『―――喧嘩〜数年後〜―――』



「あたしね、おおきくなったらちちうえとけっこんするっ!」
頼忠の膝の上に座り、大きな瞳をキラキラと輝かせて宣言する娘。母親似でクルクル変わる表情豊かな女の子だが、可愛い原因はそれだけではない。
「おっ!可愛い事言ってくれる。」ぎゅっと抱き締める。「楽しみにしているな♪」
「うん♪」
「あら?頼忠さんったら、心変わりをするの?」頼忠の妻が、胸に手を当ててわざとらしい怒った顔で睨む。「私は許しませんわよ?」
「それは困りましたね。」今度はこちらも、わざとらしくおろおろとした表情を作る。
「いやぁ!ちちうえさまぁ〜〜〜、もみじとけっこんするのぉ!」

どこの家庭でもよく見かける、仲の良い夫婦と幼い娘の他愛も無い会話。
なのに。

「父上も母上も、幼い紅葉をからかってはいけません。」水を差すような事を言う人物あり。「何をやっているのですか。」
頼忠と花梨は、顔を見合わせて笑う。
「だって。ねぇ?」
「そうですね。」
それなのに。
「父上は母上と夫婦だよ。紅葉とは結婚出来ません。」
兄が真面目な顔をして小さな妹に説明してしまう。
「忠直・・・・・・。」花梨は苦笑する。
「ヤダぁ!ちちうえがいいのぉ〜〜〜!」
半べそになって反論する妹に。
「父と娘は結婚出来ないの。そう言うものなんだよ。」妹の側に寄ると頭を優しく撫でる。「僕だって母上とは結婚出来ないのだから。」
「なんでぇ?」
「何ででも。」
「でうしてぇ?」
「どうしてでも。」
「ふぇ〜ん!にいさまのいじわるぅ〜〜〜!」
ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出した妹に、忠直は自分の着ている衣の袖で涙を拭く。「だからね、忠直と結婚しよう?」
「はっ?」
「えっ?」
両親の驚きを全く気にする事も無く。
「兄さまの事は嫌い?」
「うぅ〜ん。」首を振る。「すき・・・・・・。」
「良かった。僕も紅葉の事、大好きなんだ。」にっこり微笑む。「おいで?」父親から自分の膝に移動させると抱き締める。


「忠直は兄妹で結婚出来ると、本気で信じているのか?」
頼忠は妻ににじり寄って尋ねるが、花梨には答えられない。
「兄妹で仲が良いのは良い事だけど・・・子育て、何か間違ったかしら?」
「いえ・・・賢くて真面目、素直な優しい、良い子に育っていると思いますが・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
顔を見合わせていると。

「僕は紅葉の事、大切にするよ。父上のように、妻を困らせるような事はしないからね?」

「えっ!?」一人絶句する者あり。「あの・・・私は貴女を困らせておりますか?」恐る恐る妻の顔を覗けば。
「えっとぉ・・・有るような無いような・・・・・・・・・。」馬鹿正直な花梨、もごもごと答える。
「・・・・・・・・・・・・。」

「ははうえのようにたいせつにしてもらえるなら、かんがえてもいいよ。」
「本当?」
「うん。でも、ちちうえのようにわがままはいわないでね?」
「うん、我が儘なんて言わない。約束するよ。」
「じゃあ、なってあげる!」
「りっぱな一人前の男になって紅葉を迎えられるように、兄さま頑張るからね。もう少し待っていてね?」
「うん!」


「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
兄と妹の二人が仲良く人形遊びを始めたのを見守る親二人、共に悩みは深いが、頼忠と花梨の悩みは違うのであった――――――。






注意・・・『―――喧嘩―――』の続編。
     妹の名前は「紅葉」・・・センスありませんな。

そんな事より、続きなんて書くなよ・・・・・・。

2004/11/06 15:04:25 BY銀竜草

続き、書いちゃいました。『―――似た者親子―――』

2005/04/07 21:23:52