しているなら、機嫌を損ねない方が得策かもしれない。
無礼な態度には眼を瞑ろうと決意し、姿勢を正した。
「じゃあ、男として優れている点、魅力を教えて下さい。」
太政大臣が口を開こうと瞬間、その女童が息子を見て付け足した。
「顔、は言わないでね。千歳は生まれてからずっと兄である勝真さんを見て育ったんだから。」
「なっ!?」
いきなり出鼻を挫(くじ)かれた。
しかし。
『勝真、勝真、勝真。平勝真?』聞いた事がある名だ。『そうだ、美男子で有名な若者だったな。殿上を許されていない下級貴族だが、その容姿に惹かれて恋文を贈ったり父親に話を付けてくれるように頼んだりする姫がいるとの噂がある。』
それも、一人や二人ではないらしい。我が息子はそこそこ綺麗な顔立ちである。しかし、そこそこ、程度。そんな噂になる勝真ほどの容姿を見慣れているなら、息子では無理だ。
他を考える。
「ワシは太政大臣だ。息子は今、大納言だが、ワシが引退すれば太政大臣になる。その息子の求婚だぞ?何が不満だと言うのだ?」
「だじょうだいじん。」女童が神子を見た。「太政大臣って偉いの?」
「何じゃ、そんな事も知らんのか!?」
思わず男が叫んだ。しかし神子はその事に関しては何も突っ込まなかった。
「えぇ。臣下の中で、一番高い身分が太政大臣よ。」勝ち誇った笑みを浮かべる大臣を眼の端で見ながら続けた。「彰紋様の臣下、ね。」
「彰紋くんの?」
「あ、あきふみ『クン』?」
思わず素っ頓狂な声を上げた。東宮様を「くん」呼ばわり?
しかし、神子は咎める事も無く真面目な顔で頷いている。
「所詮、太政大臣の妻は、臣下の妻、でしかないわ。だけど彰文様は将来の帝だから、男皇子を産めば女としての最高位、中宮も夢ではないわ。その皇子が帝になれば国母。花梨は興味無いでしょうけど、貴族の姫として生まれると、一度は夢見るのよね。」
「千歳も?」
「私?私は。」
意味ありげな微笑みを男に投げ掛けた。
「ふ〜〜〜ん・・・・・・。千歳が帝の母上様か。この京には良いかも。」
女童は何を納得したのか、うんうんと頷いている。

東宮と親しい龍神の神子。神子だって貴族の姫、帝との結婚は憧れるだろう。東宮様だって東宮の地位を安定させるには、この龍神の神子の肩書きは魅力的だろう。これは夢物語ではなくて現実に有り得る話だ。
これは一刻も早く、他の自慢を探さねば。
「ワシの息子は学ぶのが好きなのだ。この京では一、二を争うほどの博識でな―――。」
「まぁ、勉強家なのね。」
女童が顔を輝かせた。大臣は成功したと内心喜んだが。
「私達の先生、幸鷹さんとどっちが賢いのかな?」
「ゆきたか?幸鷹とはまさか藤原の若造―――っ。」
思わず失言してしまい、慌てて口を閉じる。と。
「えぇ、その検非違使別当の藤原幸鷹殿の事よ。」千歳がにっこりと微笑んだ。「龍神の神子のお役目を果たす為に学問を疎かにしてしまったから、色々と教えて頂いているの。」
「何度でも繰り返し丁寧に教えてくれるから、とっても分かりやすいんだ。怒らないし、良い先生だよ。宿題が多くて大変だけど。―――だから先生は間に合っている。」
結婚相手と学問の先生は、求める意味が違う。花梨の言葉に千歳はクスリと笑った。
「貴族の知識と言えば和歌や漢詩。博学なら、幸鷹殿と漢詩合戦でもしたら面白いでしょうね。」
途端、息子が青冷めた。学ぶ事が趣味なあの男に知らない漢詩などあるのか?勝てる訳がない。
「いやいやいや、別当殿も息子もお互いに忙しい身だ。それよりも、我が息子は武術も得意でな。その剣の腕前と言ったら―――。」
「武術で剣と言ったら頼忠さんだね。息子さんが多少得意と言っても、頼忠さんには絶対に勝てない。」
花梨が断言すると、千歳もうんうんと頷いた。
「そんな事は無いぞ?このワシ自ら教え込んだのだ。そん所そこいらの武士よりも・・・・・・・・・。」言葉が止まった。眉間に皺が寄る。「ん?よりただとか申したか?」
「えぇ、ご存知?源頼忠殿は院に仕える武士団所属の武士よ。」
「そ、そいつはっ!」
息子が悲鳴に似た声を上げた。
院専属の武士団は精鋭揃いで有名だ。中でも源頼忠とかいう者は噂というよりも伝説があるのだ。数十体の怨霊を一振りで薙ぎ祓ったとか極悪非道の強盗団をたった一人で追い払ったとか、その鋭い目で睨まれると動けなくなるとか何とかかんとか。
そんな男と会わせられるかもしれないと想像するだけで、身体全体が震える。

そんな息子の様子に顔を顰めながらも、頼忠の噂を聞いた事のある大臣は仕方が無いとも思う。
嘘でも良いから何か自慢出来るものが無いか、必死で考える。
「実は息子は芸事が一番得意であってな。それも楽の才に恵まれて笛を吹けばその音色は一晩中聴いていても飽きぬほどで―――。」
「私、泉水さんの笛以外、聴いた事が無いの。」
花梨が呟くと、千歳も首を傾げた。
「そういえば、私も泉水殿以外の殿方の笛の音は聴いた事が無かったわ。兄は得意じゃない、の一言で吹いて下さらないんだもの。恐らく、泉水殿と比べられるのが嫌だったんだと思うけど。」
「泉水!内大臣のご子息である泉水殿か!?」
驚きで眼を見開いた。
笛を吹いていたら何とかっていう鳥が舞い降りて踊ったとか、彼が吹く笛の音には迷える魂を浄化する力があるとどこかの徳のある坊主が言ったとかいう噂がある?
泉水の笛の音を聴いた事がある者ならば、それは実際にあった話だと信じる。
「泉水さんの笛の音は好きだし上手だと思うけど、比較対象となる音色を聴いた事が無いから私にはどの程度上手いのかは判らない。」
「そう言われてみればそうね。」
貴族は自分がより魅力的な人物だと思わせようと、家族やその屋敷に勤めている者達に誇張した噂を流させる。しかし、太政大臣の息子は笛が得意、なんていう噂は聞いた事が無い。という事は、そういう事だ。
それを解っていながら。
「一度聴かせてくれませんか?折角ですから、泉水殿と合奏でも。」
千歳が提案した。
「それ、ぐっどあいでぃあ!!」
解っていない花梨が膝を叩き、千歳と花梨が見合わせた顔の間で親指を立てた。
「ぐ、ぐっど・・・・・・?」
「では、私が場を設けますわ。」
「うん、お願いね。泉水さんには私から頼むから、心配しないで。」
「今日はさすがに無理でしょうけど、何時頃だったら良いかしら?」
どんどん進んでいく会話に青冷めた大臣の息子が、神子達からは見えないように父親の足を叩いた。
「いやいやいや。残念ながら今、笛の調子が悪くてのう、修理している所だ。それはまた今度、という事にしよう。」
そんな者の音色を聴き慣れているならば、ワシの息子のは聴けたものではない。そんな事は本人が一番よく知っている。合奏などとんでもない。
「そ、そうじゃ。」資産家という点を主張する作戦に出た。「ワシはあっちこっちに荘園を持っておってな。地方の名産品やら粋な工芸品など、幾らでも手に入るのだ!美しい衣を纏い、華美な調度品に囲まれ、蝶よ花よと楽しい生活には憧れはしないか?そなたが望めば、どんな物でも手に入れて差し上げるぞ。」
千歳も花梨も、綺麗な物は好きだしおしゃれにも興味がある。だが、大臣のその言葉から思い出した事があり、千歳は隣の花梨に言った。
「先月、翡翠殿から布を頂いたわ。あなたとお揃いだと。あれ、とても綺麗だった。」
「あぁ、あれね。」こっちにも記憶があり、頷いた。「翡翠さんは海賊だけど、海の向こうの大陸と貿易もするんだよ。あれはそうやって手に入れた品なの。で、あの布は向こうでもかなり珍しい品なんだって。だから、もう二度と手に入らないかもしれないよ。」
「ん?海の向こう?大陸?」
青冷めた。
地方の品はそんな簡単に手に入れる事は出来ない。だが、不可能ではない。それに対して大陸の品は―――。
「大陸の品だったの・・・・・・。」疑問が解け、喜ぶ。「どおりで今まで見た事が無い風合いだと思ったわ。肌触りも素晴らしくて。そんな貴重な布を下さるなんて、翡翠殿には後できちんとお礼を言わなきゃね。」
「そうだね、言った方が良いと思うよ。千歳に似合うのを翡翠さんが自ら探して贈ってくれたんだもん、千歳が気に入ってくれた事を知ったら、翡翠さんも喜ぶだろうから。」
花梨も嬉しそうに言った。

容姿。身分。学問。武芸。芸事。財力。どれをとっても最高水準の男達。何という人脈。さすが龍神の神子と言うべきか。
しかし貴族としての魅力、自慢、これ以外に何かあっただろうか?
『どう?』
『ううん、駄目。』
目配せで会話する女童と神子。大臣はそんな二人の様子に焦るばかり。
「そう、そうじゃ。ワシが引退すれば、息子が太政大臣の後を継ぐ。それは何もワシの嫡男、というだけの事ではない。それだけの人望がある、という証明でもあるのだ!」
早口で言い切った。
だが、神子は大臣ではなく横にいる女童に尋ねた。
「兄が、イサト殿の事を見直した、って言っていたのだけど、何の事だか分かる?あいつが貴族の人望を集めるなんて、と。」
『イサト?』
誰かがその名を言っていたな。
大臣は二人の会話を聞きながら記憶を探る。
「あぁ、その事ね。」花梨が頷いた。「ほら、貴族と庶民って仲が悪いって言うか、身分の壁があるでしょう?今までだったら話し合うなんて考えられなかったけど、そんな時にイサトくんが仲裁、橋渡しをしてくれるの。貴族の命令も庶民の要望もそれがどうして必要なのかをきちんと説明してくれるから、お互いに納得し、協力出来る。イサトくんのおかげで揉め事が以前と比べてかなり少なくなったんだよ。」
「まぁ。」
「思い出した!!」
大声が出てしまい、二人の視線が集まった。「いやいやいや、気にしないでくれ。」
頭をブンブン左右に振る男に不思議に思ったが、元々興味も無い事で、また二人の会話に戻った。
「庶民だけでなく、貴族からも信頼されているの。今ではイサトくん無しでは京は動かない、とまで言われているんだよ。」
「まぁ。兄上と一緒に悪戯して回っていたあのイサト殿が・・・・・・。」
「え?え?え?」千歳の呟きを聞き逃さず、瞳を輝かせた。「何?何?どんな悪戯していたの?」
「えっとね―――。」
小声で何かを話してはクスクスと笑い合う。
『イサト。あいつらが言っていたのはこいつの事か。』
検非違使や京識の奴らが噂をしていたな。民草は話を聞こうにも逃げてしまう。しかしこのイサトが仲介してくれるおかげで、強盗団のアジトを発見出来たとか、壊れた橋の修理を手伝わすのにも文句を言う輩はいなかったとか、親を失った童らに食糧を配給したおかげで貴族への印象が良くなったとか。今では何かあったらそのイサトに相談に行け、とも言われているほどだ。
そんな人望、我が息子にある筈が無い。あるのは太政大臣を務める家柄だけだ。

これ以上、我が息子自身に自慢出来るものは無い。では他に、何があるのか?
「ワシは優秀な者達と懇意にしておってな。その中には賀茂家随一の陰陽師もいるのだ。呪いや占いなら―――。」
「陰陽師なら泰継さんがいるもん。ね、千歳?」
『やすつぐ?』
賀茂家にそんな名の陰陽師がいたか?
首を傾げた大臣だったが、神子は女童に向かってにっこりと微笑んだ。
「花梨、泰継殿に口添えしてくれてありがとう。私の事も気に掛けてくださって、気が乱れているようだが何かあったか、と向こうから訪ねて来てくれるの。それに色々と相談にも乗ってくれるから、おかげで煩わしい事が随分と減ったわ。」
「煩わしい事?」
「えぇ。」声が小さくなる。「両親が、・・・ね。」
「あぁ、結婚か。なるほどね。」
こちらも小声になる。
この京は占いが生活・人生を決めると言っても過言ではない。髪を洗う日や出掛ける方角。そして、結婚相手、も。
しかし、時機が悪いとか一族が不幸になると占いに出れば、どんなに高い身分の相手でも結婚は認めない。
花梨が納得して苦笑いしている時、大臣は拳で膝を叩いた。
『思い出した!!』
泰継と言ったら賀茂家と争う一門、安倍家の陰陽師だ。その安倍家の中で100年に一人の天才と言われている。そして貴族達の評価は、賀茂家を含めた全陰陽師の中で随一の、だ。
その泰継と懇意ならば、他の陰陽師など必要無いだろう。


『ぐっ!』
大臣は膝に手を付き、俯いた。横目で、父親の怒りが伝わったのか、おどおどと落ち着かない様子の息子を睨む。
これと言って何の取り柄も無い息子だ。そんな事は最初から分かっている。しかし、たかが姫一人に、何一つとして興味を持って貰えるものがないとは情けない。
貴族としての存在価値を否定されたような屈辱感でいっぱいだった。