次の日。
花梨と幸鷹が頼忠にあちらの世界の説明をしている間、六人は紫姫を囲んでのんびりと話をしていた。
当然、話題は花梨達の事。

「色々とあったけど、花梨が元気になってくれて良かったな。俺、久し振りにゆっくり眠れたよ。」
イサトの言葉に全員笑うが、清清しい気分を味わっているのはみんなも同じく久し振りだ。
「それにしても花梨さんは何故、一緒に行って欲しいとは言わなかったのです?花梨さんがお頼みしたのなら、頼忠は絶対に断りませんよ?」
彰紋の疑問に、泉水が推測で答えた。
「断らないと解っているからこそ、言えなかったのではないでしょうか?物忌みでさえ呼びつけるようで頼めなかったお優しい方ですから。人生を変える、こんな重大な事はそう簡単には口には出せませんよ。」
「だったら、幸鷹が言えば良いのに。そうすれば簡単だったのにな。」
「その事でしたら幸鷹殿は申しておりましたわ。」紫姫が口を挟んだ。「神子様の世界では、多くの選択肢の中から自分で考えて選び取って生きて行くのだそうです。従う事に慣れている頼忠殿にとって、自分で考えて主張するのは非常に難しい事だろうと。だけれど、全てを捨てても神子様を追いかけるという難しい決断を、一人で出来れば大丈夫だろうと。」にっこり微笑んだ。「幸鷹殿はお優しいですわ。お二人の幸せを心から願っておられます。」
『『『『『『優しい?幸鷹が?』』』』』』納得出来ないが、紫姫があまりにも嬉しそうで口には出さない。『『『『『『幸鷹が願っているのは花梨の幸せだけだろうが。』』』』』』
頼忠が苦労すれば、花梨が心を痛める。それを避けたかったのだろう。それに、決断出来なければ花梨を独り占め出来た筈なのだ。
頼忠が決意した今、表情には出していないが心の奥底では残念に思っている事だろう。もしかしたら、怒っているかもしれない。
一緒に行く事が絶対に出来ない八葉からすれば、敗者の一人である幸鷹の抜け駆け失敗は嬉しいが。

「ところで頼忠の事だが、無事にあっちの世界に行けるのか?時空の狭間に落ちるなんて事、無いよな?」
さすが青龍の相方、勝真が頼忠を心配して泰継に尋ねた。
「問題無い。」
「本当か?絶対か?」
「問題無い。龍神が連れて行く。」
「どうして断定出来るのだい?」
泰継の言葉には希望など入っていない。翡翠は確信出来る理由を尋ねた。
「龍神が神子に約束した。想い人と共に帰れると。」
「そうか、良かった・・・・・・。」安堵のため息をつく。「じゃあ、頼忠にもそう言ってやれよ?未だに知らなくて不安だろうから。」
「幸鷹に口止めをされた。」
「「「「「へっ?何で?」」」」」
「それだけの覚悟をしろと言う事だそうだ。」
「「「「「はあ?」」」」」
「前回の神子様も違う世界から来られました。その時、想いを交わした八葉のお一人との事で大変苦しまれたそうです。相手の方は、例え時空の狭間に落ちようと試したいとおっしゃり、神子様と言い合いになられたと。その方と同じ覚悟をして欲しいとおっしゃっておられました。」
「そいつは一緒に行けたのか?」
「はい。龍神様が神子様の願いを叶えるとお約束して下さいましたから。」
「前回も八葉の一人と想いを交わしたのですか・・・。」彰紋が興味を持つ。「前回の神子の相手は誰だったのですか?」
「天の青龍だ。」
「「「「「えっ?前回も?!」」」」」
「前回の天の青龍だった方も神子様の警護をしておりましたから、傍にいる事が多かったのです。何時も傍にいてくれたから安心出来た、嬉しかった、と神子様はおっしゃっておられたようです。」
「頼忠と同じか。」翡翠は苦笑する。
「傍にいる時間が一番長い、ですか。」泉水が残念そうに呟く。「それでは警護の役目の八葉が神子と両想いになる運命だったのですね。」
「俺達に勝ち目は最初から無かった、という事か。」イサトは悔しそうに言うと、ばたりと仰向けに転がった。

「前回の神子の事、二人ともやけに詳しいのだね。」
八葉達の疑問にすらすらと答える二人に、不審を抱いた翡翠が探りを入れる。
「先代の地の玄武が残した日記を読んだ。」
「龍神の神子様のお役目に関する文献は色々ありますけど、個人的な事は星の一族の日記に書き残してありますの。秘密ですが。」
ん?書き置きが残っているという事は・・・つまり・・・・・・?
「あの・・・もしかして・・・紫姫と泰継殿は、神子が望めば神子の世界に他の者が一緒に行く事が出来ると・・・・・・最後の戦いの前から知っていらした、とか?」
泉水が恐る恐る尋ねれば、泰継は当然というような表情で頷き、紫姫はにっこりと微笑んだ。
『『『『『おいおい・・・・・・・・・、俺達が眠れないほど心配していたのは何だったんだよ?』』』』』
その時、遠くから花梨の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
五人はため息を付く。
『『『『『終わり良ければ全て良し・・・・・・そう思うしかないのか?』』』』』


「こんな所でお前らと話していたってつまらねぇ!」イサトがガバッと起き上がった。「花梨はもうすぐ帰ってしまうんだから、今の内に笑顔でも見て来よう!」
バタバタと足音高く駆け出して行くと、彰紋も後を追う。
「僕も行きます!」

『『『『あいつらは、向こうの世界でも花梨の側にいられるんだよな。』』』』
『あのお二人は、ずっと神子様のお側にいられるのですね。』
残された者達は顔を見合わせる。
『『『『『私も邪魔しに行こう!!』』』』』
そして、先を争って花梨の室に向かって走り出した――――――。






注意・・・ED後。
           見えない壁とは、花梨にとっては頼忠の花梨への忠誠心。
           頼忠にとっては幸鷹の企み。

ここまでお付き合い下さいまして、真に有難う御座います。
これでこの連作は完了です。中途半端な内容でエンディングの作品とするよりも、幸せな未来を想像出来るここで終わりに致します。
現代編は、一作品ごとの短編として書いていきます。その時、眼を通して頂けると嬉しいです。

後書き

2004/10/18 01:54:27 BY銀竜草