『―――快気祝い―――』



褥の上で上半身を起こした花梨は、身振り手振りで頼忠に報告する。
「鼻良〜し。くしゃみ、咳無〜し。頭痛も全身のダルさも無〜し。」
頼忠は自分と花梨の額に片手ずつ置き、熱が無い事を確認する。「熱もすっかり下がったようですね。」
「ね?」にっこり。期待を込めて見つめる。「風邪は完全に治ったでしょう?大丈夫だよね?」
「そうですね。」にっこり微笑み返す。「これなら起きても宜しいですよ。」
「やったあ。汗いっぱいかいたから気持ち悪かったんだ。お風呂に入ろうっと♪五日ぶりだよ〜〜〜。」
「・・・・・・・・・。」大はしゃぎしている妻を優しい瞳で見つめていたが、その眼がきらりと妖しく光った。「では。夕刻、私もご一緒致します。」
「え?」
「万が一、御気分が悪くなりましたら困りますから、念の為。」
「一緒・・・・・・?お風呂に一緒に入る?」真面目な顔でそう言う夫の顔をまじまじと見つめる。が、ようやく理解した。「大丈夫です。ご心配要りません。一人で大丈夫ですから!」
首を振りながら何故か丁寧語で叫ぶ。
「そうですか?本当に大丈夫で御座いますか?」
疑っているようで、じっと見つめている。
「はい、すっかり完璧に元気です。」
「まぁ。今日は早く帰れる予定ではありますが、はっきりとした時刻など分かりませんし・・・・・・。」
考えながら言葉を選んで話す。
「うん、そうだよ。湯浴みの準備って簡単には出来ないし、女房さん達に迷惑を掛けちゃうのも嫌だし。それに、夕刻過ぎると気温が下がって寒くなるもん。」納得させようと必死だ。「ね?風邪がぶり返すと困るから、暖かい内に入りたい。」
「そうですね。」にっこり。「私の帰りを待たずに湯浴みを済ませておいて良いですよ?」
「はい!そうさせて頂きます。ありがとう御座います!」
熱心にお礼を言う。
「充分に温まって満足するまで―――。」
「ピカピカに磨き上げますっ!」
反射的に答える。
「では、準備を整えてお待ちになっていて下さいね?すぐに戻りますから。」
嬉しそうにそう言って立ち上がった。
「分かりました。早く帰って来てね、待っているから♪」にっこり。だが。「――――――ん?準備?」
「楽しみにしております・・・・・・・・・。」
耳元で囁くと、クエスチョンマークを飛ばしている花梨を置いてさっさと出掛けて行った。



湯浴みの準備を頼むついでに、花梨は女房に相談した。
「ねぇ。準備って何を準備すれば良いの?」
「まぁ・・・・・・・・・。」話を聞いた女房、花梨の手を握り締めた。「花梨様のご無事をお祈り致しておりますわ。」
「ありがとう。」握り締められた手を見つめる。「って、何を祈るの?いや、そういう事を訊いているんじゃなくて。」
「そういう事ですわ。」同情の眼差しで見つめる。「花梨様がご自分で仰ったので御座いましょう?磨き上げてお待ちしている、と。」
「うん、言った。磨き上げて待って・・・・・・い・・・る・・・・・・・・・?――――――あっ!」しまった。宣言してしまった!!さぁーーーと血の気が引いていく。「って、そういう意味で言ったんじゃないっ!」
売り言葉に買い言葉、とは違うが、でもそんな感じでつい勢いで宣言してしまった。
「もう遅いですわ。」首を振る。「でも、ご安心下さいませ。精の付くお料理に薬湯、沢山準備しておきますから。」
力強くそう言ってにっこりと微笑む。
「薬湯・・・・・・・・・?」嫌な予感。不安が募る。「私、病み上がりなんだけど・・・・・・。」
「そうですわね。」
「よ、頼忠さん。手加減って言葉、知っているかなぁ・・・・・・・・・?」
「さぁ?」首を傾げる。「期待しない方が宜しいかと。」
「・・・・・・・・・。」



翌朝。
嫌な予感は的中。女房の予想通り、花梨は褥に逆戻りとなっていた。
つまり、女房の祈りは通じなかったが、準備した『物』は大活躍だったそうな・・・・・・・・・。






注意・・・風邪で寝込んでいたのは花梨ちゃん。
      で、その快気祝いを貰ったのが頼忠って・・・・・・さすがだ(苦笑)。

くしゃみしながら何を考えているんだ、銀竜草よ?

2005/12/07 02:23:15 BY銀竜草

『―――好み―――』の続き、では無いけれど、この二人の話なので。
※妻花梨ちゃんの墓穴シリーズ(笑)第6弾!

2006/09/18 0:21:56 BY銀竜草

『―――きすまーく―――』に続く。

2006/10/01 0:29:50 BY銀竜草