『―――好み―――』



花梨は鏡を見ながらため息を付いた。
「あぁ〜あ、もっと美人な顔で産まれたかったな。」
でも、この顔は母親にそっくりだ。お母さんもおばあちゃんにそっくりだったって言っていたから、先祖代々こういう顔の家系なのだろう。文句を言っても仕方が無い。でも、頼忠と一緒にいても夫婦には見えないらしく、女の人が頼忠に誘いの視線を送ってくる。私が頼忠の妻だと言っても、鼻で笑われてしまう。もう少しだけでも大人っぽかったならば、頼忠に恥をかかせるような事は無かったのに。
「はぁ〜〜〜。」
何度目かのため息を付いた時。
「花梨殿?何をそんなに悩んでおられるのですか?」頼忠が心配そうに近寄って来た。「この頼忠でお役に立てる事はありませんか?」
「悩みって言うかねぇ。美人になりたいなって思っただけ。」
「美人に?」首を傾げる。「突然、どうなされたのです?」
「ほら、私って見た目も中身も子供っぽいでしょう?頼忠さんの隣にいても釣り合うような女性になりたいの。他の女の人が納得して諦めるような。」
「私と釣り合う?」
その清らかな魂に触れ、一途で澄んだ瞳に見つめられれば、どんな男であろうと心は奪われてしまう。そんな魅力に溢れた花梨が何を言っているのだろう?花梨が頼忠と結婚したのに諦めない男が七人もいる。その男達に、花梨に相応しい男は頼忠だと認めさせようと、こっちが日々精進を続けなければならないと言うのに。
「頼忠さんって格好良すぎるんだもん。ちょっかい出して来る女の人に負けない女性になりたいの。」
「こんな口下手で無愛想な私なんかを相手にしようなどと言う変わり者の女人は、貴女だけです。」花梨以外の女など眼中に無くて全く気付いていない頼忠は、苦笑して言った。「貴女は充分可愛らしいのですから、何も変わる必要なんて御座いません。」
「この容姿を可愛いと言う変わり者の男の人は、頼忠さんだけです。」七人がどんな誉め言葉を言おうが、こちらもお世辞としか受け取っていない花梨が苦笑して答える。
「そうでしょうか?」少女の頬に手を添えると、チョンと唇を一瞬だけ重ねる。「貴女のお顔は、私の好みそのままです。」チョン。「貴女以上に可愛らしい女など、見た事ありません。」今度はじっくりと、思う存分味わう。そして――――――。


「花梨・・・・・・。私は貴女のお顔が好きですよ?」顔中に口付けの雨を降らせる。「容姿などでお悩みになるのは止めていただけませんか?」
「もう・・・頼忠さんったら。」困ったような、照れ笑いを浮かべながら答える。「頼忠さんが好きなら、気にしません。」
どんな美人になろうが、頼忠の好みじゃなければ意味が無い。こんな顔で良いなら、これで満足しよう。
「ありがとう御座います。」
こんなつまらない事で悩んで欲しくない。何より、今以上に男の心を奪うようだと、神経が持たない。頬を紅く染めた微笑みが可愛くて、つい、また唇を重ねてしまう。そして、抱き締めている柔らかな身体の感触に、無意識のまま反応してしまう。
「頼忠さん?―――ちょっと待って、頼忠さん!」
花梨は焦って頼忠の背中をポカポカ叩くが、熱を持った身体は抑えようが無い。
「申し訳ありませんが、こんな可愛らしい表情をされては待てません。」熱と共に想いを伝え始めてしまう。「貴女に夢中なのです・・・・・・・・・。」
『きゃあ〜〜〜!』
愛しい女(ひと)の心の悲鳴は聴こえたが――――――。



次の日。
昼過ぎになってようやく起きられた花梨、やっぱり美人になりたいと強く思った。
「好みすぎても困る。少しは冷静になってくれないと、私の身体が持たないっ!」






注意・・・『―――花梨の疑問―――』の続き。

あぁ〜あ・・・。前回、強引無理矢理に大人しくさせたのに、やっぱり『狼』に戻っちゃった(涙)
頼久だと紳士で考えられるのに、頼忠だとどうしても『狼』になってしまう。そう、悪いのは『頼忠』です。私はちっとも悪くありません。(責任転嫁)
・・・今頃気付いたけど、こんな悩みを抱いていると言う事は、花梨の疑問は解決していないと言う事ですよね?

2005/04/11 21:02:15 BY銀竜草

この二人の話『―――快気祝い―――』

2006/09/18 0:22:20 BY銀竜草