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本当なら身分卑しい地下人や庶民など、内裏に出入りする事など許されないのだが、神子の危機という緊急の事態で特別に許可が下り、八葉が神子の元に集まった。 泰継が診ている間、八葉が待つ隣の室は重苦しい雰囲気に包まれていた。 「泰継!」 「「「「泰継殿!」」」」 「泰継殿・・・。」 「・・・・・・っ!」 「呪詛だ。」 御簾を潜って入ってきた泰継は、厳しい表情で完結に言った。 言葉も無く驚く八葉の仲間に説明を始める。 「穢れは払ったから、意識を取り戻した。今は休んでいる。」 と言うと、安堵でホッとした空気が流れる。 だが、泰継は顔を曇らせ、 「かなり強い呪詛で払いきれない。呪詛の元となっている種を見つけて取り除かねばまた倒れる。このままでは神子の命が危ない。」 泉水を見ると、 「泉水、笛を吹け。この場一帯を清め結界を張る。」 とだけ言うと、さっさと御簾の外へ出て呪を唱え始める。 慌てて御簾の外へ出、吹き始めた笛の音を聞きながら残りの八葉が話し始めた。 「呪詛って事は、誰かに恨まれたってことか?」 「花梨は恨みをかうような奴じゃないぞ?」 「・・・・・・・・・・・・。」 「心当たりでも御ありかな、別当殿?」 「・・・・・・心当たりと言うわけでは無いのですが・・・・・・。」 「はっきり言えよっ?今は花梨の身が危険なんだぞ?」 真っ赤になって怒鳴るイサトに、幸鷹の代わりに彰紋が説明する。 「あの、噂があるのです・・・。帝が花梨さん、神子の入内を考えているのではないか、と。いえ、帝は一度も口にしたことはありませんが、花梨さんの滞在が伸びているのはそれが理由だと。」 「な・・・・・・っ!!」 「結局のところ、貴族の権力争い、ということか・・・・・・。」 勝真が呆れた様に呟いた時、泰継と泉水が戻ってきた。 「今、神子を動かす事は出来ない。物忌みの時と同じように、神子の傍に八葉の誰かが必ず付き添え。夜中もだ。」 と言うと、呪詛の場所を占ってくる、と帰ってしまう。 「帝に説明をしてきます。」 「院に報告を。」 「紫姫にも知らせないと。」 「千歳は何か分からないかな・・・?」 「呪詛をかけた人間が誰か調べてみます。」 次々退出する中で翡翠は、思わせぶりな表情で頼忠を見つめる。 「さて、私も忙しい身の上だから後は宜しく頼むよ。」 と言うと、考え込んでいる頼忠を残し立ち去った。 「神子殿、失礼致します。」 御簾の外から声を掛けるが返事は無い。一瞬躊躇するが御簾を潜る。 花梨は単姿で褥の上に座り、白い顔をして膝の上に載せた手を見つめていた。 「神子殿・・・。」もう一度声を掛けるが返事は無く。 しばらくその状態の花梨を見つめていたが、頼忠は近寄ると花梨の手を握った。 ピクッとやっと反応した花梨が、戸惑いと怯えの混じった瞳で見上げる。 『・・・泰継殿は、全てを話したのか・・・・・・。』 少女を優しく引き寄せて抱き締める。 『頼忠さんの傍にいたいっていう願いは私の我が儘だったの?』 『この世界に残って欲しい、という望みは神子殿を不幸にする事だったのか?』 彰紋が帝への報告を終えて戻り、御簾に近づき声を掛けようとした時、肩をそうっと叩く人に驚き振り返ると、翡翠が口元に一本の指をあてていた。 「頼忠が傍にいるから。」 彰紋は、今は二人だけにしておこう、と続ける翡翠に頷き、泣き声が漏れて来る御簾を見つめる。『貴女を守るから。守るから、だから泣かないで・・・・・・。』 頼忠は、しがみ付き泣く花梨を強く抱き締めていた。 『貴女をお守り致します。どんな事をしてでも、この命に代えても、この私が貴女をお守り致します・・・・・・。』 花梨はこの時、自分の事で精一杯で、頼忠の心の中での誓いに気付かなかった・・・・・・。 |