『罰ゲーム』



神子が怨霊を封印する力を得た数日後、紫姫が深いため息を漏らしていた。
「どうしたら・・・・・・。」
悩みに悩んだ末、ある結論に達する。
「こうなったら少々強引にでもっ!神子様の意思に背いても、神子様の御身をお守りする為ですわっ!!」


夕刻。
外出から帰宅して自分の室に戻った花梨は、供をしてくれた頼忠と勝真に礼を言い、供に付かなかった他の者達と挨拶を交していた。
「失礼致します。」
にこやかな笑みを浮かべながら紫姫が、御簾を潜り中へ入って来た。
「神子様、明日は物忌みで御座いますわ。」
「あぁ、そうなの?」と頷くと、八葉を見回して笑顔で言う。「じゃあ、明日はお休みです。ゆっくり休んで下さいね。」
「いえ、神子様のお力が増してきた分、五行の力に敏感になって来ていますので、これからは必ず八葉のどなたかに一日付き添って頂きたいのです。」
「花梨の物忌みがどうしたんだ?」
イサトが聞く。
「神子様の物忌みは私達のそれとは違うのです。神子様は五行の力に敏感なので影響を強く受けてしまうのです。そして、八葉はそんな神子様を守る力を、龍神様より授かっておられます。ですから、八葉のどなたかに一日中付き添って頂きたいのです。」
『『『『『『『『えっ?・・・・・・一日中、この少女の傍にいられる?』』』』』』』』
「今まで誰も付き添っていなかったのか?」
泰継が眉を顰めて問うと、
「えっ?今までは何の影響も無かったけど?」
と、花梨は不思議そうに答える。
「今までとは事情が違います。神子様は益々清らかにおなりです。どんな悪影響が襲い掛かるかと思うと・・・・・・・・・。」
紫姫が涙目で訴えれば、こんな紫姫に弱い花梨はうろたえる。
「えっと・・・・・・。」
「なぜ誰も呼ばなかったのだ?」
泰継が再び聞くと、更に慌てふためく。
『神子って信じてくれていない人達との気まずい会話って嫌だったんだもん。逃げ場は無いし・・・。って、そんな事言えないよね・・・・・・?』
「んっと・・・まだ生活に慣れていなくて疲れていたから、ゆっくり眠りたかったの。」
他の人がいたら眠る事出来ないから!と続けると、その取って付けたような答えに、翡翠が眉を上げた。
「おや?お望みならいくらでも添い寝して差し上げたのに。」
「翡翠殿!」
「翡翠・・・・・・。」
間髪入れずに幸鷹が叫び、勝真がため息をつく。
「それに、皆忙しいでしょう?こういう時位、自分の用事を片付けたり、ゆっくり休んだりして欲しかったし・・・。」
プライバシーという言葉の代わりが無いこの世界では、一人になるという時間も無くて。人目を気にせずゆっくり寛ぐ事の出来るこの貴重な日を、取り上げられたくは無くて必死に思考を巡らせるが。
「八葉の役目以上に大切なものはありません。」
「八葉は神子の為に存在する。気にせず存分に使え。」
「花梨がそんな事を気にする事は無いぜ?」
「嫌なら断るさ。」
「貴女のお役に立つのなら喜んで。」
努力の甲斐も無く、決定事項となる。

『八葉の全ての方から大切に思われている事に、神子様ったら、全くお気付きになられていないなんて・・・・・・。』紫姫は内心ため息を付く。
そして、何時までも続く堂々巡りの会話に終止符を打つべく、問い掛ける。
「それで、誰に付き添って頂きますか?」

俺を、私を、僕を、という沢山の強い視線を浴びた花梨は怖じ気付いてしまう。
『うっ・・・・、何か怖いよ〜〜〜。』
「じゃあ、ヒマな人は・・・・・・?」
「俺は明日非番だ。」
「特別重要な仕事はありません。」
「神子を守る事以外、大事な事は無い。」
「・・・なら、疲れている人は?傍にいるだけだから、休めるだろうし・・・。」
「最近、八葉の役目でずっと動き回っていたな。」
「宮様や時朝殿の様子を探っていましたので・・・・・・。」
「過去の龍神の神子の事が書かれている書物を探すのも大変でした。」

『今まで誰も呼ばれていないって事は、この少女にとって特別な想いを抱いている相手はまだいないと言う事か?それなら、自分がその『特別な人』になれる可能性があると言う事だな・・・・・・!』
一日中二人きりでゆっくり親睦を深められる、この絶好の機会に何とか自分を選んで貰おうと、花梨に色々とアピールするのだが。
周りの顔色を窺い様子を探り合う、その緊張感漂う雰囲気を花梨は読み間違える。
『・・・・・・喜んで、とか言っているけど、本当は嫌なんだろうなぁ・・・・・・・・・。』
紫姫を泣かせない為にどうしても一人選ばなくてはいけないのなら―――頭をフル回転させる。そして思い付いた答えは――――――。
「ゲームをしましょう!」
「「「「「「「「げえむ?」」」」」」」」
「はい、簡単な遊び、勝負です。で、一番負けた人に罰ゲームとして、明日一日付き添って貰います!」
うん、これなら文句無しだね、と一人頷く花梨。
それに対し、勝負事と言ったら負けず嫌いを絵に描いたような男八人は、一瞬動揺するが。『これもこの少女の為、たまには負けるのも・・・・・・・・・我慢だ・・・・・・!』
「で、その『げえむ』とやらは何をやるのだ?」
「こちらの勝負事だと、得意不得意がそれぞれあって不公平になってしまうので、私の世界のゲームをしましょう。全員が初めてだから、負けても文句無しです。」
「ほう?面白そうだ。」
「神子の世界の遊びですか。」
「それなら、皆同じ条件だな。」
全員が賛成してくれたのを確認する。「では、ルール、遊び方の説明をしますね?」


花梨は紫姫とのんびり白湯をすすりながら、図体のデカイ男八人が輪になり、頭を付き合わせてゲームをしているのを、楽しげに見物していた。
数字を叫んでは握った拳の親指を上げ下げしている光景は、面白くて。最初は、周りを窺いながらの落ち着いた雰囲気だったのが、進むにつれてどよめきが大きくなり白熱した戦いへと変化していく。
「これって子供の遊びなんだよ。でも、みんな真剣だね?」
「見ているだけですけど、楽しゅう御座いますわね。」

手が一本、二本と減るにつれ・・・・・・・・・緊迫感溢れるものとなり。
「「・・・・・・・・・・・・・・・。」」

一人、二人、減ると・・・・・・・・・。
「・・・神子様・・・何やら不穏な空気が致しますが・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

更に、一人、二人抜けると・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・。」
紫姫が怯えた表情で花梨にしがみ付く。
そんな紫姫を守るように、でも自分も幼い姫にすがり付いて。
『・・・・・・・・・怨霊と戦っている最中よりも怖い雰囲気なんですけど・・・・・・・・・。』

そして更に、一人、二人と抜けると・・・・・・・・・・・・!

残ったメンバーの二人は、殺気みなぎる視線を交し合っていて。
その二人を取り囲むのは、負け続けているのを羨まし気に、憎憎しげに睨みつける、勝ち抜けしてしまった六人・・・・・・・・・。

『私が・・・神子様が断れないように、八葉の皆様がいらっしゃる所で物忌みの件を話したばっかりにこんな事になるなんて・・・・・・・・・。』
紫姫の瞳から涙が溢れ落ちる。
『私の物忌みの付き添いって、そんなに嫌なの・・・・・・・・・?』
花梨は勘違いをして落ち込む。


一人が数字を読み上げ、勝負が付いた瞬間、怒号が飛び交う。
そして、勝負に負けた筈の勝利者が、
「それでは、明日の付き添いは私が務めます。」
との言葉と共に満面の笑顔を向けたが――――――少女二人は、張り詰めていた緊張の糸が勝負の終わった瞬間ぷっつりと切れ・・・・・・意識を失い抱き合うように倒れていた――――――。






注意・・・第3章初め。
 
数字を読み上げては親指を上げ下げして、読み上げた数字と立ち上がった指の数が同じなら、一回目は片手を、二回目は勝ち抜け・・・というゲーム。
名称は・・・・・・何?私、知らないのですが・・・・・・。物知りの皆様、どうか教えて下さいませ。

さて・・・勝利者はどなたでしょう?

2004/03/18 16:57:17 BY銀竜草