『―――頼忠流暑さ対策―――』 |
蒸し暑い夏の夜。 「花梨殿、失礼致します。」 自分の家だとしても妻の部屋に入る時には丁寧に挨拶をする頼忠が、一礼をして顔を上げた瞬間。 「か・・・りん、殿?」 何時もなら笑顔で駆け寄ってくる花梨が、今日は近寄りもしない。それどころか、もの凄い表情で睨む瞳に出会い、戸惑った。 『お怒りになられている・・・。私は何か、花梨殿の気に触るような事をしたのか?』 失態をしたのなら謝らねば、とも思うのだが、何が原因だか解らなければ謝りようが無い。しかも、何にでもすぐに謝罪する頼忠を花梨は嫌がるから、怒った花梨を宥めるのは、そう簡単にはいかないのだ。 「花梨殿・・・どう――――――。」 「黙って。考え事をしているんだから。」 「・・・・・・・・・・・・。」 怒っている原因を尋ねようとしたのだが、言葉を遮られては口を閉じるしかなく、沈黙が流れる。 頼忠にとっては一刻もの時間が流れたような気がした時、やっと花梨が表情を和らげた。「だめだ。我慢しよう。」 「花梨殿?」 「頼忠さんは絶対に動いちゃダメだからね?良い?」 「は・・・い。」 よく解らないが、一応返事をしておく。 と、その返事に満足をしたのか、花梨は立ち上がると頼忠の隣に歩み寄り座る。そして、頼忠の左腕を抱き締めると、ぽすっと肩に頭を乗せた。 「???」擦り寄って甘えてくれるのは嬉しい。嬉しいのだが、先ほどの表情は怒っているのではなかったのか?そして、動いてはいけないとはどういう事なのか? 「花梨殿?」 「うん?何?」 「お怒りだったのではないのですか?」 「ちょっと違う。」 「???」怒っていない?それならば―――。 妻を抱き寄せようとしたのだが。 「やだっ!」大声を出して頼忠の腕から逃げようとする。「動いちゃダメって言っているでしょう!?」 「花梨殿?」 「もう!暑い!」口を尖らせる。「ただでさえ気温が高いのに、頼忠さんに抱き締められたら余計に暑くなっちゃう!だからダメっ!」 「・・・・・・・・・。」 「全くの離れ離れはもっと嫌だから、これで我慢しているの。」 膝から降りると、先ほどと同じように隣に座って頼忠の腕を抱き締めた。 「・・・・・・・・・。」 暑い暑いと騒ぐが、夏は暑くて当然。 そんな事で、この愛しい妻に疎まれるのは納得がいかない。 抱き締める事が出来ないのは、我慢ならない。 それに―――毎夜、一緒に沢山の汗をかいているではないか。 とは言え、嫌がる事はしたくは無い。 しかし、せっかく逢っている貴重な時間を無駄にはしたくは無い。 どうしたら良いのか――――――? 「京の夏って大変なんだねぇ。エアコンが無いのは当然だとしても、服は暑っ苦しいのを何枚も重ね着しているし、水遊びなんて問題外だし。」愚痴が尽きる事は無い。「せめて毎日お風呂に入れれば良いのに。」 『水遊び?お風呂?』 その瞬間。 頼忠の頭の中に、『頼忠的素敵な妄想』が浮かんだ。 「花梨殿。」強引に妻を抱き締める。 「えっ?」普段なら絶対に嫌がる事などしない夫のその行動に、花梨は怒る事も忘れて顔を凝視する。 「そんなに暑いのなら。」抱き締めたまま立ち上がる。「湯浴みの準備は間に合いませんが、水浴びならば出来ますよ。」 「えっ?水浴び?」一瞬喜んだのだが、花梨の瞳に飛び込んできたのは、頼忠の魅惑的な、と言うよりも、何かを企んでいる妖しい笑顔。 「・・・・・・頼忠さん、何考えています?」恐る恐る尋ねれば。 妖しげな笑みに、更に誘惑するような流し目まで加わって。 「ご一緒に・・・・・・・・・。」耳元で囁き歩き出した。 勿論、目的地は―――『湯殿』。 「ちょっと待って!待ってったら!」慌てふためいて頼忠の肩をぽかぽか叩く。「ねぇ、ウソでしょう?冗談でしょう?」 頼忠は、この愛しい少女を抱き締める為ならば何でもしよう、との誓いを立てていたりする。 そして、この暑さをどうにかしなければいけないのなら・・・・・・・・・! 「今宵は一段と暑いですから、水浴びは気持ち良いでしょうね。」楽しげに微笑む。 「今日はしない!したくないから!」 「涼しくなりますよ?」 「大丈夫!まだ我慢出来ますっ!」 「ご遠慮なさらずに。」 「遠慮なんてしていませんっ!」 どんなに花梨が抵抗しようと、妻にベタ惚れの夫を止める事など不可能で――――――。 単なる水浴びにしては長い時間が過ぎた頃。 湯殿から出た頼忠は、これ以上は無いというほどの幸せな表情をしていたが。 あれほど騒いで抵抗していた妻は、と言えば、行きと同じく帰りも夫に抱きかかえられていた。――――――疲れきり完全に眠って。 褥に優しく寝かせ、自分も隣に横たわる。 すると花梨は「頼忠さんのばか・・・・・・。」と寝言を呟き擦り寄ってきた。 「馬鹿、か・・・・・・。」 その通りだと思う。 今まで剣と同じく、精神も鍛錬してきた筈なのに。 今まで自分の感情を押し殺し、何も考えず、何も望まずに生きてきたというのに。 この少女に関する事では、何の効果も意味も無かった。 同じ家に住み、毎日その姿を見て声を聞いているというのに慣れる、という事が無い。 それどころか、この少女に恋焦がれ、求める想いは激しさを増していく。 「明日からは、もう少し手加減した方が良いかな。」幾分、反省するように呟く。「しかし、可愛らしい貴女を見ると、我を忘れてしまいます。」 愛しい妻を抱き締めると、頼忠は目を閉じた。 そして。 余程気に入ったのか、次の日からは。 頼忠が仕事の都合で帰れない日以外は、夜に水浴びをする習慣となったのだが、必ず二人一緒という事で・・・・・・花梨が喜んでいるかどうかは――――――。 注意・・・『―――妻としての役割―――』の続き的な話。 花梨ちゃん、墓穴シリーズ第3弾。(何時の間にシリーズに?!) 暑くて暑くて、頭の中が溶けております。で、私が水浴びしたいだけだったり・・・します。 少し日本語がオカシいですね。まぁ、何時もの事なので気になさらぬよう・・・・・・。 2004/07/11 21:27:40 BY銀竜草 |
隠しでUPした作品と同じです。壁紙と後書きだけ変更しましたが。 |