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頼忠が、呪詛の書かれた板に触れようとした時、眩い光に包まれ思わず目を瞑り、手が止まる。 清清しいほどの気が流れ込み、驚いて目を開けると青龍と―――霊獣に掴まる花梨の姿があった。 青龍から離れると、花梨は優しく微笑みながら頼忠に近づく。 「勝真、明王と青龍を呼べ!」 「はっ?いきなり何を言っているんだ?」 「いいから早く呼べっ!」 何事にも動じない、冷静な泰継の切羽詰った様な必死の形相に、それ以上何も質問する気持ちになれず、ただ、おう、と頷いた。 「東天小陽、木の気よ。集え、我らのもとに。降三世明王、我らに力を!」 眼を見開いたまま固まって動けずにいる頼忠の傍に膝を地面に付け、瞳を見つめる。 「東天を守りし聖獣青龍よ、破魔のくさびを射ち込め!」 頼忠の唇に唇を重ねる。 現れた明王とその場にいた青龍が、眩い光と清清しい気を花梨と頼忠に送り、二人を包んだ瞬間。 二人が同時に呪詛の種に触れ・・・・・・・・・更に強い光が二人を覆った・・・・・・・・・。 その光がやわらぎ、目を覆っていた手を外して目を開く。 そこには・・・抱き合うように重なって倒れている花梨と頼忠の姿があり――――――。 呪詛の種であった木の板と、花梨のブレスレットは・・・粉々になっていた・・・・・・・・・。 帝の元に、 「呪詛を祓う事には成功。神子と天の青龍は重体。」との報告が入った。 帝は人払いをし、しばらく考え事をしていたが、ある結論に辿り着くと文を書き、四条の尼君の屋敷にいる彰紋と泉殿にいる院の元に、密かに送った。 『神子・・・・・・・・・!』 十日後。 帝の元に参内した彰紋と幸鷹が「龍神の神子死去」の報告をした。 そして、二人のあまりのやつれようにしばらくの休養を言い渡した。 院の元に参内した泉水が「龍神の神子死去」の報告をした。 こちらも、あまりのやつれように、しばらくの休養を言い渡した。 そして、しばらくの間、四条の尼君の星の一族の下と、武士団の棟梁の屋敷で療養している頼忠の下に、青い顔をした八葉達が足繁く通う姿が見られた。 その頃。 行方不明だった陰陽師の遺体が、大文字山の奥深い所で見つかった。 喉元をかきむしったような傷跡が多数あり、苦しみながら死んだ事が想像された。 そして、一人の女御が内裏から退出された。 出家し、吉野山の山奥の小さな屋敷でひっそりと暮らしているとの噂が流れた。 姉君とその恋人だった男の霊を供養していると。 一ヵ月後。 武士団では、体調が回復した頼忠が少しづつ稽古を開始し、仕事復帰も近いだろう、との噂が流れていた。 そして。 「そう言えば、お前聞いたか?棟梁の隠し子の噂。」 武士団の若い者達が、稽古を終えて休憩している時にこそこそと話し合っていた。 「おう、びっくりしたぜ。あのお堅い、真面目な棟梁が、だろ?」 「あの奥方以外にこっそり通っている女がいたなんてよ?信じられないぜ。」 棟梁も男だったんだな、と言って忍び笑いする。 でもさ、と急に真面目な顔になる。 「母親が死んじまって、身寄りが無いからって引き取ったんだろう?奥方様、怒らないのか?」 「あぁ、俺もびっくりしたんだけどさ、大丈夫だったんだよ。ほら、子供一人もいないだろ?娘が出来たって大喜びなんだよ。それこそ、棟梁にも会わせず付きっ切りで離れないんだってよ?」 「えっ?離れない?」 「そう、棟梁が通わなくなった後、色々苦労したとかで病弱なんだってさ。奥方様自ら看病しているんだよ。」 「あぁ、だから陰陽師がよく来るのか。・・・・・・あの陰陽師、気難しいって評判だろ?よく来てくれるな?」 「頼忠の知り合いだよ。頼忠を診る時に、こちらもお願いします、と頼み込んだらしいぜ。頼忠も頼んだらしいしな。」 ふぅ〜〜〜ん・・・と頷きあう。 ふと、一人が思い出したように言う。 「棟梁に息子がいないって事は・・・その娘御の心を射止めれば次期棟梁になれるのか?」 あぁ〜、と他の一人が苦笑いする。 「もう無理だよ。棟梁のところに報告しに来た頼忠に一目惚れしたらしいぜ。」 「「「またあいつかぁ!?」」」口々に唸り、舌打ちをする。 「まぁ、見た目は良いからな。」やっかみ半分、嫌味っぽく言う。 「で、頼忠はどうなんだ?」 「どうだろうな?棟梁にさえ会わせないんだから、まだ会った事無いんじゃないか?意に沿わぬ結婚をするような男じゃないからな。」 「じゃぁ、まだ狙えるかな?」 「あの頼忠に張り合うのか?まぁ、気の済むまで頑張れよ。」 無理だと思うがな、と付け足し、みんなで笑い合う。 |